コンサート(→映画):フランツ・ヴェルザー=メスト指揮バイエルン放送響(BRSO)、10月11日、ミュンヘン、イザールフィルハルモニー
10月11日、ミュンヘンのイザールフィルハルモニーでヴェルザー=メスト指揮バイエルン放送響(BRSO)のコンサートを聴きました。
ヴェルザー=メスト、癌を公表し、闘病で休んでいました。
免疫治療が功を奏し復帰したのですが、しかし体調が悪くてキャンセルしたこともありました。この夜は元気で、無事、指揮をしました。
プログラム。
フランツ・ヴェルザー=メスト、実は偶然、20cm以内の至近距離にいたことがあります。
以前、ヴェネチアのフェニーチェ劇場で、客席に入ろうと並んでいた時、どこからか女性が「フランツ、フランツ、ここよ!」とドイツ語で叫んだのです。
それに対し、私の前にいた男性が振り向き、それがヴェルザー=メストでした。
しかし、この女性の声と振り向いた彼の横顔を見て、私の脳裏を走馬灯のようによぎったのは・・・ヴィスコンティの映画《夏の嵐》。
このオペラティックな映画の最後、自分を裏切ったオーストリアの将校フランツ(ファーリー・グレンジャー)を伯爵夫人(アリダ・ヴァリ)が軍に密告します。フランツは捕えられて銃殺刑になるのですが、その後伯爵夫人は「フランツ、フランツ」と叫びながらヴェローナの街を彷徨うのでした。
ヴェローナ、あの《ロメオとジュリエット》の街です。
そのシーンが浮かんだのでした。
ちなみに、この映画の冒頭はまさしくヴェネチアのフェニーチェ劇場です。
ヴェルディの《イル・トロヴァトーレ》第三幕の最後、マンリーコのアリアのシーンで、ヴェネチア(イタリア)独立のビラが撒かれる(記憶に間違いがあったら申し訳ありません)。
その後のシーン、伯爵夫人が恋におちてしまうオーストリアの将校の名前はフランツ・マーラー。
(ヴェルザー=メストの横顔って、どこか作曲家グスタフ・マーラーと似ていませんか?)
ヴェネチア、ヴィスコンティ、マーラーときたら、ヴィスコンティの映画《ヴェニスに死す》です。
マーラー作曲《交響曲第5番》のアダージエット楽章はこの映画に使われ、それで一般にも知られるようになったと言ってもよいでしょう。
ところで、本当かどうかわかりませんが、次のようなエピソードがあります。
《ヴェニスに死す》の冒頭、主人公のグスタフ・フォン・アッシェンバッハがトランクを運ばせるシーンがあります。このトランクに『LV』の文字があるのを見て、撮影に同行していたアラン・ドロンが「さすが、監督だ。自分のイニシャルを入れさせている」と言ったとか。
確かにヴィスコンティの名はLuchino Viscontiで、LVですが、実は『ルイ・ヴィトン』のトランクだった。アラン・ドロンは知らなかったのか、ジョークだったのか?
さて、ヴィスコンティのドイツ三部作といえば、《ヴェニスに死す》、《神々の黄昏、ルートヴィヒ》、《地獄に堕ちた勇者ども》。
この《地獄に堕ちた勇者ども》、トーマス・マンの《ブッデンブローク家の人々》からのヒントもあるのですが、実はエッセンのクルップ家を描いています。
このクルップ家の二世帯住宅(と言っても城)、エッセンにあるヴィラ・ヒューゲルは公開されています。ここ、すごい!
19世紀後半から20世紀始めに続く戦争に勝ったのは結局、大砲を売ったクルップ家だったといわれています。
それに普仏戦争に勝ってドイツ統一なった、その立役者である鉄血宰相ビスマルクの「鉄」とクルップ・カノンはほぼ同義です。
ワーグナー《ニーベルングの指環》の美術はもとより、演出でも、このヴィラ・ヒューゲルとクルップ家にヒントを得たものもあります(知らない人はもちろん気が付かない)。
それに私自身は《ジークフリート》の第一幕はフリートリヒ・クルップの話と密接なつながりがあると思います。ワーグナーがクルップの話を知らないはずがない。
とまぁ、とりとめもなく書いてしまいましたが、この辺で《夏の嵐》に戻すと・・・
この映画の元になった小説の原題は《Senso》(官能)といい、あのカミッロ・ボイトの作品です。
「あの」とつけたのは、カミッロの弟がアッリーゴ・ボイト。
アッリーゴのことはオペラ好きならわかりますよね?
ヴェルディの《オテロ》と《ファルスタッフ》の台本作者で、自身もオペラを作曲しています(《メフィストフェレ》)。
アッリーゴ・・・ヴェルディと仲良くしたと思ったら、ワーグナーと懇意になり(《トリスタンとイゾルデ》、《ヴェーゼンドンク・リーダー》をイタリア語に翻訳)、またまた晩年のヴェルディと仲良くなったり・・・。
と、こちらもまたまた話が拡がるので、再度《夏の嵐》に戻すと・・・
この映画、ブルックナー《交響曲第7番》がずっと流れています。
フェニーチェ劇場で出会って、フランツに恋してしまった伯爵夫人がフランツをお供にヴェネチアの街を歩く、歩く、歩く。
その時に流れていたのが7番の第2楽章。
今年、生誕200年のブルックナー。
司祭ブルックナーの交響曲のエロス。
と、そんなことを思いながらヴェルザー=メストの指揮で聴くプロコフィエフ《交響曲第2番》、これは19世紀末からの産業革命(鉄、上記クルップ家の話ですね)を音楽にしたものです。
コンサートを聴きながら、そんなことを思っていました。
とりとめもなく、散漫に書いてしまいました。
なお、上記の私の記憶に間違いがあったらどうぞご指摘ください。
チャイコフスキーが終わって。
FOTO:(c)Kishi
以下の写真はBRSOから提供されたリハーサル時の写真です。
© BR/ Astrid Ackermann
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代表:来住 千保美(Chihomi Kishi)
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