建設的なフィードバックについて。
現在、カナダの某○立バレエ学校の教師プログラムに在学中。
内容の濃い3年間のフルタイム・プログラムの最終学年。
そもそもなぜまだ現役で踊れるのにブランク覚悟で勉強の道に進んだかというと、教育・教授法について学びたいと思ったからだ。
私のバレエ人生の中で、素晴らしい教師にも恵まれたが、反対にそうでない教師にも恵まれた。
教師という立場の人間が教えてくれない、もしくは、存在の否定、生徒の才能の芽を摘むような言動に出会ったことが多々あり、美しいエネルギーを表現する芸術家を育成するのに、そのようなことがあってはならないとずっと感じてきたからだ。
友人やクラスメイト、良きライバルから蹴落とされたり裏切られることはとても辛く苦しいことだが、尊敬している大人から自らの存在を否定されたり、いじめられるのはショックであり、何を信じていいかわからなくなる。
ちなみに私はどちらも幾度も経験してきた。
人間である以上、好き嫌いの好みはあるし、
芸術家は情熱的で感情的な人が多い。
彼らはきっと生徒に喝や気合いの根性を入れるためにそのような言動に走ったのかもしれない。
その当時、繊細な10代のバレリーナの卵としては純粋に学びたい心を折られること、馬鹿にされること、存在を否定されることは精神的なダメージが大きい。
今では大切な経験をさせてもらったと思うことができるし、彼らのことは許しているが、大人になっても記憶や傷は残っている。
時代の変化もあるかもしれない。
カナダで学んだことで感動したことはgrowth mindset とconstructive feedback。
Growth mindset とは人間の才能は生まれ持ったもので固定したものではなく、スタート地点がどこであれ、皆、成長段階にあり、個人の努力によって変化し、養われていくものだという考えだ。
このようなマインドセットは失敗することは学ぶチャンスであり、次へと続くステップだととらえることができる。
そうなると「私(アナタ)は〇〇だから〇〇が苦手、無理。」というのは自分の可能性を妨げる単なる言い訳にしかならない。
反対にfixed mindsetでは個人の能力というものは生まれ持った才能であり、固定されたものであると考える。失敗はその人の能力がイコールとなってる存在意義を否定しかねない恐ろしいものととらえ、変化を恐れ、チャレンジすることが怖くなる。完璧主義者のゼロか100か、という考えはfixed mindset の方に入る。
Growth mindset は個人の成長、開花、繁栄を重んじ、
Fixed mindset は個人の停滞、萎縮、衰退をイメージさせる。
教師や親、周りから「ノー」「ダメ」「〇〇でなければならない」などのフィードバックを日々浴びせられ続けると、本人はいつの間にかfixed mindset になってしまう。
Growth mindset を育てるフィードバックとしてconstructive feedback、建設的なフィードバックが大切である。
一時期褒めて伸ばす、というのが流行ったりしたが、それも本人に対して正直なフィードバックになっていないという点では、建設的なフィードバックにはならない。
Constructive feedback とは努力や集中力など本人の意志で変えられることについて焦点をあてた建設的なフィードバック。本人では変えられないもの、生まれつき・生まれ持ったものなどについてはあくまでニュートラルなスタンス。本人が現実に向き合い自分の個性だと受け入れられるよう、それらについてはネガティブなイメージを与えないようにする。
Constructive feedback は現在の状態を判断するのではなく、現在の状態からどのようにしたら上達するかということについて注目する。そして少しでも本人の意志や上達の兆候が見えたらその時点で褒める。
褒める時も注意が必要である。
「アナタは頭がいいからテストで100点取ったのね」
vs
「アナタはテストの前にちゃんと勉強して復習したから100点取ったのね」
同じことのように聞こえるが、前者では「頭がいいから」というのは本人が勉強しなくても頭がいい、勉強しなくちゃいけないのは頭が悪いからだ、すなわち100点取れなかったら頭が良くないとイコールしかねない。
後者は原因と結果がはっきりしている。勉強を頑張れば良い点数が取れる、すなわち努力すれば結果は得られると本人の中で認識する。
このように、大人が何とも思わず発した言葉で子供のマインドセットをつくってしまう。
子供に限らず、大人の間でも然り。
それは恐ろしくもあり、素晴らしくもある。
会社や組織の中、メンターからの一言、家族や親戚の中での会話。
言葉というのは発する側と受け取る側で多少理解がズレる場合もあるので、そこの誤解も気をつけなければいけないことだが、自分が発した言葉やフィードバックがある人間の考え方に大きな影響を与えてしまうということは教師や親になる身として是非心得ておきたい。
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