コンサートの記録:ミュンヘン・フィル(5月12日、イザールフィルハルモニー)
5月12日、ミュンヘンのイザールフィルハルモニーでミュンヘン・フィルのコンサートを聴きました。
ミュンヘン・フィルの首席指揮者はワレリー・ゲルギエフでしたが、ロシアのウクライナ侵攻後、プーチン大統領と距離を置くことを明確にしなかったため、そのポジションを解任されていました。→
https://note.com/chihomikishi/n/nb433aa2b4c65
ミュンヘン・フィルはゲルギエフ指揮予定だったコンサートに代わりの指揮者を探さなければなりませんでした。
この5月はミュンヘンでのコンサートに加え、ハンブルクとパリでのツアーも控えており、短期間での『スター指揮者』探しは大変だったと思います。
結局、ダニエレ・ガッティが決まりました。
ガッティはスター指揮者の一角を占めます。
個人的には2008年、バイロイト・ワーグナー祭での《パルジファル》指揮は素晴らしいかった!ヘアハイムの演出の素晴らしさもあり、生涯このような《パルジファル》経験をすることは稀だと思っています。
ガッティの評価は高く、アムステルダム・コンセルトヘボウ管が2016/17シーズンからガッティを首席指揮者に迎えることを決定しました。
ところが2018年8月2日、同管はガッティを即刻解任しました。
オーケストラの女性団員に対するセクハラ問題と言われています。
しかし、同管は2019年4月23日付で、『双方合意のもとに解決した』と公式発表しました。
この後、ガッティは徐々に指揮台に復帰しています。
プログラム。
さて、コンサートが行われたイザールフィルハルモニーはミュンヘン・フィルの本拠ホール、ガスタイクの改修のため、代替ホールとして建てられました。柿落としは昨年10月8日でした。この時のコンサートはゲルギエフが指揮しています。
収容人数は約1900人。費用は『わずか』43百万ユーロ(=約56億円)でした。モジュール工法で、音響は永田音響設計の豊田泰久氏が手掛けました。
計画3年、建設に1年半を要したそうですが、これほどのスピードで完成したのは驚きです。
ホールの外観。
ホール入り口。
ホールだけではなく、市立図書館や市立カルチャーセンター、カフェやバーもあります。
ホールの見取り図。
フォワイエ。
4月3日以降、マスク着用義務は撤廃されているのですが、用心のために着用している人も多い。
客席。
コンサート開始前。
内部は黒が基調です。コンサートホールとしてはとても珍しく、正直言って驚きました。ところがとても落ち着きます。
ステージだけが明るい色です。
照明も程よく、ステージだけがひときわ明るく、つまり、ホール内部で唯一明るい場所になっているからか、音楽に集中できます。
ガッティは聴衆とオーケストラからの大喝采を受けていました。
ここで、とにかく驚いたのは音響の良さです。
永田音響設計は音楽ホールの音響設計で長らくトップの地位にあります。
多くの素晴らしい業績を残していますが、最近ではハンブルク・エルプフィルハルモニーが話題になりました。
しかし、同ホールの音響は、実は期待されたほどではない、と言われています。
ところが、イザール・フィルハルモニーの音響は素晴らしい。
クリアであたたかく、音に変な『色付け』がないのです。どんなピアニッシモも掬い上げて耳に届けるのですが、それが無機質ではない。フォルテッシモも割れることなくまとまった音で響きます(私が聴いたのは平土間中央15列目)。
もちろん、これはガッティの音作りも大きいのですが、それとホールの音響性が調和し、類まれな音響空間を作っていました。
ガッティも代替、イザールフィルハルモニーも代替・・・しかし、こんな代替なら大歓迎です。
ちなみにガスタイクの改修は少なくとも2027年までかかると言われています。
しかし最近のドイツの大規模工事や改修が例外なく遅れていることから、もう少しイザールフィルハルモニーでのコンサートが楽しめるかもしれません。
ちなみに、ガスタイクの音響は良くありませんし、改修でどれだけ改善できるかは分かりません。
そして、ミュンヘンはこの他に新コンサートホールを作ります。
コロナ禍の影響を心配されましたが、ゼーダー州首相は計画の続行を言明しています。
こちらは世界屈指のオーケストラの一つ、バイエルン放送響の本拠地になります。また同響の首席指揮者に決定したサイモン・ラトルの意見が設計に大きな影響を与えます。
FOTO:©️Kishi