ココナツ・チャーリイ

映画レビュー、ブックレビュー、新聞流通研究の3本柱で記事を書いています。 2023年7…

ココナツ・チャーリイ

映画レビュー、ブックレビュー、新聞流通研究の3本柱で記事を書いています。 2023年7月まで更新していたブログ「CharlieInTheFog」(http://charlieinthefog.com/)から、記事を順次移行中です。 大阪在住、20代。

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「80年 躍進する敦賀」は今 賀春CMの企業を見に行く

 YouTubeには古いCMの録画がたくさん投稿されていますが、最近目にした動画の中でもひときわ、珍しいと感じるものがありました。  内容はいずれも、敦賀市関連企業による賀春のあいさつ。登場するのは各企業の幹部。アナウンサーではありませんから、どうも喋りがたどたどしく、これが今となっては趣の深い映像になっています。  果たしてこれらの企業は今もあるのだろうか――。今回は、回数が余っている青春18きっぷを使って敦賀を訪ね、「80年 躍進する敦賀」に登場した各企業が今どうなっ

    • 濱口竜介監督『何食わぬ顔』の、肌に触れるまでのサスペンス

       大阪・十三の第七藝術劇場で開催中の濱口竜介特集「映画と、からだと、あと何か」の中で、濱口が東大映画研時代に撮った8ミリ映画『何食わぬ顔 (long version)』(2002)が上映されていた。筆者の鑑賞は3回目である。  動いているものを見る喜び、人の顔を見る喜び、人が人に視線を向けているのを見る喜び等々、映画を見ることで得られる喜びのうち重要ないくつかが8ミリの粗い画面に凝縮されていて、得も言われぬ感動がある。  中でも最初の鑑賞から強く印象に残っているのが、劇中

      • 映画『きみの色』評/心的な動揺が不可視化された現代を描く問題作

        (山田尚子監督/2024年/日本/100分/カラー/アメリカンビスタ)  長崎のミッションスクールに通う高校生トツ子、中退して古書店で働く少女きみ、医学部進学のため長崎の塾に通いつつ内緒で音楽活動をしている離島の高校生ルイの3人によるバンドの物語。  きみにとってもルイにとっても、最大の関心は、周囲の期待をいかに裏切らずに生きていくかということに向けられている。自我を内面に閉じ込めて、いかに体裁を整えるかにエネルギーを使い、疲弊している。このあたりは、現代の思春期世代のリ

        • 2024夏 四国旅行記(その2)

           2024年8月15~17日に、大阪→和歌山→徳島→高知→愛媛→岡山→大阪という一筆書きのようなルートを青春18きっぷでたどった旅の記録。今回は2日目。 (前回記事) 朝から列車を逃す 投宿先のホテルタウン錦川(高知市)で起床したのが朝4時半。シャワーを浴び、NHKの5時のニュースを見ながら支度してチェックアウトする。始発の普通列車に乗るべく高知駅へ歩いて向かう。セブン-イレブンでおにぎりを買って頬張る。  途中で見つけた、あまりにシンプルすぎる「中谷元」の看板。衆院議

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          映画『ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへ』評

          (小森はるか監督/2023年/日本/70分/カラー/16:9)  東京電力福島第一原発事故により避難を余儀なくされた高齢者のためにつくられた、福島県いわき市の復興公営団地「下神白(しもかじろ)団地」で、ドラマー出身の文化活動家アサダワタルらが取り組んでいるコミュニティーづくりの活動「ラジオ下神白」を記録したドキュメンタリー映画である。  2016年に始まった活動は、居住者に元々住んでいたまちと音楽の思い出をインタビューしてラジオ番組風に編集したCDを、団地内で配布する取り

          映画『ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへ』評

          2024夏 四国旅行記(その1)

           もはや旅も食傷気味だが、さりとて家にいてもやることもないので、例によって今夏も青春18きっぷ旅行に出た。まだ訪問したことのない高知県で泊まることを第一目的に、大阪→和歌山→徳島→高知→愛媛→岡山→大阪という一筆書きのようなルートをたどる2泊3日(2024年8月15日~17日)の旅だった。 とくしま好きっぷで南下 この日の早朝、大阪市などで一時24万戸あまりが停電する事態が発生し、大阪環状線などでダイヤが乱れた。元の旅程では阪和線と紀勢線で和歌山市駅へ出て、南海和歌山港線に

          2024夏 四国旅行記(その1)

          さようなら、一人酒

           先頃の健康診断で尿酸値が基準値を大幅に超えてしまい、受診が必要なレベルだと判定されてしまった。  独り身だし、別に健康になりたいわけでもないが、昨今の企業は健康管理までするようになっているので、放置してたら会社からいろいろ言われそうだから、とりあえず病院に行った。  医者は「別に太ってるわけでもないので原因は酒でしょうね」と言った。  確かにこの1年、飲酒の頻度が増えた。量はせいぜい1〜2缶だが、ほぼ毎日飲んでいた。  ここのところ公私ともども生活がうまくいっておら

          さようなら、一人酒

          西野智彦著『ドキュメント通貨失政 戦後最悪のインフレはなぜ起きたか』

          (岩波書店、2022年)  1971年8月のニクソン・ショックから、同年12月のスミソニアン協定、73年の変動相場制移行、石油危機、そして74年の狂乱物価とスタグフレーションにかけて、大蔵省や日本銀行の首脳陣の間でどのように意思決定が行われ、結果的に「失策」と回顧される過程をたどることとなったのか――。  『平成金融史』『ドキュメント日銀漂流』などで知られる屈指のジャーナリストが、さまざまな資料を博捜して探求した歴史ノンフィクションである。  当時、円の切上げは、金解禁

          西野智彦著『ドキュメント通貨失政 戦後最悪のインフレはなぜ起きたか』

          春日太一著『鬼の筆』

          (文藝春秋、2023年)  脚本家橋本忍や関係者に対する長年の取材と、多数の資料に基づいた480ページの評伝。  橋本は多作の人だが、私が鑑賞したことのある映画は『羅生門』(1950)『生きる』(1952)『生きものの記録』(1955)『日本のいちばん長い日』(1967)『日本沈没』(1973)『八甲田山』(1977)の6作。いずれも社会批判を含んだ物語である。  しかし著者のインタビューで、冤罪事件を題材とした『真昼の暗黒』(1956)について問われた橋本は「作る基本

          春日太一著『鬼の筆』

          映画『空に聞く』評/「後になってからわかる」までの時間

          (小森はるか監督/2018年/日本/73分/カラー/ビスタ)  東日本大震災後の岩手県陸前高田市で、2018年まで運営されていた臨時災害放送局「陸前高田災害FM」で、2015年までパーソナリティーを務めた阿部裕美さんを主人公とするドキュメンタリーだ。  阿部さんの自宅のシーン。画面右側にテレビ台、左端に部屋の扉がそれぞれ半端に映り、その間に、陶器でできた人形や犬の置物がほんの小さな白い台に載っている。テレビ台のほうには高齢の男女の写真が立て掛けられていて、その前に菓子とビ

          映画『空に聞く』評/「後になってからわかる」までの時間

          映画『夜明けのすべて』における職場についての書き残し

           三宅唱監督作品『夜明けのすべて』(2024)については、すでに記事を書いているが、書き残していたことをあらためて記しておきたい。そこでは、三宅のフィルモグラフィーを背景に思ったことを書いたので、省いたことがあった。  公開以来、幾度となく劇場で見たが、少し間がたったゴールデンウイーク中に、帰省中の知人と一緒に京都・出町座で見るという機会があった。その知人はこの種の映画をもともと見るようなタイプではないので、解説を求められ、その際に話した内容を中心に書き残しておきたい。

          映画『夜明けのすべて』における職場についての書き残し

          『こわれゆく女』『ラヴ・ストリームス』~早稲田松竹「ジョン・カサヴェテス特集」から

          『こわれゆく女』(ジョン・カサヴェテス監督/1974年/アメリカ/147分/カラー/ビスタ)  カメラのピントがずれようがカットがつながっていなかろうが、問題とはしない。そういう態度で撮影され、編集されるからこそ、俳優とカメラとの相克がそのまま、映画内世界における人物と空間との相克として、観客に受け止められる。ピントのズレは空間の不安を意味し、唐突なカットの切り替わりは空間の混乱を表す。  しかし圧力は必ず開放路を(ときに暴力的に)こじ開けるものである。(ここで「水は低い

          『こわれゆく女』『ラヴ・ストリームス』~早稲田松竹「ジョン・カサヴェテス特集」から

          映画『悪は存在しない』評/”半矢”は逃げる力を失う

          (濱口竜介監督/2023年/106分/日本/カラー/ヨーロピアン・ビスタ)  印象的なセリフを2つ挙げたい。  グランピング場建設計画の住民説明会を前に、事業者への不信感むき出しの青年に、町の区長・駿河(田村泰二郎)が諭すように言う「避けられるけんかはするなよ」というセリフ。  そして、別の場面で、町の“便利屋”巧(大美賀均)が言う「逃げる力がなければ、戦うかもしれない」である。巧は、建設予定地が鹿の通り道であることを、事業主体の社員・黛(渋谷采郁)に話す。鹿は人を襲う

          映画『悪は存在しない』評/”半矢”は逃げる力を失う

          映画『君の名前で僕を呼んで』/鮮烈なオープニング、ショット、音楽

          (ルカ・グァダニーノ監督/2017年/イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ/132分/原題 "Call Me By Your Name")  さまざまな裸像彫刻の写真を背景に、黄色い走り書きのキャストクレジットが画面に映り、ジョン・アダムスの『ハレルヤ・ジャンクション第1楽章』が流れる。鮮烈な印象を刻み付けて始まるオープニングがカッコいい。所在無き知性と性的欲求に満ち溢れた少年がこれから迎えようとする動揺の季節を、予告している。  1983年の夏を、17歳のエリオ(ティ

          映画『君の名前で僕を呼んで』/鮮烈なオープニング、ショット、音楽

          映画『成功したオタク』

          (オ・セヨン監督/2021年/韓国/85分/カラー)  韓国では、2019年頃から男性のトップアイドルによる性犯罪が立て続けに明るみになり大きな社会問題になったそうだ。当時のニュース記事をネットで拾ってみたが、性的暴行や売春斡旋、性行為の盗撮動画の拡散など、ひどい話が次々に出てくる。  このドキュメンタリー映画の監督や登場人物たちは、そうしたアイドルたちをかつて「推し」ていた女性たちである。  アイドル本人が手を下した悪質極まりない犯行であり、事件報道が、彼らを「推し」

          映画『成功したオタク』

          映画『オッペンハイマー』評/「区分」が揺れる世界

           「区分化」というキーワードが頻出する。原爆開発に関する情報を、それぞれの当事者がどの範囲に共有するかは「区分化」されなければならないと軍人は言う。科学者はそれを守ったり守らなかったりする。  区分をどこに見出すかを巡っても対立は起こる。ファシズムの前ではソ連もアメリカの仲間なのか、共産主義である以上は彼我は区別するのか。簡単に割り切れるものではなく、変化し得て曖昧である。  本作のハイライトの一つである核実験のシーン。大気に引火して終わりなき連鎖反応を引き起こす可能性は

          映画『オッペンハイマー』評/「区分」が揺れる世界