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真鶴出版の「小さな泊まれる出版社」を読んだ。
神奈川県を東京から海沿いにずっといく。そしてあともう少しで静岡県というところに真鶴町がある。県境の神奈川側は湯河原で、静岡は熱海と昔ながらの温泉街があるが真鶴には温泉が出ない。そんな温泉地まであと三キロという真鶴駅で下車した。
東海道本線といえばぼくの中では濃いグリーンの車体にオレンジ色のラインが入ったぼってりとした電車が思い浮かぶ。いったいいつの話をしているんだというほど昔である。いまやどの車両もステンレス地に路線ごとの色のラインがついているだけになって久しい。電車は速度以外の性能が飛躍的に向上した。がたんごとんという振動は遠い昔の郷愁になった。ロングレールの採用とサスペンション性能がよくなって足に響く振動はほとんどない。ただ耳を澄ませば懐かしいがたんごとんを遠く聞くことができるだけだ。
横浜から乗った下り列車に乗客はそこそこ多く、小田原を過ぎてもガラガラにならなくてちょっと意外だった。グリーン席を買ったらと知人に勧められたが買わなかった。案の定娘はじっと座っていることができなくて立ち上がってはうろうろしだした。買わなくて正解だった。以前新幹線で子どもが座ってられないので通路でずっと立っていたのが辛くて覚えていたのだ。
真鶴に来た理由はこちらに書いたので割愛する。
ぼくら家族も都内から移住した組であるが、それでも自然あふれる環境だが都内へのアクセスもよいというのが条件だった。いきなり長野県とか思いきれなかった。だから東京から真鶴へ移住したひとには興味があったのだ。
ぼくたち家族が移住したときの顛末はこちらに書いてます。
「小さな泊まれる出版社」は真鶴出版が出版した自伝本ともいえる。なぜ真鶴へ移住を決めたのか。なぜ出版と宿泊施設なのか。そしてどうやってリフォームを実現したのか、が書いてある。話のボリューム的にはリフォームの話題がもっとも多いのであるが、ぼくは著者である来住友美さんが現代社会に疑問をもって本当の幸せを求めて移住を決意したくだりが一番好きだ。
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「ねえちゃん人生終わったな」
就職活動をやめて青年海外協力隊に入ることを決意した姉に弟がかけた言葉だった。弟は現代日本を代表する意識である。大学を卒業して企業に就職してサラリーマン人生を全うする。それが正しい生き方であると信じて疑わない。もしそのレールから外れるならばそれは人生終了を意味した。だけど、友美さんはそうかも知れないでもね…と自分のなかでわだかまる違和感があって軌道修正しようとは思わなかった。
友美さんの求める幸せ像は大学時代の経験にあった。フィリピンの小島でくらす小さな民族の生活を垣間見る体験だった。そこは西洋文明から侵略されずに残った数少ない村だった。ゆったりと流れる時間。子どもたちは1日中遊び回り、大人もふくめて誰一人あくせくしているひとがいない。それに隣近所との付き合いの深さにも感動した。人口はわずか250人足らず。バラバラでは生きていけないから自然結びつきは強くなる。友美さんはそうしたコミュニティのありかたを自然だと感じたし、心地よかった。
川口瞬さんと結婚して移住先を探す。全国で住んでみたい地域を回った。長野県の善光寺門前も候補に入っていたのか。究極的にはぼくら家族も長野に移住したいと考えているのだ。
真鶴は知人の紹介だった。真鶴良いとこ一度はおいでと言われて行ってみて決まってしまった。面白いものである。
最近近所に巨大なショッピングモールができた。近場に映画館ができたことだけは嬉しかったが、テナントに入った店は全国どこへいってもある店ばかりでまったくつまらない。ネットで出店一覧をみてげんなりしたから行っていない。それよりも真鶴の町にあるような個人経営のお店のほうがずっと魅力的に見える。真鶴も過疎化が進んでしもた屋が多いが、新しく移住したひとたちと地元のひとたちがうまくつながって消えかかった町の灯に明るさが戻ってきているのではないだろうか。
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A7III + Loxia35
「小さな泊まれる出版社」を読んで真鶴を旅するのもいい。真鶴に行ってから本書を買うのもいい。もちろん行かないで読んだって構わない。でもどうせなら一度真鶴を訪れて見てほしい。ジョージ・エリオットがアダム・ビードで描いた本当の余暇の過ごし方が見つかるかもしれない。それは友美さんがフィリピンの離島でみた幸せの姿である。
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