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山形国際ドキュメンタリー映画祭2023レポート

シネフィルにとってのFUJI ROCK FESTIVALこと山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下YIDFF)に行ってきた。YIDFFとは、1989年にアジア初のドキュメンタリー映画祭として山形で開催されたイベントである。2年に一度、世界各国から良質なドキュメンタリー作品が集められる。

ワン・ビンやペドロ・コスタ、『ブンミおじさんの森』でパルム・ドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクンなどといった監督をいち早く見つけた映画祭としてシネフィルの間では注目されている。近年では燃えあがる女性記者たちが山形で上映後、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたことで話題となった。

2021年はコロナ禍でオンライン開催だったのだが、今年は4年ぶりのリアル開催。はりきって3泊4日楽しんできたのでレポートを書いていく。


1.来場者が多い!?

結構長蛇の列ができていた

まず驚かされたのは、来場者が多いということだ。ドキュメンタリー映画を観る層はSNSで多くを語らない傾向があるため、X(旧:Twitter)では私の奇声が飛び交っていたと思うが、現地は4年前と比べると明らかに混んでいた。

平日金曜日朝の『紫の家の物語』は3時間におよぶ作品にもかかわらず、ホールの4割近く埋まっていたように思える。また、作品によっては立ち見、満席が出る回もあり波田野州平『それはとにかくまぶしい』+小田香『GAMA』の上映は2回とも劇場外まで長蛇の列ができるぐらい大盛況であった。

また、東京でも満席にはならないであろう野田真吉特集も連日立ち見が出るほど大盛況であった。不勉強ながら、この監督のことは知らなかったのだが香味庵クラブであまりにも話題になっていたので最終日に観ました。自分が観たのは

『富山村の御神楽祭り』
『異形異類の面掛行列』
『砲台のあった島 猿島:あるいは廃墟と落書』

の三本立て。『富山村の御神楽祭り』はダム建設で失われていく村の風習を捉えた作品。『異形異類の面掛行列』は仮面を撮った博物館映像のような作品。『砲台のあった島 猿島:あるいは廃墟と落書』は廃墟ドキュメンタリーであった。どれも心地良い時間が流れて睡魔が襲ってきましたが、悪くはありませんでした。

香味庵クラブ

山形国際ドキュメンタリー映画祭といえば、映画関係者と一般人との壁が低いことでも知られている。その一番大きな存在として「香味庵クラブ」がある。漬物店・丸八やたら漬が運営する食事処「香味庵まるはち」が夜になると開放され、映画を愛する者たちが交流できるのだ。残念ながら、丸八やたら漬が2020年に廃業してしまったので、今年はホテルにて開催となった。しかし熱気が凄く、大学生や20代ぐらいの若者も多かった。

コミュ障な私もフラフラ人海を彷徨っていたのですが、「che bunbunさんですよね?」といろんな方に声をかけていただきました。まさか海外のプロデューサーとも英語で会話するとは思いもよりませんでした。クソザコ英語力で楽しみました。

2.バラエティ豊かなドキュメンタリー

今年は気合を入れて20本観ました。YIDFFのいいところは超長尺な作品や骨太王道なドキュメンタリーから、よくわからない実験映画、短編映画、クラシック作品と幅広く映画を取り揃えているところにある。

今年は、全編ゾンビゲーム「DayZ」内で撮影された『ニッツ・アイランド』が香味庵でも話題になるほど盛り上がった。映画上映後にはQ&Aが行われたのだが、メタバースをあまり知らないような方から、ゲームに精通している方が言葉を選ぶように質問し、それを翻訳者が悩みながら監督に伝えていた。「ニューロマンサー」を読むような光景がそこに広がっていた。自分自身、VTuberとして活動はしているがメタバースのような空間を活用できているとは言い難い。せいぜいSNSでコミュニケーションをとっているぐらいだ。それだけに、この映画の中でゾンビを倒さず、大自然の中ひたすらトレッキングしながら話していくコミュニケーション手法には度肝を抜かれた。

他にも思わぬ収穫があった。それはコロンビア映画『声なき証人』である。コロンビアでサイレント映画のフッテージを修復したと冒頭で提示される。しかし、観ていくと編集が明らかに今じゃないとできないようなガイ・マディン映画さながらのMAD動画になっていたのだ。しかも、最初は三角関係で話が進むのに、終盤になると突然『地獄の黙示録』のような話に転がって行くのでびっくりした。

また骨太王道なドキュメンタリーとしては藤野知明監督の『どうすればよかったか?』が凄まじかった。藤野監督といえば『アイヌプリ埋葬・二〇一九・トエペツコタン』『とりもどす―囚われのアイヌ遺骨―』などといったアイヌにまつわる作品のイメージが強い。しかし、本作は監督の家族について扱っている。彼がカメラを持ったきっかけは、そもそも姉の存在であった。姉が大学時代に統合失調症を患ってしまう。医者である両親は、専門家に診せることを拒み自力で彼女の面倒を診ようとする。その行動に疑問を抱くように、あるいは半ば家族を恨むようにしてカメラを持ち、昨年、姉が亡くなるまで撮影をし続けた。そんな25年以上におよぶ記録が本作だ。姉の絶叫から始まり、「決して統合失調症の原因や治療法について語るものではない」と前置きをした上でタイトルが提示され、そのまま地獄のような日々が映し出されていて胸が苦しくなった。

また、最終日に観た『キムズ・ビデオ』が想像以上に爆笑の作品だった。本作は、以前配信で五次元アリクイさん(@arikuigo)に教えてもらった作品。NYにあった伝説のレンタルビデオショップ。時代の流れで閉店してしまい5万本近いVHSはどこへ行ったのか?調べるとどうやらシチリア島のサレミという小さな村にあるらしい。映画オタクの監督は潜入捜査を行うのだが、あまりにVHSが杜撰な管理をされていた。色々動くも、どうしようもなくなった。さあどうするか?監督は『アルゴ』を観て、奪還しようと思いつく。軽妙な語りに終始爆笑しながらも、時折垣間見えるイタリア闇社会に戦慄したのであった。

他にも色々観たが、それはずんだもん解説動画にまとめたのでよかったら観てください。2023年もリアルで楽しめることを心待ちにしたいと思います。

3.受賞結果

インターナショナル・コンペティション

■ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『何も知らない夜』監督:パヤル・カパーリヤー

■山形市長賞(最優秀賞)
『訪問、秘密の庭』監督:イレーネ・M・ボレゴ

■優秀賞
『自画像:47KM 2020』監督:章梦奇(ジャン・モンチー)
『ある映画のための覚書』監督:イグナシオ・アグエロ

■審査員特別賞
『ニッツ・アイランド』監督:エキエム・バルビエ、ギレム・コース、カンタン・レルグアルク

アジア千波万波

■小川紳介賞
『負け戦でも』監督:匿名

■奨励賞
『ベイルートの失われた心と夢』監督:マーヤ・アブドゥル=マラク
『列車が消えた日』監督:沈蕊蘭(シェン・ルイラン)

市民賞

『我が理想の国』監督:ノウシーン・ハーン

日本映画監督協会賞

『平行世界』監督:蕭美玲(シャオ・メイリン)

4.che bunbunの星評(事前鑑賞作品含む)

イーストウッド★★
ある映画のための覚書★★
アンヘル69★★
何も知らない夜★★★
不安定な対象2★★★★
紫の家の物語★★
ターミナル★
快楽機械の設計図★★★★★
声なき証人★★★★★
なみのおと★★★
ニッツ・アイランド★★★★★
それはとにかくまぶしい★★★
GAMA★★
呼吸★★
コーラホリック★★
フルーツと野菜★★★
日々"hibi"AUG★★★
訪問、秘密の庭★
またたく光★★★
どうすればよかったか?★★★★★
キムズ・ビデオ★★★★★
富山村の御神楽祭り★★★
異形異類の面掛行列★★
砲台のあった島 猿島:あるいは廃墟と落書★★
あの島★★

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CHE BUNBUN
映画ブログ『チェ・ブンブンのティーマ』の管理人です。よろしければサポートよろしくお願いします。謎の映画探しの資金として活用させていただきます。