【第4話】村山美澄、もう一人の私との共同生活を始める~もう一人の私との出会い~
これまでのお話
混乱する村山美澄、クリニックへ行く
心療クリニックについた。
歩くだけで白ティーに汗が滲みるが、1枚皮の下はひんやり冷えた感覚がした。自分は異常なんだと自分で自分を突き刺す時の冷たさだ。
仕事でミスした時も同じような感覚に陥る。
「初めてですか?」
「はい」
「でしたらこの問診票をご記載ください。あとカウンセリングはお一人30分ですのでご了承ください」
「…はい」
私は一番奥のソファーの端に座り問診票を書き始める。
「精神科なのに受付は無愛想だね。先生はちゃんとしてるといいね!」
私の隣に座って辺りを見回す幻覚が話しかける。
私は何も答えず問診票を受付に渡し、ソファーに座って幻覚とは逆側の窓の外を眺めていた。
「村山さん。村山美澄さん」
「はい」
診察室に入ると白髪のおじいちゃんが座っている。机にはmacのpcも置いてあり、多少の違和感を感じつつもさすが現役お医者様だなと思った。
「どうされましたか?」
「えっと..最近仕事がというかずっと仕事が上手くいってなくて。職場の人間関係も悪いわけではないのですが、ずっと自分に自信がないせいか周りにどう思われているか気がかりで。で、昨日から幻聴というか..幻覚が見える気がして」
「ほー幻覚ですか。ここに来る方でなかなかそんな方はいないですね。幻覚見えたら、もうそれはクリニックより大学病院レベルだよね。で、どんな幻覚なんですか?」
悪気はないのだろうけど、あんたは異常者だと言われているような気持ちになる。
「人というか、私自身というか…」
「はあ。 最近は寝不足でしたか?」
「いえ、睡眠は6時間毎日とれてると思います。」
「んーそれじゃあ過度なストレスを感じる出来事とかは?」
「それも特には…ただ毎日些細なことでジワジワとストレスを感じている気がします」
「それは皆そうだよね?」
そう笑いながら言われたのでバカにされた気がした。
「…アハハ、まあそうですね」
「んー、睡眠と食事はちゃんととって。それから運動をしてください。気分が晴れますから。まずはそれで様子を見ましょう」
そう言ってpc画面を眺める目には私は映っていないのだろうと思い、怒りと寂しさを感じた。
診療代払っているのにこんなものか。。
私は2650円を支払いクリニックを出た。
気分が晴れない。近くのカフェで冷たいカフェオレでも飲んで帰ろうかな。
「何なんだろうね、あのクリニックは!もう一生いかないでおこう!それより冷たいコーヒー飲んでゆっくりして帰ろうよ!せっかくの休暇なんだから自分時間を満喫しようよー」
私は小さくため息をついてその声の方に視線を向ける
「…そうだね」
「うん!」
幻覚はニコッと笑って私のお気に入りのカフェの方向に歩いていった。
天井が高くて窓も大きい。
日が沢山入ってきて、でも中はクーラーのピンと張るような涼しさが保たれてる。
私はその空間全体を見渡せる端の席に座るのが好きだ。自分の背後は壁だから知らぬ間に誰かに見られたり噂されることはない安心感を感じる。
注文したカフェオレを一口飲む。
幻覚は何も話さず私の向かいに座ってる。
なんで何も話さないんだろう?いつもはお喋りなくせに。
平日だからか人はあまり入ってなく、私は窓から流込む日差しを眺める。
「本当落ち着くね。このまま何も考えずゆっくり出来たらいいのに」
「そうだね」
幻覚は柔らかく微笑み私の独り言を聞いている。
「…私さ、大学2年生の時が人生で一番楽しんでたと思うんだよね。学校行けばサークルで会った大親友がいて、授業なんて座っていればそのまま終わってて。そのあとは原宿なり渋谷なり行って、読者モデルやらないかって声かけられては優越感に浸って。将来は大企業で働いてヒールで丸の内をカツカツするんだーって目を光らせて。今思うとなーーんにもしてなかったけど、なんであんなに楽しかったんだろう?根拠のない自信みたいなのがあったからかな?それに比べて今の自分だよね。あの時思っていた自分になっているのかもしれないけど、何も楽しめてないし本当ダメすぎる…大学生の私が今の私を見たらどう感じるんだろう」
頬杖をつきながらカップにつく水滴を親指で拭う。
「すごいって思うんじゃないかな?というか思ってほしいよね!こんなに大変で毎日心くじきながら頑張ってるんだぞって!当日の私が夢見ていた世界は思っているより戦場なんだぞーって」
「フフフ、確かに。今の私がダメダメというよりこのステージ事態が大変なんだよね」
「うん、そうだよ!自分ばっかりを責めないで、これでも夢を叶えてる自分を受け止めようよ!」
さすが私の幻覚、欲しい言葉をくれるものだ。
帰り道に私は私に聞いた。
「あなたは私の中の世界?私の理解者なんだよね?」
そしたらいつもの笑みで私を見つめて答えた
「そうだよ!私はあなたの中の世界。私の言葉、考えは全てあなたの心の声だよ!」
こうして私と私の共同生活が始まった。
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