【読書感想文】『変な家2 〜11の間取り図〜』のラストに考察の余地たっぷりだけど、ここには迷探偵しかいない
雨穴さんといえば、ジェイソン今をときめくウェブライター。
あのクレヨンしんちゃんとのコラボで脚本担当しただけでなく、本人役で声優まで果たした有名人である。
なんとなく雨穴さんとは年齢が近そうだと思っているのだけれど、それが本当なら子どものころから放送しているアニメに、原作者でもないのに本人役として登場しちゃっているわけである。
芸能人とかならまだしも、クリエイターで本人役って、ほぼ作者くらいじゃない?
かなり珍しいパターンだと思います。
余談ですが、わたくし恥ずかしながら初めてお名前を拝見したときは、
「えーと……『あめあな』さん……?」
って思いっきり誤読しました。すみません。
『うけつ』さんです。
私と同じく勘違いしてるうっかり屋さんは、今日覚えて帰りましょーね。
さて。
初めて雨穴さんの作品を拝見したのは、オモコロの記事でした。たしかTwitterで誰かの賞賛ツイートがバズっているのを見て、リンクを飛んだんですよね。あのころはまだXじゃなくTwitterだった……。(定期的にTwitterに思いをはせるインターネッツ老人)。
それもやっぱりホラーミステリー作品で。
オモコロって、「ゆるく笑える」ってイメージがあったので、雨穴さんのホラーやミステリーといった記事には驚かされました。
それも「え、これ無料で読んでいいんすか?」ってクオリティの高さ。
特に『変な家』はWeb記事でありながら、書籍化や映画化までしてるんだから、お金取れるクオリティであることは間違いない。
それを無料公開記事で読めるんだから、万年金欠読書好きにはありがたい限りである(結局Kindleで買ったけどね!)。
そういうわけで、今回は『変な家』の続編である『変な家2 〜11の間取り図〜』の感想をつらつら述べてゆきます。
変な家2 内容紹介
前半はネタバレなしの感想、後半でネタバレありの考察をしていきます。
では、まずはネタバレなしの感想です。
個人的な好みを言うと、前作『変な家』より好きでした。
こんなふうに言うと前作が好きじゃないみたいに聞こえるかもしれませんが、私は前作を読んで雨穴氏の作品にハマった口ですから、まったく違います。前作も面白かったけれど、よりブラッシュアップされてるってことです。
よくお菓子とかが「さらにおいしくなりました!」とかいうキャッチコピーとともにリニューアルしたかと思えば、ただ容量少なくなっただけじゃねぇかとか、以前の味のほうがよかったとか、そういうしゃらくせえやり口が世の中には氾濫しておりますけれども、そういうのじゃありません。
ちゃんとおいしく、もとい面白くなってます。
そもそも、今作は11もの間取り図と、それにまつわるエピソードが、最後にひとつの真実に結びつくという構成です(公式の紹介文にも書かれているから、このくらいはネタバレになりませんよね……? とビビりつつ)。
ぶっちゃけた話、読み始める前の私は、
「間取り図が11も〜? 一冊の本に収まる数じゃないでしょ。どうせ11ったって、一部は話の合間にチョロっと触れられるくらいのモンじゃないの?(笑)」
なんてナメ腐ってました。
最後まで読んだ今、謝ります。
すみませんでした。
ちゃんと11の間取り図それぞれにエピソードがあって、それぞれが繋がっているんです。これはすごいことですよ。
だって11もいればサッカーできるじゃん。
この一冊で雨穴イレブン組めちゃう。
しかもこの間取り図たち、それぞれ好き勝手に動き出すもんだから、もー協調性がないのなんのって。
それを、名監督である雨穴さんが立派にまとめ上げて、めちゃくちゃ強ぇチームになってるってワケ。
こいつぁサポーターも大盛り上がりですよ。
まず、伏線回収が鮮やかですね〜。
これだけたくさんのエピソードを盛りこめば、どこかとっ散らかった感じになったり、読者がついていけなくなったりするものだと思うんですけど、そういうのがまるでない。
私はKindleで読んだので実に400P超えだったのですが、サクサク読めてスルッと頭に入ってきました。
なにしろ小学生の間で流行ってるくらいですからね。
しかも、今の小学生はYouTubeのショート動画とかTikTokとかに慣れきってるわけですから、カロリーの高いものは胃が受けつけないんですよ。若くして胃弱ですよ。
昔はカルビが大好物だったのに、いつの間にかミスジ派になっていた成人は多いと思います。私もそのひとり。
社会人になって、忙しさを言い訳にいつしか本に手がつかなくなって、積読ばかり山になっていく。
本を読まない本好きって、それもうただの人じゃねーかというツッコミは、自らの手を傷つける諸刃の剣です。
そんな、最近なんだか読書のハードルが高く感じている人や、普段あまり本を読まない活字嫌いさんにこそ、ぜひ読んでみてほしい。
400P近いけど、スラスラ読めちゃいます。
ただひとつ、本書には「これ小学生に見せて大丈夫なん???」って表現が含まれているので、お子さんにおねだりされた親御さんは、くれぐれも各ご家庭で判断してからお与えになってくださいね。
具体的には、小児性愛とか不貞行為とか殺人とかが含まれます。
これ本当に小学校で流行ってんのか????
私が親の立場だったら「中学生になったらね」って言っちゃうかも……。
いやでも、私が小学校の中〜高学年くらいだったら、めっちゃハマっただろうしな。
HUNTER×HUNTERとかグロいけど、小学生のころめちゃくちゃ流行ってたし。
今の子たちだって鬼滅の刃とか平気で読むし、案外大人が気にするほど子どもは弱くないのかな。
絵じゃなくて活字で表現されてるし、「そういう行為があった」とサラッと流されるだけで、具体的なことは書かれてないから、共感性が高すぎたり、想像力が強すぎたりする子じゃなければ大丈夫かも。
小学生だってバカじゃないから、世の中にはそういうものがあることくらい、もうわかってるだろうしね。
そういえば私が中学生のころ、堂本光一と深キョンが主演の『リモート』ってドラマがあったんですけど(年齢がバレる)、それの原作漫画を「おこづかいで買いたい」と言ったら、父に、
「まずパパが内容を確認して、大丈夫そうだったらね」
と言われ、結局買ってもらえなかったことを思い出したけど、あれは『漫画』という視覚に訴えかける媒体だったからだろうしな……。
大学生になって原作漫画を買って読んだら、当時の父の気持ちがわかったもんな。
なんのこっちゃ。
話は脱線しちゃったけど、そういう描写が含まれるので、子どもはもちろん、大人でもそういう表現がしんどい人は気をつけてくださいネ。
諸君、ここから先はネタバレだ。
では宣言どおり、後半はネタバレありの考察を書きこんでいきます。
当然のように既読を前提にして語るので、未読者にはなんのこっちゃだと思います。
読んでから出直してきてくれ。
準備はいいか?
俺はできてる。
(このセリフの出典ジョジョらしいけど、筆者はまだジョジョ見たことないらしいっすよ笑)
さて。
この本を最後まで読んだ人は、ラストの違和感に気がつくと思います。
なんと最後の証言に夢オチが含まれているのです。
そして、この最後の証人ミツコちゃんへの取材冒頭に、こんな一文があります。
本文に書いてあることをそのまま受け取るならば、実行犯はミツコちゃんです。
しかし、この一文に傍点までついていること、そしてミツコちゃんの証言に含まれる奇妙な夢オチが気になります。
これは、雨穴さんから読者に向けたメッセージなのではないでしょうか。
つまり、真犯人は別にいる。
それを読者に推理してほしい、という。
私、ミステリーがとても好きで、小説だけじゃなくドラマも推理ものならだいたい楽しめます。
科捜研の女とか毎週録画して観るくらい大好き。
そんなわたくしですが、その楽しみ方は頭空っぽにして、探偵役の推理に度肝を抜かされるというもの。
……いや、違うな。
いちおう、ああでもないこうでもないと考えをめぐらせるのですが、けっきょく当たらないというポンコツ迷探偵っぷりを発揮してしまうのです。
そんな毛利小五郎もビックリのわたくしですが、ない頭を捻りがんばって考えたので、どうかお付き合いください。
ぜんぜん的外れなことを言ってても許してネ。
まず、本書を読み終えた時、疑問に思った点がいくつかあります。
・ミツコちゃんとシオリちゃんの証言が食い違っていること。
・ミツコちゃんは、本当に『たくらみペッパーガール』を持っていなかったのか。
・義足をクローゼットに入れたのは誰なのか。
・資料⑤平内氏の自宅を事故物件マップに登録したのは誰なのか。
まず、ミツコちゃんとシオリちゃんの食い違い。
シオリちゃんの証言を信じるならば、ミツコちゃんがシオリちゃんに近づいたのはアリバイ作りのためで、友情でもなんでもなかったってことですよね。
でもミツコちゃんは自身の証言の中で、シオリちゃんとの日々を「私の人生にとって唯一の青春」とまで言っているわけです。これは明らかに矛盾しています。
証言の最後に「弱い自分を認められなくて、願望を夢に見てしまったに違いない」と言っていたミツコちゃんですから、シオリちゃんとの関係もいつしか自分の願望によって歪められてしまっただけで、本当はシオリちゃんのことを見下していた……とも取れますが、私の予想はちょっと違います。
そもそも、ミツコちゃんがシオリちゃんと仲良くなったのは、父親に犯行をお願いされる前です。
時系列にすると、
ミツコがシオリに声をかけ、仲良くなる。
↓
交換日記をする仲になる。
↓
シオリが『たくらみペッパーガール』の話題を出し、お互いが愛読者だと判明する。
↓
2ヶ月ほど経過。
↓
夏休み前になり、正彦(ミツコ父)がミツコに犯行依頼。
↓
ミツコ、シオリをお泊まり会に誘う。
こういうわけです。
であるならば、ミツコちゃんがシオリちゃんを利用するためにわざわざ近づく理由がありません。
当時のミツコちゃんは祖母とともに厄介払いされており、しばらくは『お願い』がなかったはずです。
それに、『お願い』は基本的に緋倉家に関わることだけ(本文中に書かれていることだけならば)なので、外部に駒を作る必要はないはずです。
だから、ミツコちゃんがシオリちゃんに声をかけたのは、証言にもあるとおり「自分と重なったから」というだけだと思います(これは私の願望も多分に含まれますが……)。
さて、シオリちゃんの証言の中にも、気になる点がいくつかあります。
まず一点。
さて、ここでミツコちゃんの証言にあった、「ビーフシチューに毒を入れられた」という話を思い出してください。
そう、あの家では食事に薬を混ぜることは簡単なのです。
これは想像なのですが、あのときシオリちゃんは食事に睡眠薬かなにかを仕込まれていたのではないでしょうか?
だって、ミツコちゃんが犯行に及ぶことを、父である正彦は知っています。
その命令だとしたら、使用人たちもあの日のように、食事に薬を混ぜるでしょう。背後に黒幕であるミツコ母がいるわけですし。
友人に犯行を目撃されないように、真犯人側の人間が薬を盛ったのではないでしょうか。
そうであれば、ミツコちゃんがなにやらゴソゴソやっていても、シオリちゃんがスヤスヤ眠っていた理由も納得がいきます。
まあ、小説だから「起こさないよう静かにやった」と言われればそれまでなんですけど。
また、夕食から眠くなるまでに時間がかかっていたことから、シオリちゃんに盛られた睡眠薬は遅効性かつ微量であったと考えられます。
だからこそ、夜中に一度起きてしまったのではないでしょうか。
さすがに子どもにガッツリ睡眠薬を盛ってしまうと、命に関わりますからね。
せっかく事故に見せかけてヤエコさんを殺そうとしているのに、よそのお嬢さんが亡くなってしまったら一大事になりますから、あまり強い薬は使えなかったのでしょう。
では、もう一点の疑問にいきます。
シオリちゃんの証言の中で、こんな話がありました。
シオリちゃんの証言では、クローゼットはミツコちゃんの部屋の一番奥にあったということです。
そして「背後に視線を感じて」ということは、ベッドの位置はその正反対。
そして部屋の入り口はやや偏っているため、部屋は入り口から見て右側のほうが広くなっています。
ここで私の想像なのですが、クローゼットは入り口から見て右奥、ベッドは左奥にあるのではないでしょうか。
ここで思い出してほしいのは、ミツコちゃんの家は一階が応接室や厨房、使用人室になっており、二階はすべて家族部屋です。
ですが、実際に使われているのは、中央にある祖母ヤエコの部屋と、階段から見て右奥のミツコちゃんの部屋のみ。
他に三部屋ほどの空室があります。
そして、ミツコちゃんの部屋は、両隣が空室です。
これは想像なのですが、あのときシオリちゃんは、本当に誰かに見られていたのではないでしょうか?
それがミツコちゃんでないとしたら、部屋の向こう。
空室から誰かが部屋をのぞいていたのではないでしょうか?
資料⑩『逃げられないアパート』を思い出してください。
あの話では、窓から隣の部屋が見えるようになっていました。
つまり、ミツコちゃんの部屋には、隣の空室から監視できる仕掛けがあった。
これが事実であれば、ミツコちゃんしか知らないはずのクローゼットの鍵を、他人が盗める可能性が出てきます。
監視していた人間であれば、ミツコちゃんがペンケースに鍵をしまうところを目撃しているはずですから。
となれば、義足を盗んだのも、その人物である可能性が高いです。
クローゼットに隠してしまえば、ミツコちゃんのせいにできますからね。
さて、もうひとつの疑問点である「ミツコちゃんは、本当に『たくらみペッパーガール』を持っていなかったのか」の考察に移ります。
普通に考えれば、ミツコちゃんはシオリちゃんに話を合わせていただけでしょう。
ミツコちゃんは母親に毒を盛られていたトラウマから、無意識に他人に合わせる性格になっていた、と捉えることもできると思います。
しかし、ここで私はあえて、
「ミツコちゃんは、本当に『たくらみペッパーガール』の読者だった」
という説を推します。
「漫画なんて読むわけないじゃん。だって、貧乏な子が読むものでしょ?」
ってセリフは、上記の「トラウマにより他人に合わせる性格になっていた」か、親に漫画を読んでいるのがバレるのが怖かったからか(祖母が亡くなったことで、両親とまた一緒に暮らしはじめたと推測)。
では、肝心の『たくらみペッパーガール』はどこにあったのか?
ここで思い出してほしいのが、資料11の『一度だけ現れた部屋』です。
あの話では、収納スペースの中から、向こう側にある隠し部屋に入ることができました。
そして、ミツコちゃんのクローゼットの中には、本棚が隠されていた。
想像ですが、本棚の向こう側には、隣の部屋に続く隠し通路があったのではないでしょうか?
それも、入間家と同じく、なにか条件を満たさなければ開けることができないタイプの。
だからミツコちゃんは部屋の主でありながら、その存在を知らなかった。
ところが、犯行に向けて真犯人が隠し通路を使っているうち、本棚の一部が隠れてしまったのではないでしょうか。
そして、それがちょうど『たくらみペッパーガール』の場所だった。
また、クローゼットとベッドの位置関係が私の想像どおりであれば、ベッドの向こう側にある空室(予想・監視部屋)は、祖母であるヤエコさんの部屋とも繋がっているわけです。
そこで、今度はミツコちゃんの証言を思い出してください。
これは、祖母のヤエコさんが本当は起きていたというふうにも取れますが、もし先ほどの予想が正しければ、真犯人が隠し通路を動かした音とも取れます。
つまり、隣の空室(予想・監視部屋)からは、ヤエコさんの部屋にも通じる隠し通路があったのです。
では、そんな音を立てて、犯人は祖母ヤエコさんに気づかれなかったのか?
これも私が予想した「シオリちゃんは睡眠薬を盛られていた」説から繋がるのですが、あのときは祖母ヤエコさんも睡眠薬を盛られていたのではないでしょうか?
シオリちゃんの証言に、こんなものがあります。
おそらく自分の部屋で食事をとるのは、義手のためうまく食べることができないのを他人に見られたくなかったからでしょう。
ヤエコさんが、自分の手足が欠けていることを恥じているのは、本文中にも書かれているとおりです。
しかし、このエピソードって、わざわざ書く必要ありますかね?
別に飛ばしてしまっても問題ないと思うんですよ。夕飯の後に眠くなった、という話だけで。
であれば、何か意味があるのではないか?
つまり、そのときにヤエコさんも睡眠薬を盛られており、部屋で眠っていた……とか。
でも、そうであれば、犯人はミツコちゃんとヤエコさんと空き部屋、それぞれを行き来できるわけですよ。
さらに、ですね。
もし本棚の向こうに隠し通路があれば、こういう可能性も浮上します。
ミツコちゃんがヤエコさんの部屋に置いていった義足を、真犯人が隠し通路を使って回収し、さらに本棚の隠し通路を使って、クローゼットの中に入れた。
このトリックであれば、クローゼットの鍵の場所がわからなくても、義足を隠すことができます。
扉を開けなくても、裏側から中に入れることができるからです。
そして、鍵は内側から開閉するしかけがあるのかもしれません。
夜中に目が覚めたシオリちゃんが、クローゼットを開けようとして背後に視線を感じたのも、真犯人がその動向を見ていたからでしょう。
もしシオリちゃんがミツコちゃんから鍵のありかを聞いているなどして、中身を見てしまっていたら……。
シオリちゃんは、真犯人に消されていたかもしれません。
間一髪セーフな場面だったのかも。……怖ッ!
さて、シオリちゃんの証言で、もっとも奇妙な発言があります。
それがこちら。
ふつう、探しに行くなら階段の下を覗きにいきますよね。
ひょっとしたら、惨状を見るのが怖くて、現実逃避してしまったのかもしれませんが……。
最初わたくしは、「すぐそこにある現実」と強調している点から、本当はシオリちゃんは犯人を見ていたのではないかと疑いました。
しかし、その後の証言でシオリちゃんは「音がしたあと、すぐに廊下に出ましたが、誰もいませんでした」とハッキリ言っています。
ミスリードを誘うなら、そんなにハッキリと書かずにぼかした表現になると思うんですよね。だから、誰もいなかったのは本当だと思います。
では、なぜシオリちゃんはヤエコさんの部屋に行ったのか?
これは想像ですが、トイレに行く前には閉まっていたはずのヤエコさんの部屋のドアが、開いていたのではないでしょうか?
「すぐそこにあった現実から目を背けたかったのかも」と言っていたとおり、当時のシオリちゃんは最悪の事態が頭をよぎり、パニックになってしまった。
そこで、「ヤエコさんの部屋のドアが開いている」という違和感をうまく認識できないまま、それでもなにかおかしいと感じ取って、とっさにその違和感を確認しにいったのではないでしょうか?
しかし、部屋はもぬけの空だった。
だからシオリちゃんは、自身の行動を「現実逃避でおかしくなってしまった」と誤解してしまったのではないでしょうか。
本当は、その違和感が正しかったのに。
つまり、私の予想はこうです。
シオリちゃんがお手洗いにいったあと、真犯人はヤエコさんの部屋にある隠し通路を使い、こっそりヤエコさんの背後に回った。
そして、ヤエコさんが階段の近くにきたときを狙って、背中を押して突き落とした。
すぐさま廊下を引き返し、また隠し通路から空き部屋に戻った。
だからドアは開けっぱなしだったし、シオリちゃんがヤエコさんの部屋に駆けつけた時には、もぬけの空だった。
シオリちゃんが「使用人さんたちの悲鳴や、慌てる声が聞こえて、それに混じって、誰かがどこかへ電話をかけていました」と言っていましたが、それは救急車を呼んでいたのではなく、真犯人がミツコ母に犯行完了の報告をしていたのかも。
……と、これがヘッポコ探偵なりの推理です。
今回の『変な家2』の間取りの理由は、聖母を模しているからという、前作に比べて殺人トリックに間取りがあんまり絡んでいないな〜と思っていたのですが(身体障害者に不親切な間取り自体がトリックっちゃトリックですが)、これなら間取りも殺人トリックに絡んでくるのではないでしょうか。
ところで、この推理どおりであれば、まだ気になるところが残っています。
それは、なぜミツコちゃんはわざわざ朝5時にシオリちゃんを起こしてまでトランプをしたのでしょうか? という点です。
ここからは完全にこじつけなのですが、ひょっとしたらシオリちゃんが睡眠薬を盛られていたように、ミツコちゃんもなにか盛られていたのかも?
そこで、ミツコちゃんのこのセリフ。
ミツコちゃんに犯行をしてもらうには、夜中に起きていてもらわなくてはなりません。
そこで真犯人は、ミツコちゃんにカフェインを盛ったのではないでしょうか?
カフェインを摂取すると、人によってはフワフワした感覚に陥ると言います。
そして、カフェインの影響で早く目が覚めてしまい、祖母を助けられたという高揚感もあいまって、シオリちゃんをトランプに誘った、とか無理やりすぎますかね?
ここまで語ってきましたが、じゃあ真犯人は誰なのか? という結論ですが。
シオリちゃんの証言から引用します。
シオリちゃんの証言の中で、あの屋敷でミツコちゃんとヤエコさん以外に唯一描写されているのが、この使用人なんですよね。
ポンコツ探偵・遅読は、この使用人が真犯人であると睨みます!
コイツはミツコ母に命令されて、今回の事件を起こした実行犯なのではないでしょうか。だから黒幕はミツコ母。
で、ちょっと引っかかるのが「この人はきっと使用人さんなんだろうな」というセリフ。
確定した事実ではなく、ただシオリちゃんの予想です。
……ひょっとして、こいつ本当は使用人じゃない可能性ある????
でも、そんな人、本文中にいたかなぁ。
わざわざ「かっこいい男性」と書いているので、最初は、
「作中で美形であることを明言された人物といえば、笠原父?」
と思ったのですが、時系列的にとっくにお亡くなりになってるし、ならばばら撒いた種の中の1人かとも思ったのですが、だったらその子どもも成貴くん同様、聖母の中で育てようとしますよね。
まあ、ただ「(スーツ着こなしてて)かっこいい」ってだけかもしれないんですけど。ふと思ったんですよね。
ひょっとして、ミツコ兄? って。
ミツコ兄って、本文中にほとんど描写がないんですよね。
ヒクラハウスの現社長で、鷲鼻の中年ってだけ。
とはいえ、ミツコ父である正彦は、資料⑥『再生の館』で、
と言われていたり、資料⑩『逃げられないアパート』で、
と言われています。
とても美形らしい描写ではない……。
そして、明永氏は、父にそっくりらしいです。
となると、明永氏は美形ではなさそう……。
で、でも「カッコいい」ってほら、仕草とか雰囲気のことかもしれないし!
スーツ着たら男は三割り増しって言うし!
だから元気出そっ、ねっ?(何の話?)
「かっこいい」をすーぐ顔の造形だと思いこむ現代人、ルッキズムに支配されてますね〜これはよくないですよォ〜!
というわけで、私の予想は明永(次点でフツーに使用人モブ)。
だって、そう考えると時系列的にもちょうどいいんですよね。
シオリちゃんが「男性」というからには、年齢的に二十代から三十代くらい、若くても十八は超えてると思うんですよ。
で、2022年時点で明永氏は「中年」。
ミツコ母が置棟を出たのが1971年で、当時11歳。
さすがにすぐ結婚できないから、16歳になるまで待ったはず。だから最低でも結婚したのは1976年以降。
で、1980年代に正彦の幼女虐待疑惑が出たわけですが、噂になったということは、このタイミングで明永氏を産んだのでは?
つまり、明永は1980年代生まれと予想します。
ところで、「中年」というのはだいたい40〜64歳のことを指すらしいです。
明永が1980年生まれとして、2022年に42歳。中年の定義に当てはまりますね。
さらに、ヤエコさんが亡くなった2001年には、明永は21歳です。
どうです?
21歳なら、当時13歳だったシオリちゃんが「男性」と呼んでもおかしくないと思いませんか?
もし幼女虐待疑惑が明永出産と関係なくて、16歳で結婚してすぐに出産していたら、2001年には25歳、2022年で46歳です。
おお、それっぽい!
ミツコちゃんはおめめパッチリの美人さんだったらしいし、ヤエコさんもめちゃくちゃ美人だって描写があるから、明永だってその血を受け継いでいてもおかしくないんですよね。
鷲鼻の美形なんて世の中いっぱいいるし!
鷲鼻で正彦そっくりってだけで、まだ顔の造形は描写されてないし!
とはいえ、普通に使用人がミツコ母の愛人モブって可能性もあります。
自分を好き勝手にした相手に買われて、入籍せざるを得ないって、ミツコ母が正彦氏に愛情があると思えないんですよね。
だから美形の愛人を使用人としてそばに置いていて、殺人にも協力してもらった。
ハッ! そうなると、ミツコちゃんて、この使用人との間の子どもって可能性もあるんじゃ……?
だってミツコ母って1971年に11歳だったってことは、おそらく1960年生まれですよ。
で、2001年に13歳だったミツコちゃんは1988年生まれ。
ってことは、ミツコ母28歳のときに生まれた子どもなわけですよ。
一般的には普通でしょうけど、正彦氏はミツコ母が11歳のころから関係を持っています。
そんな昔から手を出していたにしては、ミツコちゃんが生まれるの遅くない……?
その理由が、愛人との子どもだからだったとしたら?
そして、正彦氏はその事実を知らない。資料①『行き先のない廊下』の根岸家のように。
……うーん、この可能性もじゅうぶんありそうですよね。
でも、これだと使用人がミツコちゃんに罪をなすりつけた理由がわからなくなってしまいます。
仮にも自分の娘なわけですし。
いや、そんなこと言ったらミツコ母がミツコちゃんに毒を盛ったのはなんなんだって話ですし、そこはミツコちゃんが『罪の子』だからなのかな。
ミツコ母は自分も(騙されていたとはいえ)不倫の末に生まれた子どもだから、はたして不倫なんかするだろうか? って疑問はありますが、そこは愛のない夫との関係に疲れていたとかなんとかで。
で、だからこそ自分と同じく不倫の果てに生まれたミツコちゃんを嫌悪していた?
だから明永に比べて冷遇されていたのかな。
う〜〜〜〜ん、頭がこんがらがってきた。
ちょっと難しく考えすぎですかね。
どちらにせよ、その正体がどうあれ、私の予想はあの使用人です。
てなわけで、犯人考察は終わりっ!
最後の謎である「事故物件マップに登録したの誰やねん」に移ります。
これ、ぶっちゃけそれらしい推理とか何もないんですよね……。
できるとしたらミツコちゃんか、ミツコ母だと思います。
事故物件マップはスマホ専用アプリなので、2001年に亡くなっているヤエコさんなわけないですし。
地元でもほとんど知られていない事件なのだから、登録できるのはほぼ関係者しかいない。
ヤエコさんからお絹さんの話を聞けるとしたら、娘か孫だろうけど、ミツコ母のほうは11歳以降の関係は最悪だろうし、結婚後は部屋に引きこもっていてほとんど交流がないらしいし。
同じく孫の明永は、両親の英才教育を受けてそうだし。
そうなると、ミツコちゃんが一番有力なのかなぁ。
仲がよかった祖母から曽祖母の話を聞いていて、本当ならそこで眠りにつくはずだった場所に、せめてもの証としてピンを刺したか。
……でも、しっくりこねェ〜〜〜〜。
大穴で、水無宇季の子孫とかどうでしょう?
宇季はたしか、娘を産んでいるんですよね。
その娘に繋がるような人が、作中に出てきてる、トカ……!?
このへん本当に予想つかないので、どなたか有力な説をお持ちの方は教えてください……。
水無宇季で思い出したけど、そういえばお絹さんのご遺体ってどうなった?
ひょっとして、水車小屋の下に埋められてたりしない?
だとしたら、ヤエコさんは母の墓で、母に抱かれて眠りにつきたかったのかな。
でも、たったひとつの希望すら奪われてしまったのかな。なんだか悲しいな……。
あと、『たくらみペッパーガール』について考察しているとちゅうで、
「そもそもペッパーガールてなんやねん」
と思いまして、ググってみました。
わたくし学生時代も英語がアホほど苦手で、ハリーポッターを原書で読むなんて夢のまた夢でございます。イングリッシュ・オワンゴ。
でも「ペッパーガール」で検索しても、韓国出身の双子姉妹ユニットである「レッド・ペッパー・ガールズ」しか出てきません。絶対に関係ない。
どうやら「ペッパーガール」という言い回し(慣用句?)はないみたい。
じゃあ、と「ペッパー」の意味を調べたところ、
この中で、「〔たっぷりと~を〕振りまく、ばらまく」がそれっぽいですよね。
つまり、「たくらみを振りまく少女」。
作中、もっともたくらみを振りまいていたのは、やはりミツコの母でしょう。
ひょっとして「たくらみペッパーガール」は、資料③『林の中の水車小屋』に出てくる『シラサギ』が女性の遺体、つまりお絹さんの隠喩だったように、なにかの隠喩だったのではないでしょうか?
いや、作中では本当に存在しているだろうと思うので、これは雨穴さんから我々読者への隠喩なのではないでしょうか。
つまり、『たくらみペッパーガール』が隠れている。
ミツコの母が隠れているぞ、という。
……なんかこれ考えてたら、真犯人がフツーに(?)ミツコ母って可能性が浮上してきたな。
ひょっとして、最後はおのれの手で始末したかッ!?
とかいって、『たくらみペッパーガール』がミツコちゃんやシオリちゃんを暗示してたら怖いですよね。
2人の証言って矛盾してますし。
ここまで長々と語ってきた私の推理が全部ポンコツで、本当は2人のどちらかに裏の顔があったらどうしよう……。
それはないと信じたいところです。
さーて、かなり長文を書いていたので、さすがに疲れてきました。
指が腱鞘炎にならないうちに、そろそろ〆に入らせていただきたいと思います。
ていうかホント長いな!!
これ書く時間あったら、本の一冊や二冊読めたんじゃない????
……と思わないでもありませんが、オタクは語り出したら止まらないのでご容赦ください。
ここまで私の戯言にお付き合いくださった奇特な方はすでにおわかりかと存じますが、『変な家2』はいろんな考察の余地を残した面白い作品でした。
誰も救われないイヤ〜な後味が残る作品なので、そういう気持ち悪さが好きな人には最高です。
余談ですが、資料⑥『再生の館』の信者たちの共通点が「不倫」ってやつ、私ギリギリまで「殺人かな?」って予想してたんですが、全然違いました。
だって罪だ罪だっていうから、もっと大罪を予想してたんですよ。
こんなこと言うと「不倫は心の殺人でしょ!」ってお叱りを受けそうですし、私自身も不倫にはいい顔をしないのですが、それはそれとして「でも別に不倫って犯罪じゃないじゃん?」と思っていたので、ちょっと肩透かしでした。
不倫で前科つくわけじゃないし……殺人とか薬物とかのほうがよっぽど逮捕案件だし……。
私、芸能人の不倫とかも「ご家庭の問題だから、サレた側が文句言うならともかく、他人がとやかく言うもんじゃないっしょ」派なので、ちょっと「ふーん」て感じでした。
いや別に不倫を擁護するつもりはまったくないのですが、そのわりにはシャブやった芸能人には甘くない????
フツー逆っしょ。
でもまあ、やっちゃった本人たちの気持ちを考えると、そりゃ怖いでしょうね。
過激な新興宗教って他人の罪悪感につけこむところがあるので、案外そんなもんなのかもしれません。
あとはとちゅう、資料⑧『部屋をつなぐ糸電話』で「自分の娘と糸電話で会話しながら、不倫相手と性行為とかムリあるっしょ」とか、ツッコミどころはなきにしもあらずですけれども。
いや、どんなにスローセッ●スでも糸ピンと張ってられないっしょ?
というか集中できねーよ!
むしろ笑っちまうよ!!
不倫相手ぜってー萎えてるよ!!!!
とかなんとか、最後のほう重箱の隅をつつくような指摘ばっかですみません。
でもね、いいんです。
ミステリーのトリックなんてどんなに荒唐無稽でも、ちゃんとロジックになっていれば成り立つってもんです。
世の中にはもっとむちゃくちゃなトリックとかあるしヘーキヘーキ。
正直、全体的な完成度の前では、このていどのツッコミどころは些末ってもんです。
雨穴さんにはこれからもどんどん作品を作りあげてほしい。
一ファンとして、応援しております。
それでは、今回はこのへんで。
お読みいただきありがとうございました。
【追記】
そういえば、読んでいて気づいたのですが、Kindle版の一部に『トイレ』が『トレイ』になっているという誤字がありました。
書籍版は未確認のため、Kindle版のみの誤字かどうかはわかりませんが……。
こういうのって報告してあげたほうがいいんだろうけど、どこに言えばいいんだろうか?
とりあえず備忘録として書いておきます。