【勝手に読書感想部】月まで三キロ:伊与原新
[あらすじ]
天文学・気象学・考古学・地質学・素粒子物理学・火山学・・・。
科学をテーマに描かれた短編集。
「ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編」というコピーが帯に書かれていましたが、この小説に出てくる主人公たちはみんな、人生において何かしらの問題を抱えていたり、うまく身動きがとれなくて滞留している状態にあります。
そんな彼らを、自然や科学が優しく見守ってくれたり、解決の糸口を示してくれたりするショートストーリーです。
[ネタバレと感想]
「自然科学」テーマに描かれた短編集ということですが、文系の私でも内容がすんなり入ってきて、勉強にもなりました。
雪の結晶にこんなに種類があって、気象条件によってそのカタチが変わるってこともなんとなくしか知らなかったし・・・。
「星六花」もすぐ調べました。笑
知れば知るほどなんだか奥深いですよね。
こういったことを知るきっかけになったという意味でも、この本に出会えて良かったなって思います。
雪が降ったらスマホでマクロで撮影してみたくなりました!
そしてもう一つ、全体的な大きなテーマに感じられたのは「家族」でしょうか。
個人的に心に残ったのは、「エイリアン食堂」と「山を刻む」です。
「エイリアン食堂」
プレアさんのキャラが凄くたってて大好きでした。
「義母と娘のブルース」で綾瀬はるかさんが演じていたアキコさんのようなイメージ。
このプレアさんとの出会いを通じて、親子の関係性の微妙な変化が生じ、成長に繋がっていきます。
プレアさんが、毎日さかえ食堂に夕飯を食べに来るのに、何故かイチオシの日替わり定食を注文しない理由も、なんかかわいくて面白かったです。
この3人のエイリアンの物語をもっと見ていたくなりました。
「山を刻む」
専業主婦として2人の子どもを育て上げ、夫と義父母の面倒を見ているうちに、自分を見失ってしまった主人公。
家族からは感謝の気持ちを示されることもなければ、言葉にして必要とされることもない。
ただただ搾取されて削られる日々。
一昔前までは当たり前だった「女性は結婚して家庭に入る」という価値観が痛かったです。
長年家庭に縛られてきた主人公が、山での出会いをきっかけに、自分の夢に向かって歩みを進める決意をする。
自分の夢を家族が応援してくれる未来を想像しながら終わる感じも、希望があってよかったです。