こころをたっぷりと働かせて
「人生の節目に手紙を交換する」ことに、なぜかずっと憧れがあった私。
昨年の夏のこと。
「入籍する日にお互いに手紙を書き合おうよ!」と夫に提案した。
「手紙なんてあんまり書いたことがないからなあ。」と不安そうにしていたが、「せっかくの記念なんだから!」という私の圧に押されて、手紙は夫の「宿題」となった。提出期限は1ヶ月後。
言い出しっぺの私はすぐに取り掛かった。
時間はかかったが、満足のいく仕上がりに。これは喜んでくれるだろうな〜。
早く夫に渡したい。
「完成した?私はもう書けたよ!」とプレッシャーをかけた。
早く手紙交換をしたい私と、「宿題」の提出期限に焦る夫。
ある日、夫が半休を取った。
「手紙を書く時間を作ろうと思って。」
午後から喫茶店にこもり、「宿題」をするそうだ。
そこまで一生懸命向き合ってくれることがうれしかった。どんな中身なんだろう。読むと、照れてしまうようなことが書いてあったり……?
想像するだけで、くすぐったい。
帰ってきて一言。「完成できなかった。」
ええ〜〜。結構な時間をかけてたよね? 無理に提案して、悪かったかな。
書くことが、あまり得意ではないことは知っていたし…。と思いつつも、人生で大事な節目のこと。そこは譲れない。どうしても夫からの手紙が欲しい私は、静かに見守ることにした。
入籍の2日前。
朝から「うーん。うーん。」と机に向かう夫。
「書きたいことがないわけじゃなくてさ、形にするのが難しいんだよ。」と悩む姿を見て、少し可哀想になっていた。思うように進まないらしく、途中でベッドに寝転んだり、動画を見たり。まるで、8月31日の小学生みたい。
なんとか完成したのは夕方。やっとこさ肩の荷が降りた夫の顔は、達成感にも、開放感にも包まれているようだった。
そして、やってきた入籍の日。
向き合って座り、約束の手紙交換をする。
偶然にも、夫と私が選んだ便箋が同じものだった。
お互いにもらった手紙をじっくりと読む。ふふっと笑みがこぼれる。
こんなふうに想ってくれていたんだね。
あの時、そんな覚悟だったんだね。
ずっと一緒に過ごしてきたけれど、初めて知ることがたくさんあった。
手紙を交換しなければ、知ることはなかった、夫の気持ち。
手紙を見なくても、今でも空で言えてしまうほど、うれしい言葉をもらった。
全てのものに永久はないけれど、
何があっても、無くなることはないんだよね、言葉の贈り物って。
松浦弥太郎さんが、手紙の目的をこんなふうに表現していた。
あれもこれも、すぐに欲しくなってしまう私だけど、いちばんもらってうれしい贈り物って、「こころをたっぷり働かせて」書いた手紙かもしれない。
書くことがあまり得意ではない夫が、私のために、時間をかけて、心をたっぷり働かせて書いてくれたことがうれしかった。
これから、結婚記念日は毎年手紙交換をしたいな、なんて思っている。
毎年宿題に追われることになる夫には、もう勘弁してと言われてしまうかもしれないけれど。
それからもう一つ。
遠くに住む妹と、ポストカードを贈り合うことも、私にとって大好きな習慣。
郵便受けに、カードが入っているのを見つけた時のうれしさ。
お店で、可愛いポストカードを見つけたときのワクワク。
送ってから、届くまでのソワソワ。
特に用事がなくても送って、ちょっと喜んでもらいたい。
私は手紙が大好きだ。もらうのも、渡すのも。
これからも、大切な人に、たっぷり心をつかって、たくさん手紙を書いていこうと思う。
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