(人材育成の話)イノベーション人材に必要な2つの人間力③「自律力」の補足
ぐちゃぐちゃとしながら前に進んでいく
前回の記事
「(人材育成の話)イノベーション人材に必要な2つの人間力②『自律力』について」の続きとなる記事です。もっと早く書きたかったのですが、3週間も経ってしまいました。もし良ければ前回の記事をお読みいただいてからお読みいただけるとより分かりやすくなるかもしれません。
前回「自律力」に必要な力としてインティグリティとレジリエンスを挙げました。その詳細はここでは書きませんが、私自身お伝えしたかった中核となる内容は「ぐちゃぐちゃとしながら前に進んでいく」というイメージでした。このイメージを経営者が持っているか、現場が持っているか、そして個人が持っているかがイノベーションが起きるかどうかにかかってくるのではないかと思います。
「信頼力」にいく前に、このことを補足しておきたいと思います。
私は今、ある企業の組織変革のお手伝いをしています。
その企業は評価も含めた大掛かりな人事制度の変革をしており、これからの時代を見据えた大きなチャレンジを行っています。
私は管理職、現場双方の研修を担当しており、その大きな変革の推進の支援をしています。その研修で繰り返しお伝えしているのが上記のイメージである「ぐちゃぐちゃとしながら前に進んでいく」ということです。
大きな制度変革をする時、企業としては色々な環境の中、決断をし、実施をします。その変革の内容や理由を聞くと「そりゃそうだろう」と思えます。その変革は必要なものであるだろうと管理職も社員も理解はできます。
しかし実際に具体的に話が進んでいくと・・・
「この変革は前提が○○なんだろうけど、うちの部署はその前提とは違うんだよなぁ」
「制度として理解できるけど、うちの部署のこの人には当て嵌めづらいんだよな。これだけ大きな変革なんだから、もっと整理して進めてほしいよな」
「そういえば、以前も○○といった変革をしようとしたけど、その時は3年で元に戻ったよな。今回も3年くらい待っていれば戻るんじゃないかな」
「私はこんなに頑張ってきたのにこれからまだ頑張れっていうの?」
「この変更によって自分の居場所がなくなるかも!」
などなど・・・
このような声が現場から様々挙がってきます。
こういった不満や不都合や個人の感情としての怒りや不安は生じて当然です。だって大きな変化なのですから。
逆に大きな変化が何も声があがらず粛々と進んでいくのであれば、そのほうが怖い状態のように思いませんか?
もう一度書きますが、変化、変革、改革には同時に不具合、個別の問題、適応できなことなどなど必ず発生します。
それに対しての不安、不満、怒り、諦めなど。
こういった声は必ずあがる、ということです。
そういった声にまず管理職が耐えることができるかどうかではないかと思います。またそういった現場の声や耐えることができなかった管理職の声や反応に変化、変革、改革の推進者が耐えることができるかどうか。
ここがイノベーションを進めることができるかどうかにかかっていると思うのです。
不満、不安の声をあげることは悪いこと?
不満の声をあげることはいけないことではありません。
批判をすることはいけないことではありません。
変化、改革を止めることがいけないと思うのです。
より良い変化のための提案として、
「この評価の定義をもう少し○○といった幅を持った表現に変えることはできないか?そうすると、現場で○○という工夫がしやすい状況になるのではないか?」などを発信するのは素晴らしいです。
それに対して推進者も「じゃあこういうのは?」など考え、修正していくことが重要なのです。
ロバート・ケリー教授はフォロワーシップの概念として2つの軸(批判的関与、積極的関与)と5つのフォロワーシップを提唱しています。その中に「建設的な提言」という表現があります。
これは単なる批判ではなく、建設的な提言をリーダーにできる部下のことを指しています。まさにこういった声であれば良いのです。
そうではなく、自分が現場の声に応えきれず出す批判、自分が変化が怖かったり、自分にとって不利益になるために出す批判や、批判はしないけれど現場で骨抜きにするような抜け道を作ってしまい、変革を無力化しようとするなど、こういった動きが要注意なのです。
結局、改革をやる前に戻す、ということが結論になってしまうこともあります。
(ちなみに改革が前に戻ることもありではあります。ただその時はそれが学習になっており、次につながる戻り方をしているかどうかがポイントです)
変化、変革をする、ということは何か必要があったということですので、ただ前に戻るのは問題の先送り以外のなにものでもありません。
ちなみに現在私が支援している企業様は、とても重要なことに推進者の方がこの「ぐちゃぐちゃとしながら前に進んでいく」ことを十分理解しており、色々な声が出てくることに「それはそうですよね」と平然としていることが素晴らしいと思います。
偉そうに書きましたが・・・
ここまで今考えていることを書き連ねてきましたが、上記に書いていたことは管理職としても推進者としても本当に難しいことです。
管理職の立場で考えても決して悪意があるわけではなく、本当に純粋にこの変革は問題だ、と思っているのです。また目の前の自分の部下のことをどうしようと思ってのことだったりします。
実は私もそういう1人でした。
20数年前、私はモスバーガーの店長でした。
当時、モスバーガーの首都圏の直営店向けにある取り組みをするように本部から連絡がありました。その取り組みは今後のモスバーガーを考えるととても大事な取り組みで、店長としては全力で取り組む必要がありました。
しかし私が当時いたお店はその取り組みをすると大きく売り上げを下げる可能性が高かったのです。そこで私はその取り組みを無視してしまいました。多分首都圏直営店でその取り組みを無視したは私のお店だけではないでしょうか・・・当時の方々本当にすいません・・・
その後私は本部に異動があり、会社全体のことを考える機会を与えていただき、段々と会社の戦略と直営店が担っている本質的な役割などを理解することができ、ようやくそういった変革と取り組みの意味がわかってくるようになりました。
しかしそれは本部に異動し、色々な経験と情報を持つことができたからそう考えることができるようになりましたが、店長の時の私にはとても考えることができることではありませんでした。自分は正義であるかのように思っていたのです。
悪意なき人々の行動を受け止めながら前に進むこと
上記のような経験があるからではないのですが、
イノベーションの推進者は様々な反応も受け止めながら進めていくことが求められます。基本的には皆それぞれの善意だし、正義だったりするのです。そのことを受け止め、その中で確かにと思うことを受け入れ、柔軟に進めていくことが必要になります。
イノベーションを起こすことは「何を言われても自分の考えを変えず、進み続ける」ことではありません。
イノベーションは結構な確率で間違ってしまうことがあり、失敗することがあり、うまくいかないことがある、ということを前提にしていく。
あっちいったりこっちいったりすることも前提にしながらも学習を繰り返し、前に進んでいく、ということです。
ぐちゃぐちゃとしながら前に進んでいきましょう。
そして少しでも良い世界を作っていきましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次こそ「信頼力」について書きます。またお読みいただけると嬉しいです。
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