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【選挙ウォッチャー】 新潟県知事選2018・柏崎刈羽原発再稼働問題。

東京大学を卒業し、ハーバード大学にも進学して、医師と弁護士の資格を持ち、これ以上ない肩書きを手に入れて、最終的には新潟県知事になったのに、あんまりにも女のコにモテないもので、「ハッピーメール」という出逢い系アプリに手を出し、心をお金で買おうとして女子大生に3万円を渡し、束の間の幻を見せてもらった代償が「知事の辞任」になってしまった、究極の非モテ男子・米山隆一さん。援助交際は違法であるものの、ここまで情けないと僅かながらに同情心さえ芽生えかねませんが、県内はもちろん、県外からも「何をしとんねん!」と総ツッコミされたのは言うまでもありません。本当だったら、最低でもあと2年知事をやっていただき、好評ならプラス4年、プラス8年と知事を続けていただくところだったのですが、橋下徹さんをはじめ、さまざまな政治家や評論家に物を申す知事だったのですが、実際には単なる「援助交際野郎」だったので、もはや説得力の欠片もなく、誰もが「辞任やむなし」と思っていることだと思います。

米山隆一知事の辞任に伴い、6月10日に新潟県知事選が行われることになりました。まさか米山隆一さんが突然の辞任に追い込まれることになるとは与野党ともに想定外で、急遽、候補者を探すことになり、柏崎刈羽原発の再稼働を目指す自民党が擁立したのは泉田裕彦さんが知事だった時の副知事・花角英世さん、柏崎刈羽原発の再稼働に反対する野党側が擁立したのは新潟県議の池田千賀子さんでした。


■ 改めて問われることになった「柏崎刈羽原発」の再稼働

東京電力が管轄している原発は全部で3つあります。福島第一原発、福島第二原発、柏崎刈羽原発です。このうち、福島第一原発は1号機から4号機までが世界史に残るレベルの原発事故を起こし、5号機と6号機は停止中ですが、こちらも廃炉は免れない状況です。福島第二原発もギリギリのところで福島第一原発のような惨状を免れたものの、かなり危険な状態に陥ったことは事実で、原発事故によって多くの故郷が失われてしまったことを考えると、県民感情として福島第二原発の再稼働が認められる日が来るとは思えません。試しに「福島第二原発を再稼働しよう!」と言い出したら、一体、どれだけの人に「オマエ、何言ってるんだ?」と言われるでしょうか。事故を起こした張本人である東京電力が、いまだ反省も検証も済んでいないけれど、事故ったのはあくまで福島第一原発なので、「福島第二原発を再稼働しよう!」と言い出したら、なかなか頭が狂っていると思うのではないでしょうか。そんな中、今、問われているのは福島第一原発事故を起こした東京電力が「柏崎刈羽原発を再稼働しよう!」と言っていて、それを認めるかどうかです。

花角英世さんは、「県民の皆さんが納得しない限りは柏崎刈羽原発を再稼働しない」と明言しています。しかし、そのやり方がスゴいです。原発の再稼働まであと一歩の段階まで進め、最終確認を信を問うために辞職し、選挙をもって県民の皆さんに判断してもらうというのです。果たして、そのやり方はフェアなのでしょうか。今もそうですが、花角英世さんを支持している人たちの中で「花角英世さんが原発を再稼働してくれる存在だから」という理由で投票するのは、ごく一部の原発賛成派だけです。多くの人は花角英世さんの官僚や副知事時代の実績から県政を期待していたり、自民党との太いパイプを利用してアベノミクスの恩恵を地方に届けてほしいと思っていたりと、原発以外のことを決め手にしています。むしろ原発を再稼働してくれることを決め手としている人は少数派なのです。きっと次の選挙でも、花角英世さんに投票する人は原発問題以外のものに期待して投票するのではないでしょうか。果たして、それを新潟県民の意志として捉えていいものなのでしょうか。

一方、池田千賀子さんは、最初から「柏崎刈羽原発の再稼働はしない」と明言しており、心配なのは、知事になった瞬間に原発賛成派に寝返ることだけです。新潟県民は民主党政権時代、当時の野田佳彦総理がTPPを推進しようとしていて、自民党は新潟の農業をぶち壊すのかと憤慨して「TPP断固反対」と打ち出したものの、いざ自民党が政権を握った瞬間、TPP推進にまっしぐらだったという悲惨な寝返りを経験しています。そういう意味で、米山隆一さんが原発賛成に寝返ることはなかったのですが、「ハッピーメール」で知り合った女子大生の隣で寝返りを打っていたので、これはこれで別の悲劇です。やはり池田千賀子さんがどれくらい寝返る心配がないのかということは確認する必要があると思います。

新潟県全体では柏崎刈羽原発の再稼働を積極的に望む人はいないものの、やはり原発が立地する柏崎市や刈羽村では原発の再稼働を望む声はあります。実際に柏崎市の中心街を歩いてみたのですが、小さな商店がいくつか点在する一角に、スナックが20店舗ぐらい密集するエリアを見つけました。例えば、このスナック街は柏崎刈羽原発が再稼働し、全国各地から原発作業員が集められると、地元の美人お姉さんたちがお酒を作り、とっても潤うのです。新潟は本当に美人が多いので、原発が再稼働してスナックもバリバリに再稼働すれば、さぞ楽しい夜になることは間違いないと思いますが、事故を起こした実績のある東京電力が何の反省もせずに再稼働して、よもや柏崎刈羽原発で事故を起こすようなことがあったら、柏崎市にも刈羽村にも人が住めなくなるのは言うまでもなく、柏崎刈羽原発は日本の真ん中に位置しているので、今度という今度は日本中が放射能に汚染され、日本という国そのものが終わることになるでしょう。まさか「スナックの美人お姉さんとの楽しい夜」「日本終了」を天秤にかけるわけにはいかないので、地元の経済を回す方法を「原発一択」にしてしまうというのは、とても頭が悪いと思うのです。


■ 「柏崎刈羽原発の再稼働」という本来の争点をズラす自民党の選挙戦略

経団連のお望みのままに「高度プロフェッショナル制度」を強引に押し通した安倍政権にとって、柏崎刈羽原発の再稼働は、やるべきミッションの一つです。そのために、わざわざ安倍政権がアンダーコントロールできる花角英世さんを擁立させているわけですから、「県民の皆さんが納得するまで再稼働しない」とは言うものの、その言葉の本当の意味は「県民の皆さんが納得したことにして再稼働するまでのロードマップを作る」なのです。名護市長選で稲嶺進さんを破った渡具知武豊さんが表向きは「辺野古基地には慎重」と言いながら、実際には推進に向けて動き出しているのは自民党と政策協定を結び、自民党の言うことを忠実に守るからです。当然、自民党からゴリゴリに推されている花角英世さんが自民党との政策協定を結んでいないはずがなく、実際に柏崎刈羽原発を再稼働させるまでの下準備は公約違反にならない算段です。さすがに有権者もバカではないので、多くの人が「やがては柏崎刈羽原発を再稼働させる人」であることを理解した上で花角英世さんに投票すると思うのですが、原発再稼働問題が「争点化」されてしまうと、やはり直前で池田千賀子さんに投票しまう人が増えてしまうので、なるべく争点化しない戦略が取られています。

選挙序盤は原発問題を中心に語っていた池田千賀子さんでしたが、争点化を避けたい花角英世さんは応援演説にやってくる弁士たちも含め、何度も「新潟の問題は原発の問題だけではない」と主張してきました。選挙とは、常に相手の攻勢を無効化する戦いなので、原発問題を問われたら「原発だけではない」と返すことが戦略上も必要です。ところが、選挙中盤に入る頃から池田千賀子さんは経済対策や農業対策について多く語るようになり、自民党に言われるがままの政策ではなく、地元県議だった経験を生かして「新潟のことは新潟で決める」をキャッチフレーズに攻勢を強めることになったのです。花角英世さん陣営としては、いつまでも原発問題について語っていてほしかったと思いますが、池田千賀子さんが経済問題や農業問題、TPP問題までを語るようになってしまったからには、次なる戦略を考えなければならないと思います。花角英世陣営の次なる一手に注目です。


■ 実際に柏崎刈羽原発に行ってみた

争点ではなくなりつつある柏崎刈羽原発の再稼働問題ですが、せっかくなので、実際に柏崎刈羽原発に行ってきました。PR施設の受付のお姉さんに聞いたところ、中の写真は「撮り放題」だというので、「ふむふむ」とか言いながら冒険してみたのですが、東京電力が運営しているこの施設、福島第一原発事故後に見てみると、なかなか香ばしくて面白いです。

例えば、発電方法にはメリットとデメリットがあるという話では、原発のデメリットとして「出力調整がしにくい」とか「放射性廃棄物が発生する」と書かれているのですが、一番重要なデメリットが書かれていません。それは「原発事故が起こると近隣の村が壊滅し、日本経済に深刻な影響をもたらす」というものです。福島第一原発事故で、我々はいくらの血税を支払うことになったのでしょうか。この表を見ただけで、東京電力が何一つ事故の反省をしていないことは一目瞭然です。

格納容器の中のレプリカがあり、偶然にもオジサンやオバサンがツアーで訪れていたのですが、東京電力の職員のオジサンが相変わらず「どれだけ安全なのか」を語っていて、相変わらず厚いコンクリートで覆われているので安心・安全だと説明していました。どれだけ厚いコンクリートで覆われていても、まったく関係なかったのが福島第一原発事故なのですが、その話は全然してもらえず、とにかく大丈夫だと言っているのです。でも、ちょっと面白かったのは、ツアーのオジサンの中に面倒臭いミリタリーオタクの爺さんがいて、「ロシア製のナンチャラ(※記者失念)というピストルだと10メートルのコンクリートを軽々と撃ち抜くので、その程度の厚さのコンクリートだったら一撃で終わるんだけど、どうするのか?」という質問していて、東京電力の職員のオジサンが答えられずに困っていると、特殊なピストルの話だから分からないのかもしれないということで、今度はロケットランチャーの話になり、心の中で「武器の種類の問題じゃねぇんだよ、ジジィ!」と思いながら見守っていたのですが、まったく埒が開かないので、最終的には「普通にミサイルを撃たれたら?」という話になり、東京電力の職員のオジサンが答えたのは「そうならないように自衛隊に守ってもらうしかない」でした。ちなみに、ミリタリーオタクの爺さんはなぜか「自衛隊に守ってもらうしかない」で納得して、「だよねー!」で説明終了。この世はなかなかスゴいです。

この柏崎刈羽原発のPR館は、茶番の連続です。例えば、「1平方センチあたり88キロの圧力に耐えることができる主蒸気管」なるものが展示されていて、「こんなに頑丈な管が使われているので安全ですよ」と言いたいのだと思いますが、滅多に来ない観光客がたびたび管を触るので、管の上部が手の摩擦でハゲているのです。レプリカだからなのかもしれませんが、人が触ったぐらいで軽々と劣化してしまう管を見せつけられて「安心ですよ感」を出されても、「そりゃ各地の原発で配管の劣化が問題されるよな!」としか思えません。

もっと茶番なのは、ここがあくまで柏崎刈羽原発のPR館だということを踏まえて見ていただきたいのですが、電気の配線がガムテープで止められていることです。どこぞの小汚い居酒屋なんかでこういう光景を見ないこともありませんが、「原発は安全です!」と言いたい施設の配線がガムテープなのです。PR施設ですら「あるまじきこと」が起こっているのに、原発がちゃんと管理されているというのを信じていいのでしょうか。いまだに日立、東芝、三菱重工が「原子力ルネッサンス」という幻を見て、東芝はほぼ倒産、日立もイギリスの原発で大赤字のリスクが囁かれ、三菱重工は国の政策に従い過ぎて経営難が囁かれるなど、原子力産業に携わってきた日本企業がほぼ壊滅状態。それでもなお斜陽産業である原子力にすがらなければならない日本というのは、この先、ちゃんとやっていけるのでしょうか。今となっては原子力産業そのものをガムテープでつなぎ止めているような状態なのに、美味しいお米が取れる新潟を担保に入れてまで柏崎刈羽原発を動かすべきものなのかどうか。改めて考えたいものです。


■ 選挙ウォッチャーの分析&傾向

2007年の新潟県中越地震の時には、深刻な事故が起こっていたにもかかわらず、事故を隠蔽していた東京電力。何も反省も検証もされないまま、2011年に福島第一原発事故は起こり、相変わらずメルトダウンしていたことを半年以上も隠し続け、またしても何の反省も検証もされないまま、2018年の新潟県知事選では「柏崎刈羽原発の再稼働」を目指しているのです。柏崎刈羽原発のPR館を見ても、福島第一原発事故のことはなかったような展示が続いている現実。新潟の有権者の方々はどのような審判を下すのか。6月10日の新潟県知事選から目が離せません。[了]

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