朝の儀式
朝の儀式
朝娘を起こしにいく。ふとんにくるまってほかほかになっている娘の寝顔はなんとも可愛らしい。しかし眺めてもいられないので仕方なく起こすのである。ゆさゆさ揺さぶって声をかける。
「朝ですよー。おーきーて」
すると春に蠢く虫のように動き出して叫ぶ。
「やーめーて!」
「おーきーろー」
「やだっ!お父さんあっちいって!」
「だってもう朝だよー」
「がんばーれしてくれたら起きる」
さあ始まりました。ぼくはベッドの脇に立つと手をたたきながら言わなければならない。
「がんばーれ、がんばーれ。○ちゃんがんばーれ」
すると娘から必ず注文がつく。
「そのパチパチじゃなあい!ちゃんとパチパチやって!」
手の叩き方が違うというのである。一体どんなパチパチをお望みなのか。ぼくは適当にパチパチ叩きながら再び応援しなければならない。
「がんばーれ、がんばーれ。○ちゃんがんばーれ」
「ちーがーう!いつもみたいにパチパチやって!」
「なにが違うんだよ。おんなじじゃんか」
「やだ。もいっかいさいしょっから!」
でた必殺「もいっかいさいしょっから」発言。これがでるとゼロ地点ではなくマイナス地点まで引き戻されるのである。娘はさらに奥深く布団に潜り込んだ。
「がんばーれ、がんばーれ。○ちゃんがんばーれ。がんばーれ、がんばーれ。○ちゃんがんばーれ。がんばーれ、がんばーれ。○ちゃんがんばーれ。……」(ずっと続く)
これを根気よくやっているとようやくもぞりもぞりと布団から這い出してきて、すたっと立ち上がるとぼくに抱きつくのであった。ようやく捕獲した娘を抱っこしたままクローゼットの前まで連れていき、服を着替えさせるのである。その間娘は寒いから早くしろとかいうので、ぼくは急いで着替えさせなければならない。
毎朝の儀式。
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