(左遷先に居た)開成卒の子育て論は「子のマネーリスク減らせ」…どうかと思うぞって話。
とんでもなく左遷させられた先に居た「開成卒」
「子どもにとって一番大切なことはマネーリスクを避けること」
「この前読んだ本(子育て系自己啓発)にも書いていた」
とんでもなく左遷させられた先の部署の高峯さん(仮名)はこんなことを筆者に言った。筆者がボーッとパソコンを眺めながら企画書を書いたり、SNS関連の報告書をまとめているときに、何の脈略も無く隣に座り、子育て論を語ってきたことにも驚いたが、その内容にも愕然とした。
高峯さん、46歳。開成高校出身である。お父様は医師。自身は大学受験にことごとく失敗し、3浪を経て大学に入った(本人談)。子どもは2人いて、どっちも名の知れた私立中学に通っている。そもそも、40代中盤の人の大学受験の失敗話など聞きたくもないが、一方的に話すので仕方あるまい。
筆者と同じ企業に勤めているので高峯さんもまぁボチボチ高給取りなのだが、お父様と比べるとやはり物足りない。そして、もともと中途入社らしいが、イロイロあって、我が部に筆者よりも全然早く左遷させられてきた。要するに、な人である。
「あぁそうっすねぇ。でも、金稼ぎたいなら地方で土建屋とか廃品回収とかやったら儲かりますよ」と筆者が言うと首をかしげて全く理解していなかった。地方のカネモチたちの実態を知らないのだ。「だから、やっぱり学歴は重要じゃん」。筆者の言いたいことは何も伝わっていなかった。
■やっぱり医者とか弁護士とか……
企画書を書きながら、うっとうしそうにこちらがしていてもずっと話しつづける高峯さん。やっぱり医者とか弁護士にしたいらしい。「良い大学に行ったら、マネーリスクがさぁ……」。なんだマネーリスクって。
筆者は昔、音楽好きのお友達がたくさんいた。もちろん、みんなマトモではなかった。地元の大きな倉庫でピッキングのアルバイトをしたり、友達のシゴトを手伝ってみたり(何をしているか分からない)、テキトーに働きながら音楽をしていた。でも、周りには友達がたくさんいて、音楽があり、毎晩のように日々の生活を語り合いながら暮らしていた。
当時、筆者は仕事に忙殺されていて、気持ちばかり焦って、苦しい毎日を送っていた。給料は高かったけれど、上を見ればキリがない。下を見下げる余裕もない。そんな時に彼らと随分長い時間を過ごしていたものだった。そこに妻も居た。
「実はさ、こんなことがあって」「俺はもうダメなんだ」「出世もしないし、仕事もうまくいかない」……。そんなことをクドクド言っていると、妻は大笑いしてこんなことを言った。
「頑張ればよくね?」
頑張ればよくね? そんなシンプルな言葉が何だかとても胸に刺さった。スッと胸につかえていたものが取れた気がした。そうだ、頑張ればいいのだ。
思えば、周りからみてもテキトーに暮らしている人たちも日々の暮らしを頑張っているのだ。後日談になるが、その時の友達の一人が結婚を機に音楽から離れ、保険会社に就職した。筆者は結婚を機に彼から保険の契約をした。どんな人だってみんな、いつか頑張るのだ。
きっと、マネーリスクばかり回避していても、いつかドン詰まる。マルチ商法や「noteで稼ぐ方法」に走り、自分を見失う。だって、マネーは必要なもので、そのリスクはかわせない。ヘテロセクシャルである場合、愛する人がいれば子をもうけることもあるだろう。その時、絶対にカネが必要になる。でもそれはリスクじゃない。
そもそも、子どもの頃に付けられた教養や学歴で一生食っていけるほど、この世の中は甘くないのだ。高峯さんだって左遷させられているじゃん。
■じゃあ結局、どうしたいの
デリダについてご存じない方はネットで調べてほしい。瞬間的には間違いなく世界的な知性であったデリダが到達したのは「私は哲学が好きだから」
このエピソードに筆者は深く胸を打たれるとともに妙に納得がいった。
あの時、ヘラヘラしていた音楽友達は、みんな「音楽が好きだから」楽しそうだったのだ。そして、筆者もそう思った。好きなものを好きだと言えることこそが、本当の幸せなんだと。
たしかに左遷こそされたものの、筆者は今の部署で少しずつ自分の場所を確立しつつある。まだまだ道半ばだが、社内で結果を出しまくっていたら、給料がメチャクチャ上がり、ボーナスも最高査定を2期連続でとった。すると、この前、人事部から指名を受けて、会社の内定者研修に呼ばれて講演をしたのだ
仕事を紹介したあと、学生からこんな質問を受けた。
「仕事をするとき、大切にしていることはなんですか」
そして筆者は答えた。
「僕のする仕事や作るものは世界で一番面白いと思っています。誰かにお金を払ってもらうモノはそう思えないと不誠実だと思います。そして、なぜそれができるのかというと、家族を養わなきゃいけないというプレッシャーと……」
「誰が何と言おうと、この仕事が好きなんだという気持ちです」
筆者は、世の中に知られていない友達や妻から教えてもらったことを胸に抱きしめている。死ぬほど左遷させられても、なお。
うちの2人の娘たちにもいつか、「私はこれが好きなんだ」と言えるものを持ってほしい。それが金にならなくても、誰からもみとめられなくっても。パパは応援している。
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