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アメタ物語 ~序章・モリモト編~

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隔月で行なっているイベント「アメージング・アメタ」で朗読している小説です。現在執筆進行中。500円で最後まで読めます。
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#昭和

14.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 場所は学校の校門の外。つかみ合いになる前に背負っているランドセルをつかんで振り回すというところから始まって、相手の隙を見て腕をつかんで振り回す。とにかく子どもなのでまだ殴ったり叩いたり蹴ったりということができずに、振り回すというだけという遠心力に頼った戦法だけで展開する傍目から見たら遊んでいるように映るようなケンカだった。

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13.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 イイジマ君は今なにをしているだろうか。ふいに記憶のスクリーンに人なつこいおじさんのような子供の笑顔が映る。
 そもそもイイジマ君は本当に存在した子だったっけ?

 小学生のころにすでに一人暮らしをしていて、すこし年が離れた美人のお姉さんがいて、喧嘩の仲裁が上手で人づきあいが良くて、煙草をうまそうに吸っていた。50ccではあったけれど、オートバイにも乗っていた。そしてすこし浮浪児の風格を漂わせてい

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12.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

「今度の日曜日は家族でおばあちゃん家に行くんだ。ごめんね」

 牟田くんとの約束をなんとかうまく断る事ができたある日曜日のこと。モリモトは本当に気心の知れた友人たちを三人自宅に招き、お菓子を食べながらお気に入りの漫画を読んだり、テレビを見たり、ラジオを聞いたり、ぼんやりしたりと本当にまったりとした時間を過ごしていた。
 階下でドアチャイムの音とドアをノックする音が聞こえた。すこし遅れて「モーリーモ

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11.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 下校途中に牟田くんの旧友宅に寄り道をすることはほとんど強制的で、しかもほぼ毎日だったし、休みの日でさえモリモトに本当に用事が無く返事を躊躇していると「いいよな」と勝手に予定を押さえられ続けた。
 牟田くんがモリモトの絵の才能に気づいたきっかけはモリモトと同じ学校から転入してきた女子にモリモトの特徴を訊いてまわったことかららしいと後で判る。

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10.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 牟田くんはモリモトの不安な気持ちなどまったく意に介さずモリモトのエリアに遠慮なく侵入してきた。
「今日遊べるか?」授業が終わり帰宅の準備をしているモリモトに牟田くんが近寄ってきて言った。慌ててしまい即答できずにいるモリモトの気持ちなどおかまい無しに「遊べるよな」と牟田くんは繰り返してきた。こうなるともうモリモトの抵抗しようとする気持ちはすっかり萎えてしまい、催眠術にでもかかったように牟田くんの言

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9.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 大人になれば止めておけば良いと理解できるのだが、友達という概念がよくわかっていない小学生のころには「ウマが合う」「一緒にいて心地よい」「自分と同じようにおとなしい」だけの友達ではなく、何か気配の違う人間が無理矢理生温い友達集団に入り込んできてしまうということがあって、そういう時に感じる不穏な気持ちがたまらなく嫌だったのだが、どうすることもできないで不幸せな時間を過ごしたものだ。

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8.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 文房具屋で砂漠に立つ黄土色の汚れたロボットの写真がプリントされたバインダーを見た時の衝撃は忘れられない。

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7.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 きっかけは憶えていないが、アサオくんと打ち解け合うのにそれほど時間はかからなかったはずだ。モリモトを取り囲む人だかりに加わったアサオくんのほうから「モリモト君、絵がうまいね!」と言って来てくれたような気もするがそうでないような気もする。
 モリモトとアサオくんはお互いが(絵のうまさを認め)尊敬し合う関係で「君のほうが絵がうまい」と言う部分では一歩も譲らない仲だった。モリモトはアサオくんを失うのが

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6.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 小学校に進級したモリモトの性質は相も変わらず引っ込み思案で、そもそも新興住宅街の同じ地区の子供たちが一斉に同じ学校へ進むので、今で言うところの「デビュー」などという過去の自分と決別する作業も出来るはずも無く、そもそもそういったことにはあまり関心の無い子供だった。

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5.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 モリモトの熱意はついにキリコちゃんではなく彼女の母親に通じたらしく、モリモトは幼稚園から帰ると毎日のように平山家に招かれ遊びに行き、自宅では飲んだことが無いような飲み物、例えば紅茶きのこやヨーグルトなどを彼女の母親からごちそうになった。

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4.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 モリモト家のある路地はまだ全部の家に住民が収まっていたわけではなく、まだ入居者募集の看板が数戸の門の前に出ていた。
 「ソガベさん家のお隣に新しい家族が引っ越してくるらしいわよ」と母親が言ったのを聞いた時には「またか」と思った程度だったが、たまたま引っ越し荷物を業者と転居する家族で運び込んでいるのを見物に行った時にモリモトの身体は産まれてはじめての異常に見舞われることになる。
 転居してきた家族

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3.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 幼稚園の頃のモリモトの住む地区は、平屋の賃貸住宅と建て売りの二階建てが未舗装のじゃり道をはさんで向かい合って建つ所謂「新興住宅街」と呼ばれていたが、街と言うほどではない路地だった。 

 住人の転出や転入やそれに伴う立て替えや増築取り壊しなどを経た現在でもその形態は基本的に変わっていないはずだ。
 モリモト家は二階建てのちょうど真ん中あたりに、まだ30歳を過ぎたくらいの働き盛りだった父親が長期ロ

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1.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 モリモトは全身に暖かい水の感触をおぼえて目を覚ました。

 空気も暖かく、海の匂いと甘い花の香りがする。身体はうつ伏せで半身が砂と海水に浸かっている。口の中にも砂や海水が入っているようだ。身体を起こしたいが、なんとなく動けないような気がする。穏やかな波がふくらはぎに打ち寄せている。とりあえず、寝そべったままの姿勢で口の中の異物を吐き出す。身体はあちこち痛むし口内は塩っぱく砂でじゃりじゃりとしてい

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2.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 当時大変な乾燥肌だったモリモトは風呂上がりに母親から全身に保湿用のニベアを塗られていた。例に漏れずニベアの匂いの魅力も強烈なもので、ニベアの匂い嗅ぎたさに嫌いな風呂にも毎日入っていた。
 
 ある朝、幼いモリモトは計画を実行する。

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