
今年読んだ食べもの本ベストテン
今年はたくさん本を読みました。
その中で、食べ物について書かれた本や印象的な食シーンが出てくる本が27冊。
今回は中でも印象に残っている10冊をご紹介していきます!
柚木麻子「BUTTER」
バターがとにかく食べたくなる小説。
バター大好きな主人公のカジマナはエシレバターを使ったバター醤油がけごはんのことを
「おいしいバターを食べると、私、何かこう、落ちる感じがするの。」
冷たいバターと温かいご飯が混じり合い、黄金色の泉になる。
などといいます。
他にもおいしそうなバター情報が満載。
(ウエストのバターケーキ、たらことシソのバターパスタ、お餅に醤油とバターなど、、。)
また、物語後半ではグルメな人についての描写も。
食べ歩きが好きで、料理好きでふくよかな体型。それだけ聞くと、大抵の男たちは自分たちを凌駕するような内面を秘めているわけはなかろうと油断する。
グルメというのは基本的に求道者だと思う。優雅な言葉でいくら包もうと、挑戦と発見を繰り返しながら彼らは己の欲望に日々、真正面から向き合っている。
たしかにこの小説に出てくるグルメな女たちは、自分を追いかけてくる男をぶっちぎる姿勢で食に向き合っていた。
「食べることが好きっていうと女の子っぽいって見られがちだけど、そう思われたいわけじゃないから!」って人に合っていると思う。
ジェンダー要素もあり、グルメ要素もあり、サスペンス要素もあるという盛りだくさんな小説。
三浦哲哉「LAフード・ダイアリー」
日本の食事の多様性が自然環境によってもたらされるものだとすれば、LAの食事の多様性は社会環境によってもたらされる。世界中から移住してきた人たちが集うコミュニティがそれぞれ独立性を保ったまま場所を占めている。
そんな街・LAで1年間暮らした日本人の筆者が、LAの食文化について気づいたことをまとめた本。
ファストフードは味わうためのものじゃない、という話や、
多様な美食にあずかっている「エリート層」は「多様性」の反対の「画一性」に負の価値を押しつけすぎていたように思う。
など、コロナ禍で見えてきた格差についても言及している本。
「伝統」があまりない地域だからこその食文化の多様性のおもしろさがある本。
村上春樹「カンガルー日和」
食の描写がおもしろかった短編集。
以前、読後に興奮しながらこちらの記事にまとめていた。
ので割愛するが、一番好きだったのは、知人の結婚式で眠気に襲われながら牡蠣のグラタンを食べている主人公のこちらの一文。
「僕はあきらめてかきのグラタンを食べはじめた。古代生物のような味のするかきだった。」
これを読んでニヤニヤした人とはお友だちになれそう。
このおいしくもまずくもなさそうな比喩は一体どこから飛び出してきたんだろう。
村上春樹は食いしん坊かどうかは別として、食べもののことを考えるのが好きな天才なのでは、と思った。
マイケルポーラン「これ、食べていいの?」
アメリカの有名ジャーナリストが工業化した食のリアルを伝える子ども向けの本。
「スーパーマーケットはとうもろこし畑だ」というフレーズがあった。
家畜のエサにも、冷凍食品の揚げ衣と揚げ油にも、清涼飲料水の添加物の甘味料にも、いたるところにとうもろこしは使われている。
とうもろこしなら別に良くない?って思っていたけど、その裏には実は工業化の闇が潜んでいて、、。
遺伝子組み換え作物と特許料の話、農薬の大量投入による地下水の汚染、労働者のことを考えない無情なアグリビジネスの資本家たち、とうもろこしを無理やり食べさせられている家畜たちの健康状態、などなど、積み重なった課題から目を背け続けている世界全体に警鐘を鳴らしている本。
奥田純一「ひとくちサイズを大盛りで」
こちらはおじさんぽさがおもしろい本。
写真家の筆者が、ユニークな写真を織り交ぜながらこれまでの食シーンの思い出を綴ったもので、妄想激しめで現実との境界が見えづらすぎるけどずっとニヤニヤしながら読める本。
料理作りで失敗したときの自分の励まし方
「失敗は、失敗だと思うから失敗になるわけで、これは別に失敗ではありません。」
ポジだな〜〜。
あと、子どもの頃に頑張って作ったにんじんゼリーを友だちのおうちに遊びに行くときに持っていったら、友だちたちが「まずっ」って言いながら次々と窓の外に投げ捨てていった、って話が面白おかしく書かれているけど普通に切なかった、、。
畑中三応子「ファッションフード、あります。」
食品の本質とは乖離した情報消費の食のことを「ファッションフード」と呼び、江戸時代から今に至るまでのファッションフードブームの流れを紐解いた本。
一時期こういう食ブームの本をたくさん読んでいた時期があったけど、これがたぶん一番面白かった。
「食の強みは老若男女問わず、誰でもすぐに流行に参加できること。」
「現代においては、食事ないしは料理の選択の原理、あるいは批判の原理はほとんど全て栄養学に還元されてしまうのではないか。」
私自身、栄養学を学んだ者であるけれど、こういうふうに栄養学がいろんな食べものを否定していってしまうのは寂しい世界だなあと思った。
「これは栄養がない。だから悪い食べ物だ!」みたいな世界には住みたくないよね、、。
原田マハ「やっぱり食べに行こう。」
東京、蓼科、パリで多拠点生活をする筆者の各地で出会った食との思い出エッセイ。
「上高地のパンケーキ」という章では、
この地の空気、水、光、すべてがこの一品を引き立てている。
え〜なにそれ、気になる、、。
他にもタイトルを見ているだけでよだれが出てきそうな話がたくさん。
「スペインの揚げパン」、「オランダ・うなぎの燻製」、「旬の味覚旅」、「美術館のオムライス」、「マカロンの生まれ変わり」、「生ハムメロン」などなど。
もくじでときめく本が好きです。
種村季弘「食物漫遊記」
古今東西の食文化に触れつつ、戦争を経験した筆者の食にまつわる思い出を描いたエッセイ
人生は地獄だというのに、天どんを食えばうまい。人生は地獄でも、天どんというものがちゃんとある。残る問題は、地獄にも天どんがあるかどうかだ。
この前ちょうど天丼を食べてきたばかりだった私にちょうどいいフレーズだった。
天丼ってなぜかよくわからないけど泣ける食べ物だと思う。
まずメニュが詩でなければ料理はおいしくならない。ことほど左様に、味覚は言葉の想像力の働きに大いに左右されるのである。
こちらも好きなフレーズ。
今は写真があるから想像力がなくてもだいたいどんなものが出てくるかわかる時代だけど、もし写真のない時代に生まれていたら、私はもっと想像力を働かせながらメニューを選んでいたのかな。
穴が開くほどメニューを読んでみたいものだ、と思った。
西加奈子「ごはんぐるり」
「ごはん周辺」という意味のタイトル通り、ごはんにまつわる話がいろんな方向から語られてるエッセイ本。
以前のnoteでもちらっと書いた。
「初デートの正解」という章のワンフレーズ。
もし今、「好きな人」と初めて食事に行くとして、店を選ぶ権利を託されていたら、どんなところを選ぶだろうか。
この作家さんの答えはお好み焼き屋さんか焼き鳥屋さんらしい。
あんまりイメージないけどめっちゃいいよな?
また、「オーダーの正解」という章では、大人数の居酒屋でメニューを頼むときに周りから評価されてる人は大体豆腐ものと季節の野菜ものを頼んでいる、ということが書かれていた。
(ちなみに私はこの前お好み焼き屋さんに行ってとんぺい焼きをオーダーしたら「いいね!」って言われました。にやり。)
「得意料理の正解」という章では、
彼女に作ってほしい料理で肉じゃがと答える人は「好きなタイプは小林麻央さん」と答えるみたいなものでムカつく。
ああ、なんとなくわかるかも。
「好きな給食は揚げパン」って答える人に似てるよね。
(これは私のこと。)
ちなみにこの人は「春巻き」らしい。
嫌いな人はいないし、ちょっとした手間がかかっているようにも見えるし、いかにも男性受けする感はない。
とのこと。
私だったらなんだろうなあ。
・・・シンキングタイム・・・
あ、男女問わず魚料理が得意な人はおおっ!って思うかも。
ぶりの照り焼きとか大好きだし、洋風のソースかけちゃったりしちゃったりしちゃっててもいいな〜。
エビフライ、ホタテフライ、アジフライ、カキフライとか、アジの南蛮漬けも好きなんだよね!
(誰へのアピール?)
あと得意料理かどうかはともかく、刺身が無骨に分厚く切られてたりするのもキュンとするかも。
え、いいなあ。
(自分で言っておきながらものすごく共感している。)
カレー沢薫「ひきこもりグルメ紀行」
コラムニストの筆者が全国各地から送られてくる銘菓や名物をおうちで食べて、その感想を書いた本。
今年読んだ本の中で1番笑いポイントが多い本だった。
(これを友だちに勧めたら、その子は電車の中で笑いを堪えようとして肩の揺れが止まらなくなったらしい。)
例えば博多通りもんのことなら、
「たとえ相手が妻ではない謎の女性と旅行するアリバイ工作のために東京のアンテナショップで買われたものであろうと、関係なく美味い。」
「通りもんを食いながらカロリーを気にすること自体が愚かである。そんなの全裸で外に出ておいて、ヘアスタイルの乱れを気にするようなものだ。」
と。
(これだけでこの方のおもしろさが伝わっていることを願う。)
おもしろかったところはメモしておくタイプの私だったが、この本はメモし尽くそうと思うとほぼまるまる1冊分メモすることになってしまう。
そのくらいいちいちおもしろい本だった。
以上10冊でした。
気になるものがあれば、ぜひ年末年始にでも!
番外編・これから読みたい本たち
さいごに、今読んでみたい本をダダダっと書いてみます。
ずっと読もう読もうと思って手を出せていない「発酵文化人類学」
これからの食の未来について考えられそうな「縁食論」と「日本外食全史」
台湾フードをローカルが語る「味の台湾」
優しそうな食エッセイ「やわらかなレタス」と「たんぽぽのメニュー」
就活中、食べ物の包装容器メーカーにも興味を持っていた私の心に刺さりそうな「素晴らしきお菓子缶の世界」
インスタや書店で見かけて気になっている往復食エッセイ「胃が合うふたり」
味の素食の文化ライブラリーのFacebookで紹介されていて、ちょうど世界史を勉強してみたいと思っていたところに「中国料理の世界史」
料理のパイオニア・フランスの調理科学の本「フランス式おいしい調理科学の雑学」
もくじに惚れた「おなかのおと」
レシピ本なら「#おうちでsio」と「毎日食べる。家で、ひとりで。」
みなさんのおすすめも教えてほしいです!
来年もたくさん素敵な本たちに出会えますように!
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