アニメ平家物語を解説する 2話
前回の記事はこちら。
本日は2話。さっそく行ってみましょう。
このコーナーで参考にしている『平家物語』のテキストは、「覚一本」という琵琶法師が語っていた内容に近い種類の本を使用しています。教科書に載っている内容に近いのもこれですね。
冒頭は、伊勢に一人流される資盛と、それを見送る家族たち。幼い弟はいませんね。別れ際に駄々をこねると大変だからでしょうか。涙目の資盛ですが、琵琶ちゃんと目が合うと「ふん!」と強気でツーンとします。
これは巻1の「殿下乗合」の続きですね。「殿下乗合」の最後のところに資盛を伊勢に流したことが書いてあります。そのほか事件に関わった郎党もクビにしたそうです。
アニメの重盛は神妙な様子ですが、『平家物語』での重盛は激おこです。「資盛、お前が12、3才にもなって礼儀をわきまえないから入道(清盛)がこんなことをしたんだ! バカモン!」みたいな感じ。
アニメの重盛はどちらかというと気弱というか、穏やかで怒らないタイプなので人物像が一貫してますね。
泣き出す経子に維盛が「母上……」と声をかけて慰めています。そうそう、さらっとエンドロールで「経子」って書いてあったのも「おお…」ってなりました。「重盛妻」とかじゃないんですね。
この経子は維盛の母でも資盛の母でもありません。経子は重盛の正妻で、清経以下の兄弟の母です。そして藤原成親の妹です。これアニメの設定的には実子扱いなんですかね。もしくは、実子と同様に可愛がっているということなのかな。
「経子」という名前は、重盛も懇意にしている藤原経宗という貴族の養女になって一文字もらったようですね。
「資盛が無礼を働いたのは悪かったけど、貴族をボコボコにしたのは清盛(※みなまで言わない)なのに、どうしても伊勢に行かなければならないのでしょうか」という旨のことを重盛に訴えて、よよと泣く経子。子を思う母として描かれています。
『平家物語』には経子の動向は書かれていません。そもそもこの人もあんまり出てこないのでレアキャラですね。
清盛も重盛の決断に「面白うないのう」とちくり。可哀想な重盛。
資盛への罰について身内にめっちゃ非難されている重盛ですが、『平家物語』では、朝廷側はこの決断を立派だとして重盛に感心した、と書かれています。自分の息子であっても厳しい沙汰を出した重盛は立派だ! ということですね。
※以下小松家の史実に関わる部分で、アニメの話題から外れるので、アニメのことだけでいいよって方は次の★で囲まれた部分を飛ばしてください。
★★★
『平家物語』本筋から少しズレるのですが、この殿下乗合、小松家にとってはかなり大きな意味を持つ事件と考えられます。実はこの事件の前までは嫡男が維盛ではなく資盛だった可能性が有るのです。というのも、この事件について書かれた貴族日記『玉葉』の記事に「資盛(重盛卿嫡男)」と記述されています。もちろん貴族日記に書かれているからと言ってそれが正しいわけではないですが、可能性は高いかなと。
しかし日本史学の論文を読むと、昇進の速度から清経が嫡男であったとみる見方もあるので、実際の小松家嫡男問題は結構複雑なのです。
資盛は正妻の子ではありませんが、母は「下野守藤原親方の娘少輔掌侍」または「下総守藤原親盛の娘」と言われています。維盛は生母の生まれがよく分かっておらず、系図にも「官女」と書かれているだけなんですよね。資盛の母の方が身分が上で、かつ維盛とはあまり年の差がないので、資盛が後継とされていても納得できます。
前回の記事で実は復讐事件は重盛が首謀者だったという旨を書きましたが、もし資盛が嫡男であったなら、嫡男を侮辱されたからこそ復讐した、とも考えられるのではないかなーと私は思います。
この事件をきっかけに気は弱いけど、思慮深く、見た目も良くて広告塔としても期待できる維盛が正式に嫡男として扱われるようになったのではないかな、と思うわけです。
★★★
清盛が「お前には苦労をかけたからお詫びに燈籠でもやろうか?」と言ってきて、それに対し、重盛がハッとした顔をします。
これは、ちょっと飛んで巻3「燈炉之沙汰」の話題ですね。この話は『平家物語』では本来重盛の死後に置かれている話で、重盛ってこんな人だったんだよという紹介コーナーみたいな話です。これは重盛に限らず、平家物語では主要登場人物が死ぬと、その次の章段で「生きていた頃の◯◯さんをご覧ください」みたいな追悼コーナーを設けていることが多いです。
で、燈籠ってどういうこと? というと。
燈籠に関する重盛の行動は、確かにちょっと変なのです。
重盛が浮き沈みする平家を嘆いて、現世の罪を滅するために始めた仏教的な儀礼らしいのですが、儀式専用の建物を作り、柱と柱の間に燈籠を合計48個(時子も言ってました)かけて夜も明々と照らしていたとか。
さらに毎月14日と15日の二日間は、平家だけでなく他家からも見目美しい女房たちを多く集めて燈籠一つにつき6名ずつ、合計288人を控えさせ、みんなで二日間一心不乱にお経を唱え続けたそうな。なんで美女集めたんだろう。
やってることとしては殿下乗合とは別ベクトルでやばいような気がしますが、当時は「素晴らしい仏道的な心がけ、さすが重盛さんは違う!」みたいな感じで評価されていたそうです。
まあ、精神的に不安定だったのは確かでしょう。しかも重盛は実際に「燈籠大臣」というあだ名があったので、多少誇張はあっても完全なフィクションではないんですね。
そんなことをしなくちゃいけなくなったのは、清盛の奔放な行いのせいなわけですが、その元凶に「燈籠好きなの? あげようか?」とか言われたらそりゃ絶句しますよね。
清盛は天然で言ってそうだけど、時子は自分の子じゃない重盛に対抗心があって、あえて煽ってるのかもしれない、とか思ってしまいますね。
続けて「そんなに闇が怖いかあ?」と煽る清盛に、なぜか同行していた琵琶ちゃんが「おい入道! お前に闇の恐ろしさがわかるものか!」と啖呵を切って重盛におさえられます。ここの琵琶ちゃんが猫ちゃんみたいで可愛いですね。(偶然ながら今日はスーパー猫の日です)
そんな琵琶ちゃんに「面白いのう」と興味を持つ清盛。めちゃめちゃ無礼ですが、面白ければ関係ないのですね。至近距離の清盛にさすがの琵琶ちゃんも冷や汗をかいています。やっぱり強気に出ても、近くで見る清盛は迫力があるんでしょうね……。
OPを挟んで、時子に怒られる清盛。「武士が貴族の真似事など!! 重盛の家の童に手をつけようとするなんて」と言われてました。貴族が童に手をつけ過ぎなのはわかる。自重してほしい。
琵琶ちゃんは徳子のところで話し相手になっています。なんで清盛のところに琵琶ちゃんがいたかというと、徳子が、藤原基実のところに嫁いだ妹の盛子の話をしますね。平盛子って名前のインパクト結構強いですよね。盛がつくのは男子だけではなかったのだ。
盛子については、実は巻1の「吾身栄花」でちらっと出てきます。9才で嫁いで、11才で未亡人……しかも実子じゃない子供のお母さんにならなくてはいけなかった盛子。未亡人になったことで、基実が持っていた摂関家の土地や財産を相続することになったため、それが面白くなくて基房が資盛にひどい仕打ちをしたのかもね、と語る徳子。事件の政治的背景もさらっとわかりやすく語られていますね。
徳子は清盛は自分達のことを駒としか思っていないんだわと語る。
「私たちだけではないけれど」と言ったところで清盛の前で踊る白拍子のカットイン。1話で踊っていた人とは違う白拍子です。これについては後ほど。
「自分もお嫁に行かないといけないみたい」と言って、嫁ぎ先と言われている天皇家の話にシフト。10才の男の子について「えらく子供だのう」と言う琵琶ちゃん。琵琶ちゃんいくつなんだ。
ここで初登場の高倉天皇(今はまだ即位前)、話し方がおっとりしていて、非常に公家公家しくてかわいいですね。深夜まで今様を歌い狂う父である後白河法皇にはちょっと塩対応。
清盛の娘との結婚を渋る後白河法皇を、今様の話(かたつむりの歌)を絡めてなだめる滋子、さすがお気に入りって感じの頭の回転の速さですごく好きです。このアニメでの滋子は平家にずぶずぶに味方ってわけでもなさそうな感じですかね。あくまで後白河法皇と朝廷を重んじながら平家とのバランスを図っているイメージでしょうか。
しかし今様絡めるとご機嫌になる後白河法皇は、チョロかわいいですね。
徳子の元から帰ろうとする琵琶、牛車から降りてくる白拍子を見て「お母!」と近寄ります。が、人違いでした。琵琶のお母さんは白拍子なのですね。
彼女は1話で踊っていた白拍子、祇王でした。人違いをした琵琶にも優しく対応してくれます。ここから、ゆるっと祇王の話に入っていきます。
祇王について語られるのは『平家物語』巻1の六番目の話「祇王」。1話大宴会の時の「吾身栄花」の次の章段にあたります。
清盛の気分によって人生を振り回されてしまった白拍子たちのお話です。
徳子の話の途中でカットインがあった黒髪の白拍子は「仏御前」という名前の若い子です。
元々清盛のお気に入りは祇王の方で、妹の祇女と一緒に寵愛していました。その寵愛ぶりを羨んで、白拍子たちの間では名前に「祇」の字をつけるのが流行ったとか。そんなにも祇王を寵愛していたのに、清盛は仏御前の舞を見て一目惚れし、祇王を追い出してしまったのです。清盛ははじめ、「私の舞を見てほしい」と尋ねてきた仏御前に対して、「うちには祇王がいるから他の白拍子はいらん!」と言って舞も見ずに追い返そうとしました。しかし、他ならぬ祇王が「せっかく来たのですから、一度くらいは舞わせてあげても良いのでは」と取りなしてあげたのです。
祇王も、まさかこのたった一度で自分の運命が変わるなんて思ってもいなかったんですね。
祇王のポジションを奪おうなんて全く思っていなかった仏御前は、慌てて帰ろうとしますが、それを清盛は許しません。しかも仏御前が祇王を呼び戻してほしいと言うのを、清盛は盛大に勘違いし、「お前がいなくなってから仏御前が元気ないから話し相手しに来い」と、仏御前の話し相手として祇王をちょいちょい呼ぶようになります。鬼かと。
アニメでは仏御前は嬉しそうにしてますね……。まじで話し相手が欲しかったんでしょうか
雪の降る重盛邸。重盛烏帽子は……? お風呂上がりのお父さん感覚か?
琵琶ちゃんが雪兎を作って持ってきました。暗闇が恐ろしいと言う重盛と、先(未来)が恐ろしい琵琶ちゃん。
闇も先も恐ろしくても、今この時は美しいねと言う重盛。
重盛、後白河法皇に面会して資盛の件の謝罪と権大納言辞任の申し出をします。ネチネチと清盛に対して嫌味を言う後白河法皇。それに対して、あくまで私の忠誠は後白河法皇にある、と主張する重盛。
からの後白河法皇と滋子のまじめな話。
重盛は平家の良心だね、みたいな話ですね。
ここで平治の乱の話が出ましたね。「元号は平治、都は平安、我らは平氏、ならば敵を平らげよう」と言うシーン。これは『平家物語』ではなく『平治物語』に描かれている場面。『平治物語』の中でも相当かっこいいシーンです。
ここで何気に成親が延暦寺ともめた話も出てきますね。これは『平家物語』というよりは歴史寄りの話ですね。成親は史料を見ていてもトラブル体質で、何回か流されては後白河法皇のオキニという理由で呼び戻されています。
再び重盛邸、六波羅に行く(徳子のところにお話に行く)琵琶に「資盛は伊勢だから遊び相手がいないよー」とつまんなさそうに後ろをついてくる維盛。かわいいですね!!
「戻ったら相手してやる」とお姉ちゃんみたいなことを言う琵琶に「えらそう……」と愚痴る維盛。ムッとした琵琶ちゃんが振り返って維盛を驚かせようとすると、ちょうど近くにいた鳥が羽ばたき、維盛が驚いて腰を抜かす!!
見事な富士川フラグ!!!!
こんなところで鳥にやられるとは思わなかった。伏線が上手い。
六波羅にいくと、徳子のところに祇王が来ています。祇王に懐いている琵琶ちゃんは、琵琶を弾きながら祇王の踊りを鑑賞します。「綺麗だったのう!」と大喜びの琵琶ちゃん。ご飯の時も、祇王に世話を焼いてもらう琵琶ちゃん。
ここはほっこりシーンですね。
ついでに琵琶の母っぽい白拍子の話も聞けました。左右の目が違う白拍子がいて、貴族に気に入られた的な噂があったとか。琵琶ちゃんが貴族の子孫説も出てきましたね。琵琶法師のお父とは血が繋がってない可能性も?
重盛との対話で「先が怖い」と言っていた琵琶ですが、祇王に「いつかきっと会えるわよ」と言われたことで「いつかはいい言葉だのう」と言う琵琶ちゃん。「また今度舞を見せてね」と言う琵琶ちゃんに「また今度もいい言葉ね」という祇王でした。フラグにしか見えないよう……。
祇王が来て笑顔を見せる仏御前。そこで祇王が意味深に微笑みます。
祇王は『平家物語』の中では、仏御前に対して「今が盛りのあなたも枯れた私も同じ野辺の草なのだから、あなたも最終的には私のようになるのよ」と言う意味の和歌を書き残しています。結構恨みつらみの強い怖めの和歌だなと思うのですが、アニメではそういう描写はありませんでしたね。
清盛に流されざるを得なかった無力な優しい白拍子、というイメージの人物造形なんですかね。
徳子に話を聞いてから雨の中、山を走る琵琶ちゃん。いく先には出家した祇王とその母と妹。「清盛様の駒みたいだった」と言う祇王、徳子が清織は自分たちのことを駒のように思っている、と言っていたことに対応していますね。
「また今度が果たせなくてごめんなさい」と、舞を見せられなかったことを謝る祇王に笑顔で首を振る琵琶。これは気遣いなのかなと思いましたが、その後の反応を見ると、本当に良かったと思っていそう。
そして、すれ違った笠を被った尼の未来を見て、微笑みます。実はこの時すれ違ったのは仏御前で、祇王たちに倣って自分も出家し、これ以降四人で一緒に念仏を唱えて暮らす生活をすることになります。仏御前はまだ二十歳前の若さで出家することになったわけで、これ悲しい話だと思ってたので、「琵琶ちゃん笑うんかい」と思いましたが、死ななきゃオッケーみたいな感じなんですかね……。
「澄んだ顔してたから良かった」みたいなことは言ってましたね。確かに、お父も琵琶法師だし、出家自体にあまりマイナスイメージがないのかもしれないですね。
最後は徳子が入内する場面。琵琶ちゃんが「行くな」と大騒ぎ。徳子の悲しい未来を見てしまっているから、琵琶ちゃんなりに未来を変えたかったんですかね……。
琵琶に弱いお付きの貴族がかわいいですね。徳子の仲良しさんだからビビったのかな……。
ここで今日の維盛コーナー
・資盛のお見送り
よよと泣く経子を「母上……」と慰めるところ、優しくていいですね。重盛は自分の決断なので表立って慰めるわけにもいかないから、こうやって気遣ってくれる存在って大きいと思うんですよね。
・鳥にビビる維盛
琵琶ちゃんが「わっ」と言っても驚かなかったのに、鳥にはビビり散らす維盛。「ただの鳥」と言う琵琶に「わかってるよ、びっくりしただけだもん……」と言う維盛……可愛すぎる。
あんた弓持ってるのに……。遊び道具が弓なのは武士っぽくていいですね。安易に「合奏しよ〜」とか言わないところがギャップがあって好きです。
・たそがれる琵琶に近づく
琵琶が一人でいるところに、ひょこっと出てきて、そそそそとすり足で近づく維盛がかわいい。元気ない琵琶ちゃんに対してちょっと遠慮してるんですね。そして置いていかれるわけですが。遊んであげてよお!!
と、いうわけで今日はここまでです。
個人的に2話の見どころは、維盛の富士川フラグですね。毎回推しが出るのが幸せです。
それでは、また来週。