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『砂の女』安部公房を読んで
本というものは、字面を読んだだけではただ
「こんなことが書いてあった」
という情報に過ぎない。
大事なのはそこから何を拾い上げるかだ。
安部公房『砂の女』を図書室でかりた。
僅かな時間を利用して、本を読み進めてきた。
砂に閉じ込められ、精神的に苦しむ様子は、読んでいて重苦しかった。
ザラザラした、ジャリジャリした感じがこちらまで伝わってくる。
私は砂のない部屋で、湯呑み茶碗をただ片付けているだけで、幸せを感じた。
私ならどうしたか。
そもそも昆虫採集には興味がないし、何しろ誰にも行き先を告げずに旅に出かける事はしない。
この小説の場合、先住者は女でなければ成り立たない。
仮に、男の住んでいるところに、
生贄のように女が投げ込まれたら、小説の方向性がガラリと変わってしまうからだ。
早く逃げて欲しいと願って読み進めるうちに、
こうなったらもう女と結婚してしまえばいいと私は思った。
何しろ、体の関係を持ってしまったのだから、もはや結婚するしかないだろう。
子供でもできれば学校に行く必要も出てくるので、出入りは自由になる。時間はかかるけれど、それしかないと思った。
複雑な社会は
職員室で安い番茶をすすっているに過ぎない
と気がついた心情の変化が衝撃的だった。
人は何を魅力として生きていくかだ。
いつも決まった時間に乗る電車、
正社員として雇用されている職場、
洗濯された服、
清潔な体、
いつでも飲める水、
正確な時計、
新聞、
ラジオ、
恋人、
景色、
反対に、他人から見て、
なんであんなものにしがみついているんだろうと不思議に思うものがある。
古い家、
立ち退き指定区域、
悪い男、
給料の安い会社、
リストラされた部署、
都内の狭いワンルーム、
都内の汚いビル、
お菓子の缶、
シミのついたスカート、
読まない書類、
どこかにあるかもしれない
変わった部落の
砂
それは形を変えて、案外私たちの身近にもあるのかもしれない。