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岡倉天心『茶の本』読書メモ

岡倉天心『茶の本』を読みながら付けた読書メモ

現代世界において、人類の天空は、富と権力を求める巨大な闘争によって粉々にされてしまっている。世界は利己主義と下劣さの暗闇を手探りしている有り様だ。知識は邪心によって買い求められ、善行も効用を計算してなされるのである。東と西は、荒れ狂う大海に投げ込まれた二匹の龍のように、人間性の宝を取り戻そうとむなしくもがいている。再び女媧(*17)があらわれてこのすさまじく荒廃した世界を修理してくれることが必要だ。偉大なアヴァター(この世にあらわれる神の化身)が待ち望まれるのである。
それまでの間、一服して、お茶でも啜ろうではないか。
午後の日差しを浴びて竹林は照り映え、
泉はよろこびに沸き立ち、茶釜からは松風の響きが聞こえてくる。
しばらくの間、はかないものを夢み、
美しくも愚かしいことに思いをめぐらせよう。

大久保 喬樹. NHK「100分de名著」ブックス 岡倉天心 茶の本 (p.25). NHK出版. Kindle 版.

ここの部分が引っかかった。かっこいい。
岡倉天心が主張している「アジアの中で状況や地域を超えても東洋の思想がどこでも流れている」というのが東洋でも理解されずに、『東洋の理想』冒頭の"Asia is one"が大東亜共栄圏に利用されるだけだし、西洋でも東洋文明が全然理解されておらず、茶道はままごとくらいにしか考えられてない。日本を飛び出してアメリカに来たけどこっちもこっちだ。
そんな状況を打開してくれる、「荒廃した世界を修理してくれる」女媧が現れるまで、まあお茶でも啜って思いを巡らせようよ。
これユーモアだし自虐的っていう感じがした。
でも著者・大久保さんの解説によると禅における「愚」や「大愚」を踏まえてのものだという。世俗の功利的な価値観では役立たずでありながら、そんな尺度ではとらえられない広大無辺な精神的価値、それが愚。知識で自分を満たすのではなく、自分を空っぽにしてこそ、世界の真理を読み込んでいけるというわけ。
ええ、気になる、愚。
beatiful foolishness of things

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