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第3章, 軸になる強み/ソリューションセールス(前半)
第3章となる本章では、現在の河田氏が従事する「エンタープライズソリューションセールス」、つまり主に大企業をターゲットとした、顧客の課題解決のための提案営業について深堀していく。
彼が考えるソリューションセールスの「魅力」や「やりがい」「求められるスキル」などを紹介しながら、彼がどのようにして「ソリューションセールスのプロ」として活躍できるようになったのか、インタビューを通じて明らかになった理由を解説していこう。
1, ソリューションセールスの難しさと可能性
「千三つ(せんみつ)」あるいは「営業は千三つ」という言葉がある。語源は諸説あるのだが、一般的には「1000件のうち3件話がまとまれば商売は成立する」という意味で使われており、商売の難しさを揶揄した表現である。
「千三つ」を営業の成約率と考えると少々低すぎる、実情とは少々乖離している気はするが、クライアントにサービス(商品)を提案し購入(導入)してもらう営業職に対して、「当たり外れ(浮き沈み)が大きい」「成果を上げるのは容易ではない」とのイメージを持つ人は少なくない。ましてやまだ社会に出ていない学生にとって、営業職として輝かしい実績をあげる人材は、宝くじで1億円を当選させるような"強運の持ち主"もしくはどこかの異世界からやってきた"特殊能力者"のように映っているかもしれない。
しかし、実際にソリューションセールスのプロとして華々しく活躍している彼は、「営業の成功はたまたまで合ってはいけない」と語る。正しいロジックと行動が伴えば成功する確率は高く、その状態を維持し続けられる」というのだ。
彼は今回のインタビューの中で、このフレーズを何度も繰り返し使用し、時に強調するように声高く語った。彼の熱のこもった力強い言葉は、ソリューションセールスや「営業職」と言われる仕事が、「とても奥深く、そしてエキサイティングなものである」という期待を抱かせてくれるものだった。
当然ながら、営業職は企業が経済活動を行う上でなくてはならない職種である。営業力の強化は市場競争力を上げるために必要不可欠であり、優秀な営業職人材の確保、育成は企業存続、発展のための重要ミッションと言っても良いだろう。
本章で紹介する彼の経験や持論をきっかけに、多くの読者が営業、ソリューションセールスといった職業に興味を持ち、あるいはやりがいや誇りを見つけられることを願うものである。
営業職はAIに代替可能な仕事なのか?
日本国内には5万種類以上の職業が存在すると言われているが、自らが従事する職業が「今後も存続するかどうか?」に興味を持たない人はほとんどいないだろう。
「IT革命」というワードが流行したのは2000年ごろ、それまで人の手を介して行っていた作業が自動化され、労働環境に大きな変革の兆しが訪れた。それから20年以上たった現在では「第4次産業革命」や「Society5.0」など新しい概念が次々に登場し、情報技術・科学技術の発展とともに、将来的に多くの仕事がAIによって代替可能となることはほぼ確実視されてい
2018年に文部科学省が作成した「高等教育の将来構想に関する参考資料」によると、日本国内の「人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合」は2025~2035年の間に49%に上るとの推定結果も出ている。AIやロボットによって代替可能性が高いとされている職業の中には、有資格者による熟練の技術を必要とする仕事やタクシー運転手、国や市町村の事務職員などもあり、幅広い職種に影響を及ぼすと考えられている。
では「営業職」はどうなのだろうか?この抽象的で漠然とした問いに対して彼は、「営業職の仕事は、AIに置き換わっていく部分と、そうでないもので二極化する」と語る。
「営業スタイル・マトリクス」
彼は下図のように、営業スタイルを「攻め⇔受け身」と「箱売り⇔課題解決」の2軸から評価し、4象限マトリクスで定義している。
![](https://assets.st-note.com/img/1735717053-xzg7S8FvNU26KrpXA9t1okfb.jpg?width=1200)
「攻めか、受け身か」の軸は、「アクションの主体者は誰か?」という問いにより分類される。企業側(営業担当者)が積極的にアクションを行う場合は「攻め」、顧客側からのアクションを待つ場合、「受け身」にプロットできる。
一方、「箱売りか、課題解決か」の軸は取り扱う商品やサービスの性質、あるいは営業スタイルにより定義される。「箱売り」とは販売する商品(サービス)があらかじめ決まっている、あるいはパッケージ化されている営業スタイルを指し、「課題解決」は顧客の抱える課題やニーズに応じてカスタマイズして提案(あるいは受注)するスタイルを指す。
AIに置き換えらえる領域
彼は、4つの領域のうち、「第1領域」と「第2領域の一部業務」は、将来的にAIに置き換えられる可能性があると語る。
4象限の第1領域は「受け身」で「箱売り」の様相が強い「引合対応型の業務」であり、BtoBでは既存顧客からの問い合わせに対応する業務、BtoCではコールセンター業務など、定型的な業務が多い職域である。この領域ではすでに、大規模言語モデルを活用した「AIによる電話の自動応答サービス」を導入している企業もある。現状では、あらかじめ決められたフローに沿って、定型的なスクリプトで電話応対するタイプが多いが、テクノロジーの進化により、顧客からの問い合わせ内容をLLM(大規模言語モデル)が高度に判断し、自律的な思考で回答できるようになりつつある。今後、第1領域の業務は「AIに完全に置き換えられる可能性が高い」とのことだ。
次に、第2領域について説明する。この領域は「箱売り」の商品(やサービス)を「攻め」の姿勢で展開する「商品提案型業務」である。この領域は、BtoBでは保険や不動産、BtoCではオフィス製品やコピー機など、あらかじめ決まった商品、パッケージ化されたサービスなどを顧客に提案する営業スタイルが想定される。一見すると「攻め」の営業をAIが担当することに対してイメージが湧かない方も多いだろう。しかし彼は、この領域も「要件の確認」や「受発注手続」など一部の定型的な営業機能は「AIに置き換わる可能性が高い」と考えている。
AIに置き換えられない領域
一方、彼は「第3領域」「第4領域」の業務は、将来的にもAIに置き換えられる可能性が「低い」と語る。
第3領域「解決受託」は、顧客の課題に対していくつかのサービスや製品を組み合わせて、解決方法を考えていく業務である。この領域では顧客の漠然とした要望を解決するための青写真を作成し、自社が持つさまざまなリソースの中から適合するピースを探し、まるでパズルを完成させるように組み合わせていく必要がある。サービスを組み合わせる作業はとても複雑であり、「AIに置き換わるにはまだ時間がかかる」とのことだ。
そして第4領域「ソリューションセールス(Solution Sales)」とは、顧客との対話を通じて、潜在的な課題やニーズを探り出し、解決策を提供する営業スタイルである。ソリューションセールスの役割は、顧客の要望や顕在化している課題を解決するだけではない。
アニュアルレポート(年次報告書)などを紐解き、顧客の「潜在的な課題」を見つけ、「”仮説”に基づいた解決策の提案」や「ビジネスを成長させるための提案」を行うことが期待される。また、顧客内外のパワーバランスや感情的な側面を理解した上で最適なアプローチを取る必要があるため、4領域の中では「最もAIに置き換えにくい」と言えるだろう。
今年(2024年)の4月、マイクロソフト社はコカコーラ社(The Coca-Cola Company)とAIトランスフォーメーションを加速するための5年間の戦略的パートナーシップを締結したことを発表した。
彼はAI時代を先導するマイクロソフト社に所属しながら「最もAIに置き換えにくい」業務部門をリードしている点は非常に興味深いものである。
ソリューションセールスにAIを「活用する」
彼は、「第3領域・第4領域の業務においても、AIテクノロジーの活用が進んでいる」と述べている。
第3領域「解決受託」では、効果的な課題解決のために、どのサービスをどのように組み合わせるかを考える必要がある。第4領域「ソリューションセールス」においても、仮説提案を行う際は、膨大なデータや過去の事例を元に、新しいアイデアを創出しなければならない。
これらの着想を得るため、補完、強化するためには、AIの活用が有効だという。彼自身も「壁打ち(相談)相手」として、AIを日常的に活用しているそうだ。
例えば、OpenAI社の「ChatGPT」は、インターネット上の膨大なテキストデータを学習し、ユーザーの質問や指示に回答しているが、同じ作業を人間が行うと膨大な時間と労力がかかる。
そのため、彼は「AIを活用する人とそうでない人では、生産性に大きな差が生じる」と指摘する。
さらに彼は、営業職に限らず「単純作業はAIに置き換わり、複雑な理解を必要とする業務は人間が担うが、AIを活用できるかどうかで二極化が進むだろう」とも予測している。
AIの活用は、作業効率化だけでなく、顧客情報の分析や営業アドバイスなど、本来は上位者から受けるべきようなアドバイスにまで及んでいる。今後、小売りや飲食、物流業界での自動化が進み、コンサルティングや金融アナリストの一部もAIに置き換わる可能性があるという。
前項では、彼が「AI時代を先導するマイクロソフト社で、最もAIに置き換えにくい業務部門をリードする」ことの面白さに触れたが、現代のビジネスシーンでは、AIを"有効活用"できなければ、生産性を上げることはできない。
つまり、たとえAIに置き換えられにくい「ソリューションセールス」に従事していても、ビジネスの成功や自己実現に貪欲になり、AIをはじめとする最新のテクノロジーを積極的に取り入れようとする姿勢がなければ成果を上げることはできず、企業や市場から高い評価を得ることもできないであろう、と彼の言葉から強く感じ取ることができた。
出典
経済審議会“経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」の実現に向けて”
https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/prj/sbubble/data_history/4/kei-keikaku8_1.pdf
文武科学相「高等教育の将来構想に関する参考資料」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401754_07.pdf
「The Coca-Cola Company and Microsoft announce five-year strategic partnership to accelerate cloud and generative AI initiatives」April 23, 2024 | Microsoft Source
https://news.microsoft.com/2024/04/23/the-coca-cola-company-and-microsoft-announce-five-year-strategic-partnership-to-accelerate-cloud-and-generative-ai-initiatives/
↓後編へ続く↓