【読書感想文】ホームズ初読の人間が『緋色の研究』を読んでみたら今なお世界中で愛されている理由がわかったって話(本日1/6はシャーロック・ホームズの誕生日!)
どうも!
突然ですが皆さん、ミステリーは好きですか?
私は大学時代、暇をもてあまして『科捜研の女』とか、昼間にやってるミステリードラマを片っぱしから見まくってたくらいにはミステリーが好きです。
でも私には堂々と「推理ものとか大好き!」なんて言えない理由があります。
それは……
シャーロック・ホームズを読んだことがないから!
正確には小学校低学年くらいのころ児童書で『まだらのひも』と『青いルビー』を読んだことがあるはずなのですが、犯人もトリックも何ひとつ思い出せません。
記憶の器がザルでできてらっしゃる????
ちなみに、日本じゃ物覚えの悪い人を「鳥頭」なんて呼びますが、英語やフランス語だと「金魚のような記憶力」って言われるみたいです。
こうやって鶏や金魚を見下す姿勢、
傲慢だよな、人類ってやつぁ……。
逆に「象のような記憶力」と言うと記憶力がいいことのたとえなんだそうです。
どうでもいいか、そんなこたぁ。
とにかく!
そんな私がなぜ令和の今になってシャーロック・ホームズを読んでみようと思い立ったのかについては、こちらの記事をご参照ください。
こちらのホームズパスティーシュに感化されて、正典であるシャーロック・ホームズを読んでみようと思ったわけです。
ちなみに、この記事の公開日1/6はシャーロック・ホームズの誕生日らしいですよ!
とはいえ正典に書かれているわけではなく、シャーロキアンの研究によって、
「おそらく1854年1月6日ではないか」
という定説になっているらしいですけどね。
私のホームズの知識といったら、ほとんど『劇場版 名探偵コナン ベイカー街の亡霊』で構成されております。
あと昔、実家で家族が見てたのをチラ見したイギリスのドラマ『SHERLOCK』とか、同じくチラ見したNetflixの『エノーラ・ホームズの事件簿』とかの記憶もあるはずなのですが、覚えていることといえばベネディクト・カンバーバッチがカッコよかったこととか、エノーラ版マイクロフトがやたら怖い兄ちゃんだったってことくらいしかありません。
マジで鶏や金魚より記憶力ないんじゃないかコイツ????
しかし、ホームズを知らずにミステリーを語るなど、米を知らずに日本食を語るようなものッ!
というわけで、本日の読書感想文はこちら!
シャーロック・ホームズ・シリーズ『緋色の研究』!
本当は大晦日には読み終えていたので、いわゆる2024年の『読み納め』にあたる一冊だったのですが、年始に挨拶回りやら新年会やらで忙しかったため、記事にまとめるのが遅くなりました。
暴飲暴食で胃が痛い中、どうにか文章をしたためております……。
よい子のみんなは、こんな大人になってはダメですよ(よい子がこの記事を読むかどうかはさておき)
さて、感想の前に本書のあらすじを載せておきます。
緋色の研究 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)
例のごとく前半はネタバレなし、後半はネタバレありの感想を語っていきたいと思います。
ネタバレなし感想
まず読んで驚いたのは、令和の今に読んでも「面白い」と感じる点ですね。
もちろん、「現代ならもっとこうするだろうな」と思う点がないわけじゃないのですが、ホームズやワトスンのキャラ造形や、小気味いいセリフのやり取りが魅力的なので、グイグイ引きこまれます。
『緋色の研究』はシリーズで一番初めに発表された作品なので、ホームズとワトスンの出会いが描かれているのですが、この話を読んだかどうかで、のちのシリーズ作品への解像度も変わってくるのではないでしょうか。
というか、これけっこう罠だと思うのですが、ホームズシリーズってなぜか各出版社で刊行順バラバラなんですよね……。
おそらく、のちに時系列的には『緋色』より前の作品が出版されたらしいので、翻訳にあたって当時刊行された順ではなく時系列順で並べているのだと思うのですが、できれば正典の発表順で読むことをおすすめします。
というのも、私はホームズシリーズを読むにあたってX(旧Twitter)で「翻訳本はなぜか順序バラバラに刊行されがちなので、正典の発表順に読んだほうがいいですよ!」と教えていただいたのですが、知らなかったら短編集から入っていたかも……。
今回読んだのは創元推理文庫版なのですが、『緋色の研究』はなんと六巻目です。
ちなみに角川文庫版は三巻目にあたります。
統一感なさすぎだろ。
念のため、こちらに原作出版順を記載しておきます。
『緋色の研究』(もしくは『緋色の習作』)【長編】
『四つの署名』【長編】
『シャーロック・ホームズの冒険』【短編集】
『シャーロック・ホームズの思い出』(もしくは『シャーロック・ホームズの回想』)【短編集】
『バスカヴィル家の犬』【長編】
『シャーロック・ホームズの帰還』(もしくは『シャーロック・ホームズの復活』)【短編集】
『恐怖の谷』【長編】
『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』【短編集】
『シャーロック・ホームズの事件簿』【短編集】
『シャーロック・ホームズの叡智』【短編集】※新潮文庫版のみ
これから初めてホームズを読むという方は参考になさってくださいね。
そうそう。
初心者が戸惑うことといえば、シャーロック・ホームズは各出版社から翻訳本が出ているため、どの出版社のものを読めばいいかわかりにくいという点もあります。
私が読んだ印象なのですが、創元推理文庫版は比較的読みやすい文章で、たまに古風な言い回しが挟まれる感じがします。
サクサク読みつつ、ヴィクトリア朝の雰囲気もほどよく楽しめる翻訳ですね。
また、Kindleだと注釈もタップで簡単に読めるのがありがたいです。
特に、有名なセリフには「これはホームズ語録である」なんて注釈に書いてあるのが面白い。
訳者の「ここ覚えといて!」って声が聞こえてくるかのよう。
さらに、挿絵がおそらく当時のものであるのがいいですね。
調べたら、コナン・ドイルが『ストランド・マガジン』でシャーロック・ホームズを連載していたときの公式イラストレーターなのだとか。
現代人には馴染みのない画風なので、中には違和感を覚える人もいるかもしれませんが、当時の雰囲気を味わいたい読者にはおすすめです。ホームズ、意外とハゲ……ていうか、ホームズといったら帽子(鹿撃ち帽というらしい)とコート(インバネスコートという、ケープ付きコート)とパイプ(キャラバッシュパイプという曲がったパイプ)のイメージが強いのですが、実は原作にはどれも登場しないらしい。
Ω ΩΩ< ナ、ナンダッテー!!
じゃあなんでそんなイメージが定着したのかというと、シャーロック・ホームズの公式イラストレーターであるシドニー・パジェットが、『白銀号事件』のときに想像で描いた姿が広まったものだそう。
へぇ〜へぇ〜へぇ〜!(もう今の子に『トリビアの泉』ネタは通じないであろう……)
ちなみに、私はシリーズ次回作『四つの署名』を角川文庫版で読んでみようと思います。
なぜなら『緋色の研究』は創元推理文庫版、『四つの署名』は角川文庫版がKindle Unlimitedに入っていたからです(せっかく登録しているのでガンガン活用していきたい)。
すでに冒頭を少しだけ読んでみたのですが、角川文庫版はかなりライトノベル的な読み口ですね。
現代人にはこちらの翻訳が向いているかも。
表紙のホームズも青年漫画ふうのイケメンなので、かなり取っつきやすいです。
この表紙に惚れて手にとった読者もけっこういそう。
※角川文庫版『緋色の研究』 青年漫画タッチの表紙が目を引く。
翻訳を統一せず読むのは邪道かもしれませんが、これはこれで差を比べながら楽しめるので、アリなんじゃないかと個人的には思っています。
あ、あと最後に。
本作を初めて読むという方は、物語中に犬を毒殺する描写があるので、気をつけてくださいね。
正確には、もう末期で生きているほうがつらそうな状態なので、安楽死と殺害方法の確認もかねて、薬を服用させるのですが、犬が可哀想な作品は無理という方々はお気をつけて。
以下、ネタバレあり感想
読み終えて一番の感想は、
私はホームズのことを、なにひとつ理解してやいなかった
ってことですね。
わかった気になってただけだった。
例えるならデビュー当時から顔と名前だけは知っていたアイドルが、流行しはじめたとたん
「あ、私は初期から知ってたよ」
なんて古参ぶってみる、にわかファンですらない人間だった。
そのくらいわかっていなかった。
あのですね。
みなさん、ホームズの職業をご存知ですか?
「探偵でしょ?」
なんて声が聞こえてきそうですが、実はただの探偵じゃありません。
探偵コンサルタント
なんだそうです。
これはホームズ独自のもので、ほかに同業者はいないとのこと。
刑事とか、私立探偵は大勢いても、探偵コンサルタントはホームズただひとり。
もちろん、ホームズに影響を受けた作家が、のちに次々と似たような探偵を生み出すわけですが、少なくとも当時としては唯一を自称しており、だからこそ数多くのパスティーシュが生まれたのでしょう。
とはいえ、探偵コンサルタントってなんぞや、と疑問に思いますよね。
簡単にいうと、難事件の相談役のような存在で、事件に行きづまった警察や探偵に対して、今ある証拠から正しい方向に導いてやる仕事なんだそうです。
つまり、たんなる『探偵』ではなく、より推理力に長けた存在だというわけですね。
とうぜん、それだけのプライドもあります。
ホームズはワトスンくんに『人生の書』という、自身の書いた記事をバカにされても余裕綽々の態度なのですが、それはおそらく自らの推理法に対する絶対的自信の裏返し。
なぜなら、ほかの探偵と比較して
「エドガー・アラン・ポオのデュパンみたいだ」
と褒められると、
「デュパンはだいぶ落ちるんじゃないかな」
と不満げなようすだし、
「ガボリオーの探偵ルコックは」
と問われれば、
「ルコックなんてとんでもなくドジなやつで、探偵の反面教師にすべき本だ」
なんて言い捨ててしまう始末。
コレだいじょうぶ?? 各方面からお叱りを受けたりしない????
仮にも二大先輩作品ですよね??
ひょっとして作者のコナン・ドイルって、そうとうな毒舌家なんじゃ……。
イギリス人は息を吐くように皮肉を言うって噂は本当だったのか……!
(※イギリス人の知り合いもいないくせに、勝手にイメージだけ固まっていくようすをご覧ください)
なお、お気に入りの主人公ふたりをボロクソに言われたワトスンくん、イラッときたのか
「この男、頭は切れるかもしれないが自惚れが過ぎる」
と感想を抱く始末。
ホームズ、他人の好きなものを否定するとトラブルに発展するから気をつけようね。
何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ……!
ところでこのセリフ、ONEPIECEの主人公ルフィが言ったものじゃないって知ってました?
同じく週刊少年ジャンプで連載していた『ツギハギ漂流作家』の主人公・吉備真備のセリフなんですって。
「犬が嫌いか、猫が嫌いか」というくだらねェ議論で、すわタマの取り合いかというところまでヒートアップしちゃった人々に説教した場面なんですけど、主人公の容姿がルフィに似てるってことで、コラ画像が作られちゃったそうで。
それがあまりに有名になったためか、『Jスターズビクトリーバーサス』というゲームで、ルフィの台詞として収録されてしまうという珍事件まであったそうです(声優の田中真弓さんも「こんなセリフ言ったっけ?」状態だったとか)
好きなものでバトルしているという点では、きのこたけのこ戦争のほうがまだマシかもしれませんね。
ちなみに私はきのこ派です(唐突に燃料をぶちこんでいくスタイル)。
きのこのほうが甘さ控えめだし、ビスケットよりクラッカーのほうが好きだから……。
でもウイスキーに合わせるなら、たけのこのほうがイイ。
うーん、完全に酒クズの理論。
おっと、話がだいぶ脱線してしまったので、話をホームズに戻しますね。
ワトスンとホームズ。
ふたりが出会った当初、ワトスンは彼のことをつぶさに観察し、こうまとめています。
なぜこんなに知識が偏っているのか?
その理由を要約すると、
「脳の容量は決まっているため、無用な知識は忘れるようにしているから」
なのだそうです。
どうです?
現代の推理小説でもいそうですよね、こんな探偵役のキャラクター。
現実にいたら変人扱いされるか、無知な自分をごまかすために見栄を張っていると思われそうですが、創作においてはこういう変人キャラは天才であると相場が決まっています。
ホームズといえばヴァイオリンが得意、ということは知っていたので、なんとなくもっと常識と教養を愛するキザな正統派紳士だと思ってたんですよね。
いや、実際ホームズは
「ノーマン・ネルーダを聞きに、ハレ管弦楽団のコンサートに行きたい」
と言っており、芸術には通じているのですが(ということは、ヴァイオリンはホームズ的に必要な知識なのだろうか?)
ともあれ想像以上に変人というか、周囲の目線も気にせず自分の世界に没頭するさまは、オタク的に大変共感できました。
今思うと、私のホームズのイメージはコナンくん(名探偵コナン)なんですよね。
彼は博識で知識量が多く、いろんな雑学からヒントを得て事件を解決することがあります。
一方、彼が憧れてやまないホームズは、探偵に必要のない知識は極力頭に入れず、過去の犯罪パターンからヒントを得て事件を解決するようです。
こうして比べてみると、けっこう違うな……。
なんだか犯罪心理学とか、科学捜査とか、現代の犯罪捜査に通じるものがありますね。
こう聞くと、なんら特別なことはしていなくて、きちんとした論理にもとづいて推理しているようです。
だからワトスンも感心したんでしょうね。
そのワトスンとホームズが出会うきっかけが、まさか「お互いにルームシェア相手を探していたから」であるとは、知りませんでした。
ていうかふたりって同居してたのね!?
いや、どうりでしょっちゅう一緒にいる印象あるなーと思ってたわけだよ。
てっきりワトスンがしょっちゅうホームズ宅に押しかけて、
「ホームズ! 妙な事件があるんだが、キミの知恵を貸してくれ!」
って厄介ごとを持ってくるパターンだと思ってたよ。
「またか。キミがそうやってくるときは、厄介ごとの予感しかしないんだが……」
みたいに、面倒だから関わりたくないけど、他ならぬワトスンの頼みだから、最終的に仕方なく聞いてやる……みたいなイメージを持ってたよ。
私のこのイメージどっからきたんだ????
それに、ホームズが化学実験ばかりしているのも初耳でした。
正確には、正典を読むきっかけとなった作品の元ネタを調べているときに初めて知ったのですが……(元ネタについての記事はこちら!↓)
ホームズとワトスンのファーストコンタクトの場面で、ホームズは『ヘモグロビンに触れると沈澱するが、それ以外のものではぜったいに沈澱しない試薬』というものを発見したわけです。
いや、これすごくないです????
鑑識の能力が飛躍的に向上する大発見じゃないですか。
それがわかっているホームズのはしゃぎっぷりたるや、完全にオタクのそれです。
めちゃくちゃ早口でしゃべってそう。
もう、このあたりから私の中にあった『クールでキザなスカシ野郎』というホームズ像は崩れ去り、あとに残ったのは『自分の興味があることに邁進する化学オタク』という、なんだか親しみやすいホームズくんができあがったのでした。クールでキザなスカシ野郎ってそれ工藤新一では
しかもね、ワトスンくんいわく、
だそうで、なんかもう「可愛い」という感情まで湧いてくる始末。
だ、ダメだ! 騙されるな私!
いい年したオッサンを「可愛い」と思い始めたら終わりだぞ……!
というか、オッサンを少女にたとえだすワトスンくんもいろいろアレじゃない??
この時点でホームズに入れこんでるよね。
そのワトスンくんもワトスンくんで、私の想像とはけっこう違いました。
なんか、私の中ではホームズのほうが気難しくて、ワトスンが「まあまあ」って場を取り持ってくれるイメージだったんですよね。
それが蓋を開けてみれば、ホームズのほうがマイペースで、ワトスンのほうが短気っぽい。
いや、ホームズも思考のとちゅうで邪魔されると「そんなことどうでもいい」とか言っちゃうんだけど、すぐにハッとして、
「すまない、失礼な言いかたをした。考え事の邪魔をされたんで、ついカッとなってしまった」
と謝るんですよね。
自分のことを冷静に分析して、相手に気をつかえる紳士じゃなければ言えませんよ、そういうことは。
一方、ワトスンは自分が普段から寝坊助で、たまに早起きしたりすると朝食が用意されてなくて(作る側も時間が読めないんだから当たり前)、自分が理不尽なことを言っていると自覚しながらも、イヤミを言ったりする。
うーん、現代ならSNSで「クソ客」だとか「パワハラ野郎」だとかで炎上しかねませんよコレ。
ここが18世紀末のロンドンで命拾いしたねキミィ!
ちなみにホームズは早寝早起きだそう。これも意外。
天才って宵っぱりで朝寝坊なイメージがあったから……(偏見の塊)
そのワトスンくん、物語冒頭でジェザイル弾を浴びるのですが、なんと鎖骨下動脈をかすっています。
こここ怖ァ!!!!
肩を負傷するのは知ってたけど、一歩間違えたら死ぞ!!
身をていして助けたマレーくん、よくやった!
キミがいなければ物語は始まる前に終了していたよ……!
ここマジのファインプレーだと思います。
イギリスは彼に勲章を与えてやってくれ。
そうやって奇跡の連続で出会ったふたりが、だんだんとお互いを信頼していくようすがわかってたまりませんね。
物語のとちゅうから、グレグスンとレストレードというヘッポコ二人組が出てくるのですが、難事件にぶつかるとホームズにゴマ擦って助けてもらうくせに、ホームズが失敗しそうになると嬉しそうにニヤニヤしだすんですよね。普段は仲悪いくせに、こういう時だけ息ぴったりなんだからもう。
でもね、最初のほうはあれだけホームズを疑っていたワトスンが、このときには同情したり、心配したりしているわけですよ。
いいやつですよね、ワトスンくん。
ホームズが信頼する理由がよくわかる。
でも、ホームズが解決した事件の手柄は、最終的に全部ヘッポコ二人組がもっていってしまうのだから世知辛い。
新聞なんて、
なんて抜かすものだから、滑稽すぎて笑っちゃいます。
しかしわたくし、レストレード警部といったら、もっとホームズに協力的で、信頼関係にあると思っていたんですよね。
いや、事実協力的ではあるんですけど、本音ではこんな探偵に頼りたくないし、どこか見下してる感じがあるというか。
かの『劇場版 名探偵コナン ベイカー街の亡霊』では、レストレード警部といったら頼りになるお助けキャラといった扱いでしたから。
グレグスンはすまん、存在すら知らなかった。たしか映画には出てこなかったから……。
さて、そんなヘッポコたちの協力を経て捕まえた犯人ですが、第一部でその正体が明かされます。
そして「おおっ、面白くなってきたぞ!」というところで第二部に突入するのですが……。
第二部、いきなり砂漠に放り出される。
な なに――っ!!
今まで読んでいたミステリーは????
困惑しながら読み進めていくうちに、どうも犯人の過去回想だということがわかる。
犯人がなぜ今回の殺害に至ったのか、というエピソードなのだが……。
もうね、ツライ。
だって第一部の最後で犯人が明かされてるし、被害者たちも出てくるもんだから、これから犯人とその大切な人たちがどんな目に遭うかわかってるわけですよ、こっちは。
言わば不幸になる過程を、じっくりゆっくり見せつけられているわけです。
や、やめろ――!!
ルドヴィゴ療法やりたいわけじゃねェんだこちとら!!
擬似的に『時計じかけのオレンジ』の主人公・アレックスの気分を味わせるのはよせ!!!!
共感疲労でぶっ倒れるわ!!!!!!
それでね、ハイ。
案の定、嫌な予感は的中しちゃうわけですよ。
唯一の救い(?)は、大切な人たちが奪われる瞬間の描写はなくて、結果だけがアッサリ明かされることですね。
そこまで具体的に書かれていたら、ちょっとメンタルにきていたので助かりました。
こちとら三歳のころから筋金入りの共感性恐怖心と共感性羞恥心の持ち主なので……。
ホラーとか見た後ぐったりしちゃう人間なので……。
で、犯人は被害者どもに復讐することを決意するわけですが。
……正直なこと言っていいですか?
私、ぶっちゃけ殺されたふたりより、ヤングにこそ復讐してほしいくらいムカつくんですけど。
コイツがすべての元凶なわけじゃないですか。
こんなバカげた因習があるから不幸が生まれたワケで。
なんなら〈預言者〉と〈四長老会〉を全滅させるくらいしてほしかったのですが、まあひとりでやるのは無理がありますね。
なろう系チート主人公だったら、ひとりでも無双してスカッとしているところでしたが。
でも、ヤングって注釈みる限り実在の人物っぽくて、こんなふうに描いていいのか……? という戸惑いもあります。
あとがきにも
とあるので、問題ではあるのでしょうね。
しかし、当時は今のようにインターネットやSNSで簡単に情報が仕入れられるわけでもなく、実際に一夫多妻制であったことは事実なわけで、誤解や偏見はドイルだけの責任ではなく、当時のイギリス(あるいはヨーロッパ)全体にはびこっていた問題だったのではないでしょうか。
なので実在するブリガム・ヤングではなく、そういう名前をした架空のキャラクターとして言及しますが、やっぱコイツが悲劇の元凶じゃない??
被害者ふたりはぶっちゃけ小物っつーか、〈長老〉の息子として強権を振るってたときはあんなに威張り散らかしてたのに、組織から抜けたら逃げまわることしかできないんすね(笑)
あんな暗殺組織とか抱えてる教団の権力者だから、犯人と対峙したときも、撃退してやろうと取っ組み合いでもやるのかと思ってましたよ。
それが蓋を開けてみれば、みっともなく命乞いなんてするものだから、なんか拍子抜けというか。
私が第二部であんなに怖がっていたモルモンの追っ手とはなんだったのか。あまり失望させないでほしい。
正直な話、第二部で語られる犯人の過去は、もっとサラッと説明するくらいでよかったんじゃないかなぁ。
だってこの本、ワトスンくんが書いたって設定なんでしょ?
それにしては犯人の過去話が嫌に具体的じゃない??
あの自白から、なぜ小説ばりに詳しい描写が書けてしまうのか。
次作『四つの署名』冒頭を少しだけ読んだのですが、そっちでホームズに「あの事件にロマンチックな色合いを混ぜこもうとした」と指摘されたのは、このあたりが原因だろうか。
あと、新聞広告を怪しんで、老婆に変装した友人を代理で向かわせたくらい慎重派な犯人が、ノコノコとベイカー街二二一Bにきたのもマヌケな話ですし。
オメー先日そこにいくの警戒しまくってたじゃねぇか!!
私はこのとき、
「きっとホームズがなんらかの罠を張って、犯人が直接こざるを得ない状況を作りあげたんだろうな」
と思っていたのですが、そんなことはなかった。
まあ、ベイカー街イレギュラーズという、警戒心を和らげる相手から呼び出されたからかもしれませんが(というか、事実作中ではそうなっている)、いくらなんでも急にチョロくない……?
とはいえ、読み物としては大変満足でした。
『劇場版 名探偵コナン ベイカー街の亡霊』で、少年探偵団が間違われたベイカー街イレギュラーズも見られましたし!
いやあ、出てきたときは「これがかの!」ってテンションあがったなぁ。
なにかとコナンの話ばかりしてウザいことこの上ないでしょうけど、私の知識がコナン基準ゆえ、お許しください。
とにかくキャラクターが魅力的で、古典作品のはずなのに、今読んでも楽しいのがすごいですね!
さすが全世界に今なお根づよいシャーロキアンがいる作品なだけあります。
この調子で、少しずつシャーロック・ホームズシリーズの読破を目指していきたいと思います。
それでは、今回はこのへんで。