会津魂 ✎
✐幕末を強く生きた山本八重のお話です
私の愛する会津は戦火の中にあった。
西郷頼母様の奥方様を始め、戦の足手まといになるまいと考えた女達は自ら命を断った。
中野竹子様率いる娘子隊も戦火に散ったと聞いた。
私、山本八重…いえ、川崎八重は夫である尚之助様と一緒に鶴ケ城の射撃台へと向かった。
前線にいる指揮官は私の姿を見て、苛立ちを隠せない様子で『誰だ』と問うた。
「川崎尚之助の妻、八重でございます」
指揮官はさらに苛立った様子で『女の出る幕ではない』『出ていけ』など罵倒を浴びせる。
「指揮官殿、お願いがございます。八重さんに銃を撃たせてください」
激昂した指揮官は尚之助様に気が狂ったのかと怒鳴り散らした。
「一発でいい。彼女が狙いを外したのなら城の奥に戻します。もし彼女が敵を撃ち抜いたなら、私と一緒に戦うことをお許しください」
尚之助様は私に目で合図を送り、私はコクリと頷いた。
私は肩にかけていたスペンサー銃を指揮官に差し出した。
「狙いを外したなら、私にこの銃を持つ資格はない。この場で捨てます」
私達の気迫に押されたのか、指揮官は『一発だけだ』と言った。
私は銃を抱えながら城の壁に駆け寄り、外の様子を覗った。
敵の指揮官はしきりに采配を振り、大砲部隊に指示を出しているようだ。
(殺らなければ…殺らなければさらに多くの血が流れる)
「指揮官を撃ちます」
声が震える。
狙いは単なる的ではない。
自分と同じ人だ。
私が人の命を奪う。
人を…殺す。
私の中に強い迷いが生じた。
(三郎…)
今私が身につけているのは、弟である三郎の着ていた戦闘服だ。
三郎は死んだ。
戦で命を落とした。
敵兵に命を奪われたのだ。
私は腕章を強く掴んだ。
(三郎、仇は必ず…)
しかし怨讐だけで人を殺める事が出来るのだろうか。
手が酷く震えた。
それに気がついたのか、尚之助様が私の隣に立った。
「私もついています。八重さんなら大丈夫です」
深呼吸を一つした。
「八重さん。私が側にいます」
震える手に庄之助様の手が重なる。
「はい!」
大丈夫だ…私は一人じゃない。
大きく深呼吸をし、私は再度狙いを定めた。
「撃ちます」
静かに呟いた後、私は引き金を引いた。
パンッ
次の瞬間、指揮官は弾けるように体を仰け反らせて倒れた。
鶴ケ城にどよめきと感嘆の声が湧いた。
「よそ見をしてはなりませぬ!城を守り抜かねば!」
会津軍の決死の攻防戦が始まった瞬間であった。
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アメブロに掲載していたショートストーリーを加筆修正いたしました。
私は『新島八重』より会津戦争中の『川崎八重』の方が好きです。
銃を持ち戦う、強く勇ましい彼女が好きです。
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