Best Albums Of First Half 2023
時間が経つのが早すぎる。歳を取るにつれて早くなっている気がするが、この時間の心理的短さが年齢に反比例する現象を「ジャネーの法則」というらしい。まさにそれだ。
今年の上半期は仕事が忙しかったり、体調も崩したりしてしまい順調ではなかった。そんな中でも音楽はヒップホップを中心に定期的に聴くことを心がけていた。
今日はこの1年の折り返し地点で、良いと思う作品を書こうと思う。熱く語れる5枚の作品のみ。
2023年の上半期は引き続き国内外共に不安定だったように思いますが、WBCで野球が世界一になったりコロナの制限もなくなったりして少しだけ明るい話題もあった時期。個人的には冒頭にも書いたように多忙な上半期だったので、気持ちが安らぐような作品が多め。
文章を読むのが面倒、上半期ベストだけ知りたいという人は、プレイリストがあるのでこちらから確認できます。アルバムから好きな曲を2曲ずつ挙げていて、プレイリストでは15枚まで選出しています。
Neak - Die Wurzel
シカゴを拠点に活動するラッパー/プロデューサーのNeakのアルバム。先に断っておくが、マイナーな存在のようでインタビュー等の情報がない。Spotifyのリスナー数も1,159人しかおらず、まだまだこれからのラッパーのよう。
ルーツとしては、父親がR&B・ゴスペル・ソウルのグループをやっていたようで、自身のルーツにもなっている。また、サウンドからは同郷のKanye WestやLupe Fiasco、Commonの影響も感じる。
ゴスペル色強めのGod's Vision、心地良いギターの旋律が心地良いFamous、カニエのHeard 'Em Sayと同ネタFar from Home辺りがお気に入り。特別新しいことをしている訳ではないが、ブラックミュージックを良いバランスで混ぜて、この雰囲気を打ち出せるのは国内ではなかなかお目にかかれない。
B. Cool-Aid - Leather BLVD
ラッパーでシンガーのPink SiifuとLAのビートメイカーAhwleeによるデュオB.Cool-Aidの3rdアルバム。
Ahwleeのビートは、ソウルクエリアンズの影響を感じさせるソウルやジャズがメインの上ネタに、シンプルでヨレたドラムが特徴。Gファンクの影響も感じる。そのビートにPink Siifuの囁くようなラップが組み合わさり、絶妙なバランスの上に成り立つ最高のグッドミュージック。
コンセプトも黒人が平和に暮らし買い物をする架空の大通りをテーマにしている。その様子は非英語圏で人種も違う自分にも伝わってくる。
イントロから終わりまで1時間、極限まで作り上げられた美しいサウンドが惰性的に続く。夕暮れから夜にかけてのルームミュージックに、ベランダや庭でお酒を飲みながらチルするのに最適な音楽はこれ以上にない。お金を自慢したりクラブで踊ったりだけがヒップホップではないと再認識した。
JJJ - MAKTUB
川崎出身のラッパー/プロデューサーJJJの3rdアルバム。6年ぶりのアルバムということで、期待度も高かった作品。その期待を悠々と超えてくる傑作。今年の各種年間ベストで必ず上位に入ると断言できる。
前作からの間に起きたプライベートな出来事やコロナ禍、友人のことなどテーマは多岐に渡っている。内省的な歌詞も多く、その機微な心の表現にグッとくるラインが多数。
特に気に入っているのは盟友STUTSのことを歌っているという心 feat. OMSBの「この曲の終わりには あいつに電話しよう 1人笑う道端 振りむいた都会 漂う」というライン。風景を思い浮かべるとこっちも笑顔になってしまう。
シングルリリースや客演はありつつもアルバムを6年も出していなかったというのは、入れ替わりが激しいヒップホップシーンでは消えてしまうこともあるのに、ここまで話題なのはちょっと驚いた。
Planet Giza - Ready When You Are
カナダ・モントリオールを拠点に活動するPlanet Gizaの3rdアルバム。MC兼ビートメイカーのTony $tone,とビートメイカーのDumixとRami Bの3人組ヒップホップユニット。 モントリオールのことはあまり知らなかったが、フランスの移民が多く、多国籍多民族の社会のようだ。音楽も盛んでモントリオール・ジャズ・フェスティバルは世界最大級だとか。その影響もあってジャズを中心にR&Bも混ぜたオルタナティブな自由な音楽性が特徴。
全曲スタイリッシュなサウンドで統一されていてほぼ3人のセルフプロデュース。Tony $toneのラップも歌も心地良く、2019年から歌い出したとは思えない。(2013年から7年間はプロデュースユニットだったらしい)
参加アーティストも豪華でAminéとのユニットKaytraminéが話題のKAYTRANADA、Saba、Femdotなどのシカゴ勢、UKのKojey Radicalなど。まだアルバムは2枚しか出していないが、リスナー数100万人で今後も伸びそう。本人たちも望んでいるKendrick Lamar、Busta Rhymes、Andre 3000 、Tyler Creatorとコラボできる日も近いのでは。
NORIKIYO - 犯行声明
昨年8月に大麻取締法違反で逮捕されたNORIKIYO。その間に起きた警察や検察とのやりとりや、メディアの理不尽な扱い、国の姿勢や法律をユーモアも交えながら痛烈に皮肉っている作品。後半ではシーンに対する皮肉や家族への愛も。特にSkitの取り調べ室からオレナラココの流れは痛快そのもの。過酷な事実をエンターテイメントにできるヒップホップというカルチャーの面白さや深さが堪能できる。
ラップの表現力もさることながら、韻をしっかり踏んでいるのも特筆すべきところ。
大麻の栽培を始めたのは難病である重症筋無力症(指定難病11)になったことがきっかけだと自身のインタビューでも語っています。治療を行っていたが薬もあまり効かなくなり、ステロイドの副作用リスクを回避をするために、医療大麻に手を出したという流れ。
プロフにも書いているように、僕も再生不良性貧血(指定難病60)という難病です。難病は基本的には完治はなく、寛解(症状が落ち着いて安定した状態)を目指します。そのためには継続的な治療及び服薬が必要で、常にリスクと隣り合わせのため、先を見れば見るほど絶望を感じてしまう気持ちは痛いほど分かります。
この記事にも書いているように、僕は医療とNORIKIYOの音楽に救われて、なんとか乗り越えることができています。NORIKIYOが難病に苦しみ、このようになっているのは複雑で、考えるだけでメンタルがぐちゃぐちゃになります。
僕は歌詞の中で出てくるような”お利口さん”です。法を犯すリスクよりも薬の副作用のリスクを取るし、日本は難病に対する手当が手厚いので、日本に生まれて良かったとまで思っています。
ただNORIKIYOは副作用のリスクよりも、医療大麻を栽培するリスクを選んだ。国の正義や法律に疑問を持っている。同じ難病患者として違う人の考えや行動を奥深く知ることができ、自己との対比ができる特別な作品になっています。
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