
KREVA「Forever Student」」で見えた大人に向けたラップへの決意
2024年11月4日、KREVAが新曲「Forever Student」をリリースしました。この新曲はソロ20周年プロジェクトの第一弾に位置付けられていて、新たな決意を感じられる曲になっています。
初のソロ曲「希望の炎」や10周年ベストに収録の「Revolution」、15周年の武道館ライブで披露された「無煙狼煙」に連なる曲です。
この曲を聴き込んでいくと様々な感情が湧き上がってきたので、皆様が聴く時の参考になればと思い文字に残しておきます。
保守的になりがちな大人に向けた曲
初めてこの曲を聴いたときに感じたのは、さまざまな要素が"凝縮"されているということでした。一つの事象を切り取ってラップしているのではなく、多様な哲学や出来事が一曲の中に散りばめられています。
それもそのはず、KREVAが最も時間をかけて制作した曲らしく、2年間にわたる学びや情報を集約し、詰め込んだものだそうです。
そこで打ち出しているテーマは「学び続けることの大切さ」。この曲には、48歳になったKREVAの哲学やスタンスこれでもかというほど込められています。
このメッセージの主なターゲットは「大人」、特に30代以上の世代だと感じました。自身のファン層にも重なるこの層と真剣に向き合い、明確に語りかけています。
ゴールへ歩んでく あぁいまだに学びばかりさ
誰だっていつだっていきなりビギナーになる
誰しもあるんだよ 人生初は試しもしないで逃げ出すな
速攻でスキルが爆上がりそんなウマい話
あるはずがないから1つ1つ確実
ステップ踏んでちゃんとホップからジャンプするぜ
遠くへ霞んでく 今までよく見た情景や風景
安定ってのは停滞のはじまりだってなら
絶対ずっと追い求めていたい
一生、生徒のような姿勢で学び続けること。初心者の精神を忘れずにチャレンジし続けること。謙虚にコツコツ努力を積み重ねること。そして、安定に甘んじることなく成長し続け、自分の可能性を追求し続けること…保守的になりがちな大人の心に、グサッと刺さる言葉ばかりです。
日本のヒップホップシーンの年齢層
現在の日本のヒップホップシーンに目を向けると、MCバトルの流行をきっかけに、巨大なヒップホップフェスが開催されるなど、10代〜20代を中心に大きな盛り上がりを見せています。
今の日本では、この世代がボリュームゾーンとなっており、この層を取り込めるかどうかが、アーティストの人気や動員に直結しています。
KREVAはこの世代ではなく、30代から40代を中心に支持されており、さらに、ヒップホップファンいわゆるヘッズではなく、J-POPも並行して聴いているリスナーにも指示されています。
動員を押し上げるために、ラップスキルを前面に押し出し、トレンドに乗りながらシーンに食い込み、若い世代を取り込んでいくことも可能かもしれません。
しかし、『Forever Student』を聴くと、KREVAが目指しているのは、歳を重ねたファンやリスナーに向き合い「大人のラップ」を届けることなのではないでしょうか。その決意が、この曲から強く感じ取れました。
大人に向けたラップ
年齢との向き合い方は、ヒップホップの歴史が50年を超えた今、初めて直面する課題です。
若い頃のように、貧困からの脱出、パーティー、夜遊びといったテーマばかりを扱うわけにはいかなくなってきています。成功を収め、経済的に余裕ができると、クラブに行くよりも家族と過ごす時間が増えていく――このラップするトピックの変化は、アウトキャストのアンドレ3000がラップをやめてフルートを演奏するようになった理由の一つのようでインタビューではこう語っています。
俺は48歳だ。年齢がラップの内容を決めるとは言わないけど、ある意味そうなんだ。俺の人生で起こったことで何を話せばいいんだ?“大腸内視鏡検査を受けに行かなきゃ”とか。何についてラップしてるんだ?“視力が落ちてきた”とか。クールな言い方は見つかるだろうけど」
また、9th WonderはCommonとPete Rockのアルバムのような大人の作品は、別のジャンルを作るべきだとSNSで発信しています。
This Common and Pete Rock album begs the conversation I’ve been having with folks for at least 20 years now.
— 9th Wonder (@9thwonder) July 12, 2024
Adult Contemporary Hip-Hop needs its own category.
Word to DO IT ALL from Lords of The Underground….we’ve been said this homie!!!
本場USでも、「年齢との向き合い方」は大きな課題となっています。
その中でも、今年リリースされたNasとDJプレミアの『Defines My Name』には、特に印象的なリリックがあります。
20歳の頃は「30で引退しよう」と思ってた
30になったら「40でラップはダサくなる」と思ってた
でも俺は間違ってた
まさか50になっても新しいNasの曲が熱く響くなんて、誰が想像した?
このように年齢を重ねても、「今」が一番格好良くてフレッシュ。
こういったリリックは、キャリアを積み重ねたからこそラップできるものであり、一つの武器にもなりそうです。
日本でも、キャリアを重ねながらラップを続けるアーティストは少なく、「大人のラップ」として確立されたスタンダードも、まだ存在していません。
そんな中で、KREVAが歴史的な名盤を生み出す――これこそが、ファンとして最も痛快であり、心から期待していることです。
おそらく、今後のテーマも、人生の本質に迫る哲学的なものや、過去の振り返り、家族愛といった内容が中心になっていくのではないでしょうか。
余談ですが、この夏にはこの世代へのアプローチを意識したのか、KREVAは大同特殊鋼の企業CMに出演しています。これがなかなか好評だったようで、YouTubeでは340万回再生を記録しています。ちなみに、僕も仕事で出張した際、夕食を取っていた飲食店のテレビで偶然目にしました。恐らく狙っているのは、仕事終わりの社会人でこの層の認知度は上がっていると言えます。
最後に
この『Forever Student』は、YouTubeでの再生回数が公開から3週間で19万回と、あまり伸びていません。そこで、一つの解釈を提示することで、聴く際の参考になればと思い、この文章を書いてみました。
僕自身、この曲を特に気に入っている理由は、先に述べたテーマ性だけでなく、今回触れませんでしたが、ビートの繊細さとダイナミックさを兼ね備えた完成度の高さにもあります。ここ数年の楽曲の中でも最も好きな一曲です! ぜひ聴いてみてください!
参考
ここから先は
¥ 100
よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは書籍代など活動費に使わせていただきます!