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読書記録44 『オーバーヒート』
千葉雅也
『オーバーヒート』
(新潮文庫 2024年)
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ドイツの写真家ウォルフガング・ティルマンス
千葉さんの2023,7/19のツイートによれば、
『デッドライン』、『オーバーヒート』、『エレクトリック』は、結果的におおよそ同じくらいの分量の三部作となりました。
これを「私小説の脱構築三部作」と呼びたいと思います。ぜひ合わせてお読みください。
とある。
気になっていたが、文庫になるのを待ち我慢して我慢してようやく読むことができた。
『デッドライン』の時にも思ったが、描写やでてくる景色などが自分にとって生々しい。
音楽や服、さまざまなものがトリガー・きっかけとなって、小説で描かれる世界と自身が体験したことが蘇ってリンクする。
出てくる主人公は千葉さんなのか?、別に関係ない。実体験によるものも多いだろう。
千葉さんは私より少し年齢が上だが、原体験で見たり聞いたりしたことが共通するのだと思う。小説にでてくる肌感というか空気感のようなものを感じることができた。
もしかすると読み手によっては、大きな出来事や伏線回収などもないし「普通」じゃんと思うかもしれない。
私にとっては、とても面白い小説でした。共感する部分も多かった。
現在は、時間の流れがとても早いように思う。(これは私感であるが)
私は流行り、マジョリティに乗っかって、乗り遅れないようにすることが不得手だ。納得できないものは納得できない。考えることもなしに動くことができない。
正しさや考えは人の数だけあっていいはず。しかし、マジョリティではない選択をする時には「本当にこれでよかったのか」「みんなと同じでなくて良いのか」といった不安や罪悪感のようなものももちろんつきまとう。(まあ、歳をとったので誰から何を言われてもそんなに気にもならなくなってきているけれど)
AかBを選ぶ。Aを選んだがBに後ろ髪を引かれ、この選択はよかったんだろうかと悩み反芻し、ゆれる。
0か100かではない。そんなわかりやすものなんて存在しない。自分自身の回りに起こる共感=「ゆれ」を見事に描いている。
車がオーバーヒートして止まってしまったりしてもいらつかなくていい。自分自身がオーバーヒートして少し立ち止まり休むことに不安を感じ、焦る必要もない。爆速で流れる時間の中で、そういう日やそういう時があったっていい。
ついに残るは『エレクトリック』
我慢できるのか??
文庫が待てずに単行本で買ってしまいそう…笑
以下は思わず他人事とは思えなくて笑ってしまった部分
①「僕は会議とか書類作成とかクリエイティブでも何でもない業務をそれなりにきちんとこなしているつもりで、それがちょっとしたプライドなのだった。そこをキチンとしないと僕みたいな悪目立ちするタイプは陰で何を言われるかはわからないぞと怯えていて、だからキチンとしたいのだが、気が緩んでいた。」(p46)
②「手続き、というもの。段取り、というもの。わざわざ生身で集まって時間をかける。合理主義者からすれば無意味かもしれないが、わざわざ疲れるということをするという無意味にこそ人間的意味があるのだ…」(p51)
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