論文要約「カントの動力学的空間論」
書誌情報
カントの動力学的空間論
「哲学」2002 年 2002 巻 53 号 p. 107-115,247
https://www.jstage.jst.go.jp/article/philosophy1952/2002/53/2002_53_107/_article/-char/ja
要旨
「カントはニュートンの物理学的な絶対空間を哲学的に基礎づけようとした」とされる通説は誤りである。『自然科学の形而上学的原理』の内容を考察することで、カントの空間論のもつ特徴を明らかにした。
『純粋理性批判』における空間論
幾何学の現実への適用可能性を基礎づけようとした
『純粋理性批判』の感性論からはニュートン力学が絶対空間でなければならないという帰結が出てこない。
ニュートン力学の絶対空間について十分に論じられていない
『自然科学の形而上学的原理』における空間論
二種類の絶対空間がある
外的な絶対空間
ニュートンの空間論
通俗的な絶対空間
感性の外部に存在する無限の唯一の静止座標
「真の運動」をみかけの運動(相対運動)を区別できる前提で、「真の運動」(絶対運動)を定義するための場
内的な絶対空間
カントの空間論
感性の形式として存在する空間
相対的でありながら真なる運動が記述できる空間(絶対空間)
運動概念の根本的な違い
ニュートン
真の運動=絶対運動(絶対空間における運動)
みかけの運動=相対運動(慣性系ごとに異なる運動)
「物体の真なる運動を力への言及から独立に語ることができる」
カント
物体の真なる運動はつねに複数個の物体間における運動(相対運動)としてしか語ることができない。
「物体の真なる運動は、運動に先立って物質に内在する動力学的な力への言及なし有意味に語ることができない」
機械論VS動力学論
機械論的自然哲学
<力学的な力>
すべての現象を同質的な基本諸粒子の形や数量の個々の粒子の運動に還元しようとするもの(「原子論」「デカルトの粒子哲学」)
機械論では全ての力は運動に還元される。
動力学的自然哲学
<動力学的な力>
物質に固有の力が内在することを認め、物質の固有力に基づき自然現象の説明をしようとするもの。
運動に先立つ力が物質に内在し(根源的な運動力)、この運動力によって運動が根源的に与えられる。
カントの動力学論
<動力学的な力>の概念をもと
カントにおいて、物体の「真なる運動」は「動力学的な力」との本質的なつながりにおいて考えられる。
相対的にして真なる運動
カントによる絶対空間(内的な絶対空間)の導入
運動法則はア・プリオリな性格をもつ
物体の真なる運動は、運動法則の経験構成的なはたらきによって構成される。(構想力のこと?)
カントの絶対空間は、運動法則による客観的な運動経験の構成手続きにおける不可欠の契機として導入される。
感想・コメント
カントにおける力学の構成には、その独自の運動概念が不可欠であり、ニュートン力学とは異なる前提・手続きを踏んでいることがわかった
カントの空間論(超越論的感性論)を前提とした上で、「外部に実在する」ものとしての「絶対空間」は否定しつつ、ニュートン力学を説明するに「内的な絶対空間」を確立したことが示されているのがわかった。
詳細な理解はニュートンの『プリンキピア』、カントの『自然科学の形而上学的原理』に譲るしかない