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【勝手に読書感想部】楽園のカンヴァス:原田マハ

[作品紹介]

かつて日本人のアンリ・ルソー研究の第一人者としてパリで華やかに活躍していた早川織絵は、娘の妊娠出産を機に地元倉敷に帰り、大原美術館で監視員をしていた。
反抗期の娘と、母親と3人、慎ましく地味な日常を送っていた。
そんなある日、館長に呼び出された織絵は、MoMAが保有するルソー「夢」の貸出にあたり日本サイドの交渉を担当して欲しいと、打診を受ける。
織絵を指名してきたのはMoMAのチーフキュレーター、ティム・ブラウン

遡ること1983年、ティム織絵は怪物的美術コレクター、コンラート・バイラ―の依頼で、7日間に及ぶルソー作品の真贋鑑定勝負をしたかつてのライバルでもあった。



[アンリ・ルソーについて]

個人的には、ルソーの描く人物シュールな表情とヘタウマで独特な世界観が大好きです。
40歳から本格的に絵を書き始めたっていうエピソードも夢があっていいなって思います。

先日、広島県の下瀬美術館で見た、『家族のつどい』。
赤ちゃんと子どもたちがやけに老け顔で、表情もめちゃめちゃシュールで暫く絵の前で釘付けになってしまいました。


作中には出てきませんでしたが私のお気に入りは、『フットボールをする人々』。
刑務所の中とは思えない、きれいな青空と木々に囲まれ、鮮やかなしましまの囚人服を着た受刑者、楽しげでコミカルなポーズ。
なんとも言えずシュールで思わず笑ってしまいました。

《フットボールをする人々》ソロモン・R・グッゲンハイム美術館 アンリ・ルソー



[感想]

*一部ネタバレ含みますので、まだ読まれていな方はご注意ください。


「美術ミステリー」というジャンルみたいです。
もちろんミステリー要素満載でハラハラ感もあり、感情が行ったり着たりする感じを楽しめたのですが、読み終わってみると『楽園のカンヴァス』という作品はルソーの作品を通じた、ファミリーヒストリーのような感覚でした。
「夢をみた」にまつわる1つの秘密が明らかになったとき、心がじんわりと暖かくなりました。
愛する妻を差し出して、自分の生活を切り詰めてでも、ルソーの創作活動をサポートし続けたバイラ―の行動は本当に粋でしたね。
ルソー作品を愛し、芸術を愛した1人のバイプレイヤー。
『夢をみた』の中でヤドヴィガの夫ジョセフとしてたびたび登場していましたが、そのたびに「この人めちゃめちゃいい人なのに、損な役回りだな」と読み進めながら感じていました。
『夢をみた』という壮大な物語を、そしてその作品の中に息づく自身の存在を、バイラー(ジョセフ)は2人の優秀な研究者に知ってほしかったのかなと感じました。

また、ルソーピカソの友情にもグッときましたね。
どこまでがフィクションでどこまでが史実か分かりませんが、『夢』(あるいは『夢をみた』)のしたにブルーピカソが眠っているかもしれないと思うと、胸が熱くなります。

こんな風に、実在する絵画をモチーフにストーリーが展開していく原田マハ先生の小説。本当に楽しい読書体験ができました。
舞台になった倉敷の大原美術館にも、久しぶりに行きたくなりました。

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