『1日240時間』in パルシネマ「万博映画特集~70年大阪万博の光と影~」
1970年大阪万博にちなんだ映画の特集上映「万博映画特集~70年大阪万博の光と影~」が12月10日から19日にかけて、神戸・新開地の「パルシネマしんこうえん」であり、10日には同万博の会場で公開された安部公房脚本、勅使河原宏監督の珍品『1日240時間』が上映された。
本特集は、同じテーマで甲南大学文学部が12月上旬に開催した第1回「甲南映画祭」の地域連携企画として、パルシネマでの興行が実現したもの。
服用すると10倍の速さで動けるようになる加速剤「アクセレチン」が発明された世界を描く約30分の中編。70年万博で日本自動車工業会が出展した「自動車館」で上映された。
当時は正面と左、右、天井の計4面の巨大スクリーンが設けられたという。薬を飲ませた金魚が猛烈な速さで鉢から飛び跳ねる様は、正面と天井の2面にわたって映し出され、観客は宙に舞う金魚を見上げるような鑑賞体験をしたそうだ。今回は、4面を凸の字型に並べて一つの画面にしたデジタル復元版を上映した。
工場では始業時に服用し能率アップ。ボクシングの試合でも服用され、あまりの速さに腕がちぎれて飛んでいく始末。加速剤を求める大衆が、発明した博士のもとに押し寄せて大混乱。やはり加速剤を飲んで逃げる博士は、スピードが頂点に達して回転を始め、なんとタイヤへ変身していくのであった。
10日の上映後に行われたトークショーでは、本作のフィルムの掘り起こしに尽力した甲南大学准教授の友田義行さんと、批評家で神戸市立三宮図書館館長の西田博至さんが登壇した。
夢の加速剤のはずが、使ったところで楽になるどころか余計に忙しくなっているという人間疎外の皮肉が描かれた映画であり「万博当時、すでに自動車の誕生で『加速剤のある世の中』はできていた」と友田さん。インターネットの発達した現代はさらに加速しているが、やはりどんどんせわしなくなっている。
自工会のパビリオンなのに自動車の宣伝とは言い難い内容だが、当時の座談会で安部公房は、現実の自動車ではなく、地球文明や現代を関連付けた形で自動車を登場させることを目論んでいることを明かしている。
また友田氏によると安部はシナリオ『パップ・ラップ・ヘップ』で、車輪の発明への注目をしている。誰が発明したかもわからぬ車輪は、地球文明の象徴なのだ。
こうした話を聞くと、アクセレチンを発明した博士は、大々的に記者会見を開いて、最後は大衆から追われるほどに著名な存在だったのに、最後は車輪という匿名的な存在になっていくのは、それ自体が人間の主体の消滅を示唆しているようにも見えてくる。ちなみに博士の名前は「X博士」である。
なおパルシネマの本特集では他に、1968年の勝新太郎主演の大映映画『とむらい師たち』(三隅研次監督、野坂昭如原作、藤本義一脚本)と、2001年の原恵一監督『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』が上映された。