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KREVAの新曲で見えた大人のヒップホップの向き合い方とシーンの立ち位置や環境の変化

2024年11月4日にKREVAが新曲「Forever Student」をリリースしました。この新曲はソロ20周年プロジェクトの第一弾に位置付けられていて、新たな決意を感じられる曲になっています。初のソロ曲「希望の炎」や10周年ベストに収録の「Revolution」、15周年の武道館で披露された「無煙狼煙」に連なる曲だと思います。この曲を聴き込んでいくと解釈も変わってきたので、皆様が聴く時の参考になればと思い文字に残しておきます。

大人のヒップホップ

初めてこの曲を聴いて感じたのは"凝縮"されているなということでした。一つの事象を切り取ってラップしているのではなく、様々な哲学や出来事が一つの曲に散りばめられています。それもそのはず、KREVAが曲作り始めて一番時間をかけた曲らしく2年間の学びや情報集めて一つの曲に落とし込んだようです。
そこで打ち出しているのは「学び続けることの大切さ」です。Forever Studentというワードをサビに持ってきて、一生生徒(のような姿勢)でチャレンジすること、謙虚でコツコツやること、安定は停滞の始まりなど、「OASYS」以降出てきた哲学がこれでもか、というぐらい詰め込まれています。
加えて、KREVAのリリックの特徴でもある極めて平易な言葉が使われており、伝えることを重視してかフロウも比較的シンプルです。
今回のトピックや「ゴールに歩んで行く」といった歌詞を見ても、このメッセージを伝えようとしているメイン層は「大人」です。ここでいう大人というのは大まかに30代以上のことを指します。この層と真剣に向き合っていると感じました。

一方でヒップホップシーンに目を向けるとMCバトルの流行を端を発して、巨大なヒップホップフェスが開催されるなど、10代〜20代を中心に盛り上がっています。今の日本だと、この層がボリュームゾーンでこの世代を取り込めるかが人気や動員に直結します。

同年代に活躍したOZROSAURUSは横アリ以降、30代〜40代のファンを保持しつつ、今の10代〜20代のヘッズにも伝わるストーリーと圧倒的なスキルでアプローチしてファンを拡大しています。

KREVAも同じくファン層は30代〜40代が中心ですが、ヘッズよりも普段はJ-POPを聴いているような学生や社会人などマジョリティに支持されてきました。

KREVAがラップのスキルを全面に出して今のシーンに入り込んで行くこともできるかもしれないですが、ストーリーのあるラッパーではないし、自身のリアルを話してコミュニケーションすることに重きを置いています。
そうなると、必然的にKREVAのリアルが直で伝わる"大人"になったファンやマジョリティに向けて自分のラップを届ける、これが今後KREVAが目指していることなんじゃないでしょうか。少なくとも僕はこの決意が「Forever Student」からは感じられました。

この大人のヒップホップとの向き合いは、ヒップホップの歴史が50年を越え、初めて向き合っている課題です。トピックも若い時のように貧困からの抜け出しやパーティや夜遊びのことなどばかりする訳にもいかないようです。(成功してお金もあるし、クラブにもあまり行かず家族と過ごすことが増えていく)
アウトキャストのアンドレ3000がラップを辞めてフルートをしている一つの理由のようですし、9th Wonderは大人のヒップホップはサブジャンル名を作った方が良いとSNSに投稿しています。

50代を目前にしても作品を出し続けるラッパーはUSでも日本でも一握り。この大人のヒップホップのスタンダードがないので、初めての歴史的な名盤をKREVAが出す、これが一番痛快でファンの一人として望んでいることです。恐らくトピックも人生の本質を解くような哲学的なものや過去の振り返り、家族愛などになっていくと思われます。

余談ですが、この夏にはこの層の掘り起こしやアピールもあるのか、車のCMや大同特殊鋼という企業CMにもチャレンジしています。(なかなか好評だったようでYouTubeは340万回再生、分析記事もあったので末尾に貼っておきます。僕も生活の延長上(出張で行った飲食店のテレビ)で見ました)

シーンの立ち位置や環境の変化

新曲の歌詞でも「遠くへ霞んでく/今までよく見た情景や風景」と歌っているように、時代が目まぐるしく変化する中でKREVAの環境も変化しています。その一つが新曲でも新人クレバも新人社長も歌っているように「事務所の退所と独立」です。(新人クレバは1stのタイトル)
前の事務所のエレメンツとはKICK THE CAN CREW時代から苦楽を共にし、一緒に歩んできた印象です。この事務所を退所するに至った経緯は分かりませんし、知らなくて良いですが、新しいチャレンジになっているようです。(スタジオも一から構成し直しているとか)

そしてもう一つが、ヒップホップシーンでの立ち位置の変化です。先程も書いたようにヒップホップシーンは10代〜20代が中心となり支持をしていて流行り廃りが早く入れ替わりも激しい業界です。

KREVAの立ち位置も変化していて、シーン内ではレジェンド枠、世代のトップではありつつも、以前のようなシーンでトップレベルの人気や売上、動員はなくなっています。(それでも武道館は埋められると思いますが)
もちろん今でも売れたいと思っていると思いますが、今のメインストリームには安易に乗らずより独自性を強めています。最近のインタビューでも出てくる言葉が「責任」です。これは僕の解釈だと、日本のヒップホップを一過性のものではなく、永続的に繁栄させるために、今の若手の先にある年齢を重ねた時の活動を見せておくという責任なのかなと思っています。

これは流してもらってもいいのですが、今のヒップホップのブームはMCバトルの流行が全てではなく、KREVAやRIPらがラップに触れることのなかったマス層を巻き込み、AK-69やZEEBRA、ANARCHYらがあまり良い環境にない若者に夢を見せて、BOSSやGAGLEらが地方を耕し、MCバトルでブーストをかけた結果が今だと思います。KREVAの評価もリアルタイムではなく、数年後に遅れてくるので、この曲も数年後に評価されるのかなとも思っています。

最後に

この「Forever Student」はYouTubeでは公開から3週間で19万回再生とあまり伸びていません。それもあり解釈の一つを提示し、聴く際の一助になれないかなと思って書いてみました。
僕は上記の理由や今回触れてないですが、ビートが繊細さとダイナミックを兼ね備えているし、ここ数年でも最も好きな曲の一つです!是非聴いてみて下さい!

参考

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