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【勝手に読書感想部】鍵のない夢を見る:辻村深月
直木賞受賞の短編小説集。
辻村深月先生の作品は青春長編ストーリーのイメージが強いけど、この短編集は、色んな年代のいろんな心情を持った女性が出てきて読みやすくて、どのお話も面白かった。
・仁志野町の泥棒
・石蕗南地区の放火
・美弥谷団地の逃亡者
・芹葉大学の夢と殺人
・君本家の誘拐
どのストーリーも、主人公は女性なんだけど
本当に人に見せたくないような、妬みの感情だったり、どうしょうもないプライドだったり、見栄だったりが渦巻いていて読み進めていて小気味よい感じ。
共感できる作品、面白いと思える印象的な作品は、多分読む人によって全然変わってくるんだろうと思う。
個人的に1番、印象的で心地よい不快感を得られたのは、
「石蕗南地区の放火」
こちらの作品の感想をつらつらと書きたいと思います。
[以下一部内容にネタバレ含みます]
実家の向かいにあるの消防団詰所で不審火があったということで、共済地方支部に勤める主人公の笙子(しょうこ)が現場調査に行く。
そこには、彼女がもっとも顔を合わせたくない人物がいた。
消防団員の大林。
お世辞にもいい男とはいえない大林からしつこく誘われ、笙子は断りきれずに一度だけデートした。
36歳で親からは猛烈な結婚プレッシャーが与えられていて、なんで大林じゃだめなのかと小言を言われる。
職場の同僚で10歳以上年下の“ともちゃん”には絶対バカにされるから、デートしたなんて言えない。
そんな状況下で、火事現場で再会した大林は、わざとらしくも親しげに笙子に声をかけてくるのだった。
こんなに嫌ですアピールしているのに、空気の読めない大林に対し、笙子は調査員である自分に会いたいがために実家の正面の詰所に付け火をしたのではないかと疑念を持つ。
笙子の予感は的中し、大林は放火の容疑で逮捕される。
自分のために犯罪を犯したことが明るみになると、実家や職場にマスコミが詰めかけて大変なことになるんじゃないか・・・と不安でたまらなくなる笙子。いろんな想像が駆け巡り、脳内はまさに悲劇のヒロイン。
そんな中この事件の続報から大林の証言をネット記事で確認し、笙子は愕然とする。
「ヒーローになりたかった」
笙子の自意識過剰っぷりと後味の悪さに笑えてくる。
30後半独身女性のこころに常に渦巻くもやっとした不安感とか、若くてきれいな年下女性に対するひがみや嫉妬の感情。そして、昔は綺麗でモテたという過去の栄光にすがり続けて、さえない男を見下すことでプライドを保ち続けている虚しさやカッコ悪さが、読んでいていたたまれない気持ちになった。
だけど、これって結構あるあるで、こういう女性は自分の周りにも確かに存在する。はたから見るとめちゃめちゃイタイんだけど、本人は気づいていないと言うか・・・。
本当にきれいな人なのに高すぎる理想とプライドで婚期を逃してしまっている。自分の男運の無さを嘆くけど、原因は自分にあるわけで・・・。
気持ちは分かるし、恥ずかしながら共感できてしまう部分もある。
考えれば考えるほど、風刺が効いていて面白い作品だったなーと思う。