祖父母の初デートについて
1951年の春、私の祖父母は初めてデートに行った。
結果有り金を使い果たし、二人で庭用噴水を抱えて帰ってくるとは知らずに。
急に金を握らされ、街へ放り出された祖父
祖父はまじめだ。
縄縫いやあんこづくりなどの地味な仕事をやり続け、婿養子として家を出る運命を、自分が三兄弟の末っ子である以上やむなしと受け入れた。
そんな祖父は、21歳の時に急に縁談が決まる。
相手はとんでもなく美人の18歳。私の祖母である。
これまで田んぼしかしてこなかった祖父は、急に札束を握らされ『未来の嫁とデートしてきなさい』と、繁華街に送り込まれることとなった。
田んぼができる男を優先して選んだ祖母
祖母は優しい。
6人兄弟の二番目として生まれ、そのほかの5人をすべて病で亡くした。
家で唯一の子供かつ女性であった祖母は、婿養子を取る以外の選択肢がなかった。
加えて、祖母の父は体が弱く、出兵どころか農作業もままならなかった。
祖母の結婚相手は
『力強く、田んぼができ、婿養子にきてくれる男』
のみに絞られた。
ハンサムで背が高い男性の見合い写真だってあった。
だけど祖母は体格がよく、婿養子になれる兄弟の二番目以降を選んだ。
その人は少し背が低かった。祖父だ。
いなかっぺ2人のトンデモ初デート
二人が降り立ったのは富山市。
降り立ったはいいが、何をすべきかわからない祖父。
『何か食べたい』
という祖母に連れられて入ったのは寿司屋。
女性の前ではいい恰好したいですね。ああいいぞ、とガラガラ引き戸を開けました。
入って気づく。
寿司、高え!
当時の農民は寿司なんて目にもしたことがない。
こんなに高いとは思わなかった、そのレベルで寿司を知らなかった。
しまった、と祖父は財布を確認し、海苔巻きや卵焼きなど安価なものばかり頼みつづけた。
対して祖母は新鮮な魚介類を頼みまくりポイポイと口に放り込んでいる。
これはまずい、
そう思った祖父は早々に会計を済ませた。
この女どんだけ食うねん。
とはいえ巻物2,3個では腹が膨れない。
祖父はラーメン屋ののれんをくぐり、安価なラーメンを注文した。
祖母はチャーシュー付きを頼んだ。
こいつまだ食うのか?
女というものに驚かされた祖父だった。
帰り際フラリと寄ったデパート。
『庭用噴水』
これに祖父は一目ぼれし、なんとしてもここで今買わねばならないと思った。
結構いい値段だった。価格.comなんてないから即決するしかなかった。
祖父の持ち金では足りず、祖母の小銭まで振り出して支払った。
こいつ初デートでバカか?
宅配などというシステムがあるはずもなく、二人で『庭用噴水』を抱えて電車で帰った。
めでたしめでたし…?