第36回東京国際映画祭短評※随時更新
■第36回東京国際映画祭開幕
2023/10/23(月)から東京国際映画祭が開幕します。今年はラインナップが若干、渋いもののファイト・フェルマー『ゴンドラ』やペマ・ツェテンの遺作のひとつ『雪豹』、圧倒的ヴィジュアルの中国アニメ『深海レストラン』など注目作品が目白押しです。今年も観た作品の短評をこのnoteに追記していきます。
星は下記基準となります。
★★★★★大傑作
★★★★傑作
★★★普通
★★微妙
★酷い
【コンペティション】
野獣のゴスペル★★
心優しき者が、搾取への復讐を誓う集団の渦中で暴力マシンになっていく様子を描いた作品。暴力は新たな暴力を生み出すという陳腐なメッセージ性を単調な暴力で押し切った印象が強くてあまりいい作品とは思えなかった。
ロクサナ★★★
まさかのコメディで驚かされる。面倒臭過ぎるイラン世界へようこそ!車のガラスが破られ、結婚式のデータが入ったハードディスクが奪われる!主人公のニート男は不条理に振り回されながらハードディスクを探す。挿話が散らかっているが許容範囲の面白さ。
わたくしどもは。★★★★★
記憶を失った女はミドリと名付けられ佐渡金山の麓で清掃を始める。そんな彼女の前に名もなき男が現れる。突然、露骨なレオス・カラックス「メルド」をやり始めるお茶目さはあるが、豊穣な空間による語りが素晴らしかった。少なくとも、富名哲也監督は覚えておこう。10年以内にカンヌ国際映画祭で暴れそうな力強さを感じた。本作が海外に届くことを祈る。
ロングショット★★★
改造銃を組み立てていく様のカッコよさ。凄腕のガンマンだが、その技術を殺人に使うまいと思うけれども工場に立ち込める闇に飲まれていってやがて壮絶な戦いに巻き込まれてしまう切なさ。中国フィルム・ノワールの怪作でなんといっても、改造銃によるリロードと的確に敵を仕留めていく様がカッコいい。それにしてもこれが実話ベースの物語って怖いですね。
曖昧な楽園★
酷かった......というよりか困惑している。台詞少なめの約3時間、ニートパートと介護パートが交差するのだが、何がしたいのかが全く分からない。謎過ぎる映画だった。
エア★★★
女性パイロットによるドッグファイトが観られる珍しい作品。ひたすら凄惨な戦場が映し出されるが、空中戦の魅せ方が単調で手数も少なく、これで2時間半はいかがなものか?
真昼の女★
戦争を生き延びるため、DV男と付き合い、子どもを授かった女が捨てようとする話。長い割に全てが雑過ぎてこれは酷い。場面が切り替わる度に子どもがめちゃくちゃ成長するのだが、それは省略ではないただの雑だ。
鳥たちへの説教★★★★★
大傑作!『クレーン・ランタン』がロケハンとなり『Sermon to the Fish』が作られた。だが、これの正体はダンテ『神曲』における地獄編で本作は煉獄編にあたる。圧倒的がの中で描かれる戦争時の心象世界に感動した。
西湖畔に生きる★★★★★
抱腹絶倒の大傑作!グー・シャオガンは中国的スピリチュアルな世界の中に隠し味としてスコセッシ風味を混ぜるのが上手く、中国版アムウェイにのめり込むオカンを救おうとする青年の物語を情熱的に描く。オカン役の顔芸が凄すぎて爆笑であった。
正欲★★★★★
YouTube時代にデヴィッド・クローネンバーグ『クラッシュ』を撮ったらどうなるか? その答えを教えてくれた! 社会という敷かれたレールにモヤモヤを抱く者たちがインターネットという仮想世界で出会い、概念を知り、孤独を癒す。そこに潜む危険をも包み込む。
ゴンドラ★★★★
運動の鬼才ファイト・ヘルマーの遊び心炸裂⁉︎ゴンドラという舞台装置であらゆる遊びを提示する。驚きと面白さしかない至福の時間だった。大傑作!
雪豹★★★
ペマ・ツェテン遺作のひとつは羊を殺した雪豹を逃すか否かを延々と痴話喧嘩していくミニマルな内容。小さい話ながら、惹き込まれるものがあった。
ペルシアン・バージョン★
イランとアメリカにアイデンティティを持つ女の波瀾万丈な日常を描いた作品だが、まさかの全く乗れなかった。コミカルさで押し切る作劇に拒絶反応を示したのであった。
タタミ★★★★
これは観客賞を獲るんじゃないかな。棄権しないと家族や自分が危険にさらされる状態で闘うか否かを試合毎に決断しないといけない緊迫感。スリリングで一瞬たりとも目が離せない。
開拓者たち★★★
マカロニウエスタンのタッチ、つまりジャンル映画の質感をもってアメリカ大陸史に対する批判的眼差しを向ける一本。後半作風が突然室内劇に変わるのだが、おそらくタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』を意識しているのだろう。そして、この選択が裏目に出た。
【ワールド・フォーカス】
パッセージ★★★
いわゆる三角関係ものなのだが、ダンスフロアでの波のような運動や、前進後退、廊下で跪く姿、自転車で疾走する場面といった運動を通じて喜怒哀楽を変換している極めて映画的な作品であった。しかし、内容自体にはそこまで惹き込まれず。
ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ★★★
アルモドバル映画は相変わらず苦手なのだが、本作はそれなりに楽しめた。ワインの袋を撃って、暴飲。そのまま肉体関係に発展したり、三角関係の銃撃戦の緊迫感の出し方は魅力的に思えた。
スルタナの夢★
これはかなりハイコンテクストなジェンダー論映画で一筋縄ではいかない。スペインからインドに来た女性が男性の眼差しを気にしながら「スルタナの夢」という本に出会う訳だが、挿話がピンと来なさ過ぎてよく分からなかった。
ミツバチと私(20000種のハチ)★★
自分の精神的な性に違和感を持つ子どもの日常を淡々と描いた作品。淡々とし過ぎて、物語を構成する要素が代替可能なものにしか見えず、それはどうかと思った。ピンと来ず。
湖の紛れもなき事実★★★★
東京国際映画祭恒例のラヴ・ディアス祭!? 警察官は15年前に失踪したフィリピンワシと呼ばれる女の行方をひとりで追っていた。これ以上追うなと言われ、同僚からも呆れられるが、不屈の精神で真実を追い続ける。 ラスト30分から怒涛のように証言や重要人物が現れて笑った。
魔術★★
『オオカミの家』を実写化したような不穏な空気立ち込める作品。映画祭疲れか、睡魔との闘いとなったのだが、犬と人間の足が合体したキメラのようなものが一瞬映ってビビった。自分の見間違えじゃないよな……
Totem★★★
パーティの中で入り乱れる人間関係により段々とあることが浮かび上がる作品。なるほど、確かにラモン・チュルヒャーと比較したくなる作品だ。楽しいパーティに思えて、突然、事故レベルの火災が発生する場面にギョッとした。
ディープ・ブレス 女性映画監督たち★★
『ミツバチと私』や『スルタナの夢』など当映画祭出品作品も踏まえながらバスク地方の監督、そしてたとえゴヤ賞を受賞しても知名度が上がらない女性監督の問題点を指摘するドキュメンタリー。ある程度バスク地方の監督への知見が求められる作品に感じ、そこまでピンと来ず。
【ガラ・セレクション】
ポトフ 美食家と料理人★★★★★
トラン・アン・ユン監督が『青いパパイヤの香り』以来の本気フード映画を作った!美食家と料理人、最強タッグで来賓をもてなしていたが料理人が倒れ、美食家は一肌脱ぐ。料理人の洗練された手つき、美食家の野生的な手つきが木漏れ日に光る!
【アニメーション】
駒田蒸留所へようこそ★★★★★
災害により失われたウイスキー復活を目指してブレンドを行う会社を舞台にする渋いテーマでありながらも、分かりやすくウイスキー製造工程を情熱込めて描く。実写でもできる内容であるがアニメになることによりマニアックな世界への関心を集める大傑作!?
深海レストラン★★★★★
中国がディズニーピクサー的デジタルシネマでジブリ映画における流体表現の限界に迫る。途中までは『千と千尋の神隠し』なのだが、突然エヴァンゲリオンたる内なるグロテスクな世界に化ける。想像以上の怪作だった。ただ、中国アニメで子どもが主人公なのに、ここまで鬱映画だとは思わなかった。びっくりするくらい死の香りが漂っている。上映後の解説によればジブリ映画に影響受けているので、やはり『千と千尋の神隠し』のダークな部分を引き継いでいますね。
アートカレッジ1994★★★
超スローペースなリチャード・リンクレイターといった作品でトリッキー過ぎる笑いについていけなかった。悪くはないのだがピンと来ず。モラトリアムに生きる美大生のスノッブな会話。下手すれば嫌味な演出になってしまうのだが、それを感じさせないオフビートの醸し出し方は良かったっと思う。
【ユース】
私たちの世界★★★★
親を押し切り大学へ行けども、雑な事務処理に来ない教員と腐敗し切った学内によってジワジワ堕ちていく。コソボの絞り出すような悲鳴。投げっぱなしに見えるがそうならざる得ない必然を感じる。東欧映画スペースの『エリザのために』話に通じるものがあり、オデッサさんや鉄腸さんの観た感想を伺いたいものがある。英語の授業、学問への渇望とどうしようもなさがヒリヒリ伝わる傑作だ!
白い小船★
閉塞感ものを『仮面/ペルソナ』的、分身を使って描いた作品なのだが、如何せん退屈すぎて厳しい作品であった。盗んだカメラを売る場面にサスペンスとしてのハラハラドキドキ感がないのは致命的だ。
パワー・アレイ★★★★
望まぬ妊娠をした女子バレー選手の話。この手の映画はなぜだか男性側の視点があまり描かれないなと思いつつもパワフルな作りと思いもよらぬ展開に魂が揺さぶられた。他のバレー選手の個性の描き分けもできており、これは日本公開してほしいし、まさしくユース部門らしい傑作だと感じた。
【その他】
市子★★★
プロポーズした翌日、市子は失踪した。彼女の行方を追うと、どうやら彼女は市子ではなかったことが判明する。ミステリー小説を読むように入り乱れる時系列。それにより段々と明らかにされる事実とミスリードのさせ方に唸るものがあったが、竜頭蛇尾。後半に行くに従って失速してしまった感が強い。ただ、この手のテーマは着地が限られてしまうので題材に問題があるのかもしれない。
小学校~それは小さな社会~★★★★
コロナ禍の小学校を追ったドキュメンタリーなのだが、これがめちゃくちゃ面白かった。コロナ禍により急速に多様な教育の在り方が求められる中、先生は苦悩し、生徒も学習に打ち込む。時折、小学生にしては指導が厳し過ぎる気がする場面もありそのスリリングで独特な小学校の文化に惹き込まれた。
左手に気をつけろ★★
自由に見せかけて不自由な作品。『こどもが映画をつくるとき』における子どもたちの自由さに対し大人の本気を魅せる訳だが、『ウイークエンド』をそのまま引用するあたりに不自由さを感じる。面白いが惜しい作品。
彼方のうた★★★
杉田協士監督はその空間にいない存在の輪郭を形成していく。『春原さんのうた』からパワーアップして、どこか気まずい引き伸ばされた間を通じて生み出される存在感を見出す。実に興味深い。
■第36回東京国際映画祭受賞結果
【コンペティション】
東京グランプリ/東京都知事賞 『雪豹』
審査委員特別賞 『タタミ』
最優秀監督賞 岸 善幸『正欲』
最優秀女優賞 ザル・アミール『タタミ』
最優秀男優賞 ヤスナ・ミルターマスブ『ロクサナ』
最優秀芸術貢献賞 『ロングショット』ガオ・ポン[高朋]
観客賞 『正欲』
【アジアの未来】
作品賞 『マリア』
【Amazon Prime Video】
テイクワン賞 ヤン・リーピン(楊 礼平)
テイクワン賞 審査委員特別賞 安村栄美