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「ジャッジ」から開放されるということ
私は、モデルなんて職業をやっていながら、もともと格好良い人間ではないので、自信がないです。「向いていない」って、いつも思います。
じゃあなぜ、そんなことを10年以上も続けているのかというと、
私にとって「表現すること」というのは「呼吸すること」と同じくらい必要不可欠なことで、
なおかつ、ピアニストがピアノを弾くように、画家が絵具や筆を使うように、何かを通して表現できれば良かったのですが、
器用じゃないから自分自身しかまともに使える道具がなかったのです。
(といいつつ、全く使いこなせない時もあります。)
自分を使うことが仕事のモデルや俳優は、自身の「心」「身体」「声」を使って何かを表現するわけですが、その際に「自意識」が邪魔をします。
「失敗したくない」
「良く思われたい」
「こういうふうに見られたい」
誰もが大なり小なり持っている、こんな気持ちが心と身体と声を硬く縮こまらせて、表現を「偽物」にしてしまいます。
ではどうしたら、よい表現ができるのでしょうか。
私は最近、もう一度演技の勉強をするために、スクールに通っています。
そこでは、「いい俳優は、演じるときもリラックスしている」といいます。
リラックスしていると人は集中力が増し、集中することで五感の記憶が鮮明に呼び起こされ、そこに無いはずの物をありありと感じられたり、演技の中に本物の感情をみれたりするのだそうです。
では、リラックスしているというのはどういう状態なのでしょう。
それは、心と身体が開放されている状態です。
私たちは普段、「社会」「教育」「人間関係」など様々なものから影響を受けて、
「こうあるべき」
「この感情は悪」
「こんなことしたら恥ずかしい」
という「判断(ジャッジ)」をしています。
でもこれは、頭が下した「判断(ジャッジ)」であり、私たちの本当の感情ではありません。
私たちは皆、感じた気持ちを即座に「ジャッジ」して、本当の感情をおし殺し、言いたいことを我慢して生きています。
でもそれは、社会生活をスムーズに送るためには、必要なことですよね。
「私はあなたが嫌い」
「今すごい泣きたい」
「ムカつく!」
こんなことをいちいち素直に表現していたら、世の中しっちゃかめっちゃかになってしまいます。
しかし、私たちはいつしかそれが当たり前になり、「ジャッジ」と「感情」がこんがらがって、自分でも自分の本当の感情が分からなくなっています。
それは、それぞれの身体にも現れていて、考えすぎな人は頭が固くなり、言いたいことを我慢している人は食いしばりで顎が硬くなり、臆病な自分を隠している人は胸や肩甲骨のあたりが硬くなったり…。
そんな頑なになってしまった心と身体をリラックスさせ、あるがままの状態でいるために、私はいま、レッスンのなかで「ジャッジしない」練習をしています。
相手と対話をする際に、感じたことをそのまま言葉にし、相手の言葉もそのまま受け取る練習です。
「これを言ったら嫌われるかな」
「こんなこと感じたら悪い人と思われる」
「この人の言ったことはお世辞だ」
「この人の本当の目的は何?」
そういったジャッジを放棄して、自分の感情に集中します。
そして、自分の感情を実感できるまで心を震わせるためには、
目の前の相手の感情をキャッチすることも大切です。
そのためには、相手の表情や仕草にも集中しなければなりません。
私は、演技力向上のためにこの訓練をしていますが、
これって実は、日々のコミュニケーションにも大切なことなのかもしれない、と思いました。
もちろん日常生活では、何でもかんでも思ったことを言葉にすればいい
というわけではありませんが、
例えば大切な人と言い争いになったとして、
「それは正しくない、間違っている。」(ジャッジ)
と言われるより、
「あなたはそう思うんだね、でも私は嫌なんだ。」
(感情を受け取り、感情を返す)
と言われた方が、同じ平行線でも心が通う気がしませんか?
また、相手に集中していると、
「わかったよ。」
のひとことの中に、同意しているのか、心無くいっているのか、喜び・悲しみ・怒り等どの感情が含まれているのか読み取ることができるはずです。
そうすれば、相手を見ずに言葉だけ受け取って、その後「この前わかったって言ったのに!」というようなことが起こるのも、減らすことが出来るのではないかと思いました。
いま行っている「ジャッジしない」練習の中で、
私たちは普段、意外と目の前の相手に集中せず、自分の頭の中だけでコミュニケーションしてしまうことが多いということに気がつきました。
また、自分自身の気持ちに対しても鈍感になっています。
でもそうしないと、今の社会では心が保たないのも事実です。
とはいえ、私たちはロボットではないので、ジャッジだけでコミュニケーションをとるのは悲しい気がします。
その人の感情の中にこそ、その人らしさがあり、人間らしく、愛おしいと、私は思うのです。
私もまだまだ訓練の途中ですが、
「ジャッジしない」
を日常生活でも上手に活かせたら、
もっと自分にも人にも優しくなれるのかも、と思ったのでした。
下道 千晶(モデル / 染色作家)
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