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【勝手に読書感想部】ポイズンドーター・ホーリーマザー:湊かなえ

短編集はサクサク読みやすくて好き。
全6篇のショートストーリーで構成されています。
それぞれ、湊かなえ先生特有の後味の悪さと不快感が滲み出ていて、読んでて病みつきになりそうです。

どれも印象的なストーリーで、母と娘の関係性が物語の軸になっているお話が多かったです。(「ベストフレンド」だけはちょっと違ってましたが。)

視点が変わると別の真実が浮かび上がってくる。
そう言った意味で1番皮肉に感じたのが、3話目の「罪深き女」。

同じアパートに住んでいた年下の男の子「正幸くん」が、主人公の幸奈を毒親から助けるためにアパートに火をつけ、自分の母親と幸奈の母親を殺してしまう。
大人になって再会し言葉を交わした1週間後に同じ場所で彼は通り魔殺人を犯し逮捕される。
幸奈は再会した時に彼氏がいることを「正幸くん」に話したことにより、裏切られたと感じて自暴自棄になり凶行に走られてしまったのだと、罪の意識に苦しむ。

・・・「私のせいで」というのは全て主人公の頭の中から生まれた盛大な妄想。
勝手に自分の罪を作り出して、勝手に思いなやむ悲劇のヒロインだった、というオチ。最後まで読むと、よくここまで自分主体で話を膨らませることが出来るよなってくらい真実が歪んでいた。
一連の犯行動機に幸奈は全くの無関係で、「正幸くん」は彼女のことを覚えてもいなかった。(俯瞰で見ると、無関係とも言いづらいかもしれないけど。)
こっちが恥ずかしくなるくらい「正幸くん」への依存心が強くてちょっと笑えた。


表題作になってる「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」についても、同じく、娘視点、母の友人視点、娘の友人視点、といった具合に複数の視点から1つの事件を見つめることでいろんな事実が見えてきた。
娘の視点から見れば自分の母は毒親で、その支配から逃れるための行動をとっていたが、周りから見れば、皮肉にも娘想いの優しい母親、聖母のような存在で、友人や近所の人からも慕われていた。

親友だと思っていた子が、実は彼女をめちゃめちゃ嫌っていたっていうのも結構衝撃だった。
女優になったからって、みんなからちやほやされる訳じゃないんだな・・・。

皮肉って「皮」と「肉」って書くけど、大事なのは「骨」と「髄」で・・・みたいな話を聞いたことがある。(達磨大師と4人の弟子の話だそうです。)
人って、妄想で真実に肉付けして、ストーリーを自分の都合の良いように歪ませてしまうところがある。
だからこそ、さまざまな角度から事象を見つめる必要があると思っている。自分自身、仕事でもプライベートでも気をつけてる部分でもある。
だけど、この小説の登場人物たちは、自分で肉付けして皮を貼った「真実」の方に身を寄せて、なんなら依存しちゃってる感じがする。
まさに「皮肉」だわ。

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