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【勝手に読書感想部】夜のピクニック:恩田陸

[あらすじ]

貴子たちの通う高校で毎年行われる伝統行事「歩行祭」。
全校生徒が、朝から出発して一晩中歩き続けるという超絶ハードなイベントに合わせて、貴子はひとつの「賭け」を自分自身に課して挑んでいた。
青春ドラマにありがちな恋愛とかじゃなくて、もっと複雑な感情から関係性を築けずにいる同じクラスの西脇融に対する、賭けを。

[ネタバレと感想]

青春版ロードムービー!って感じですごく好きなお話でした。
爽やかな秋の朝の光とか、サラサラと一面にススキが揺れている風景、昼と夜の境界の時間に水平線に沈む夕日と残光、夜の空全体に煌めく満点の星、徐々に夜が明けて世界が少しずつ明るくなっていく様子・・・
歩みを進める中で、移り変わっていく景色が目の前に浮かんできて、とてもキレイでした。

こんな美しい情景の中で、キレイな友情とか恋愛の物語が紡がれていく。
たった1日のストーリーなのに青春がぎゅっと詰まってて・・・読み終えてみて、心が満腹になりました。

「同じクラスにずっと話してみたかった子がいて」
お互いに理解し合いたいって思っているのに、自分の出生の背景が邪魔して、近寄ることができなかった貴子と融。
貴子のこの切り出し方に、ぎゅっと心を掴まれました。

杏奈のおまじないも忍と美和子の助け舟も、高見の粋な計らいも、二人の周りには優しい空気が溢れていてすごくステキ!こっちまで優しい気持ちになれました。

これって「青春」!

自分が高校生の頃にこんなイベントがあったら、自分はどんな感情で臨んだだろう?と想像してみる・・・
貴子のように、一世一代の賭けを心に掲げて臨んだだろうか?
融のように、気の合う友だちと約束して二人で行動しただろうか?
高見のように、夜になると空気を読まずにはしゃいで周りを引かせただろうか?
忍のように、自分の記録とかは後回しに、大好きな友だちに最後までつきあっただろうか?
亮子のように、イベントにかこつけてしたたかに好きな人に近づこうとしただろうか?
それとも、一人ぼっちにならないように、必死でどこかのグループに潜り込んだだろうか・・・?

もしかしたら直前でだるくなって、サボっちゃうかもしれない?
だけど、このイベントは「青春」そのものなので、放棄してしまうのは本当に勿体無い。
必死でもがいて、ぶつかって、向き合った人にこそ、10年先、20年先に笑顔で振り返れる「青春」という輝かしいアワードが授与されるんだ。

現実の世界でも、思う。
例えば、授業中ずーっと寝てる学生。
教室で誰とも目を合わせず、会話もしない、周りに関心がない。
困難に立ち向かわないし、嫌な思いをしない方向に周りの大人や社会が誘導してくれる。
そうやって、ぶつからないように、向き合わないように過ごしている学生を見ていると本当に勿体無いなーって感じてしまいます。
「青春」を放棄しているようで・・・。

私だってそうだ。
時々人と向き合うのが億劫になったり、面倒なことに直面しないように回避策を考えたり。
そもそも日常を生きることに全力を出さないようにしているよな・・・。
これって「青春」を放棄してないか?

「夜のピクニック」は、一瞬一瞬を全力で生きること、困難があっても真正面から向き合うことを推奨してくれるような、「青春」を後押ししてくれるような作品だったように思います。

今日が1番若い日!
自分自身の澱んだ毎日を見直して、私だって死ぬまで「青春」を歩き続けたい!って思わせてもらえました。

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