読書:『ミステリー小説集 脱出』(11/20読了)
ジャンルも状況も多様で、とても面白いアンソロジーでした。
閉じ込められた学校の屋上から、各自の持ち物や備品を利用して危機を脱せ――最初に収録された阿津川辰海「屋上からの脱出」はまさにテーマそのもの、という作品なんですが……
続く織守きょうや「名とりの森」はある時期に入ると帰れなくなる森で消えた親友を助けようとする話、また次の斜線堂有紀「鳥の密室」は魔女狩りによって処刑を待つばかりの状況をどう脱するかの話と、テイストが異なっている。
特に印象深いのは空木春宵「罪喰の巫女」で、“罪を、喰ろうてくれる”巫女の在る神社を巡る物語なんですが、特徴的な語句や文体に味があって、構造や構成が興味深かったし、作品の醸す雰囲気や情景が魅惑的だったんです。
もう一つ、井上真偽「サマリア人の血潮」も好きな作品。謎の研究所で目覚めた主人公が、〈声〉に導かれつつ記憶を蘇らせながら、地上を目指す。
ここが何の施設で、主人公はどんな立場で、〈声〉は本物か偽物か――救済か罠か。 何が起こっているのか、何が起こっていたのか、何が起ころうとしているのか。不安と緊迫感を感じつつページを繰らずにはいられなかった。
ミステリー×脱出からすると意外な作品が多かったけど、非常に楽しめた一冊。