夕焼けに染まるエシレバターの焼き菓子たち
ー私の好きな1日の過ごし方ー
平日の夕方4時ごろ、丸の内を歩いていた。
ハイブランドな街なんだけど、人があんまりいないからかノーブランドで固めたあべこべコーデの私でも不思議と居心地は悪くない。
（銀座はちょっとコワイ。）
さっき喫茶店で食べたサンドウィッチはとっくに消化されている。
夜ご飯までに何か軽いものでも、と思って、行きたいお店リストの中にあったエシレバター専門店・「エシレ メゾン デュ ブール 丸の内」へ向かった。
このお店に行きたいと思ったきっかけは、柚木麻子さんのベストセラー小説「BUTTER」で、連続殺人事件の容疑者・梶井がエシレバターへの愛をこんなふうに語っていたからだった。
「美味しいバターを食べると、私、なにかこう、落ちる感じがするの。」
読み進めていくうちにバターが食べたくてしょうがなくなっている自分に気づく。
開店前から並んでいる人がいるという噂もあるが、すぐに売り切れちゃうケーキなど以外は夕方になってもまだ残っていた。
店内にはきれいな青色が散りばめられている。
どこかで「エシレブルー」という言葉を聞いたことがある。
エシレブルー、私1番好きな色だな。
もりもりに盛られたフィナンシェとマドレーヌ。
そのどちらかを買って、皇居のあたりで食べようと思った。
ショーケースの説明書きによると、フィナンシェはアーモンドが入っていて、マドレーヌにはレモンが入っているらしい。
そんな違いがあるんだ。
どっちも捨てがたいなあ、、と決めかねていたら、前の方のお姉さんが「フィナンシェとマドレーヌ一つずつ」と注文しているのが聞こえた。
ぐぬぬ、、！
それ、ありだな！！
私も勢い余って「フィナンシェとマドレーヌ一つずつ」と言うことにした。
・・・
かわいいエシレブルーの店内に別れを告げて、代わりにエシレブルーの紙袋に包まれたふたつの塊を大切に持って歩き始めた。
思わず笑みがこぼれる。
「えへっえへっっ」って声が勝手に出ちゃった。
（普段は至極真っ当な人間です。）
・・・
皇居の周りにベンチとかあるといいな〜と思いながら歩いていたら、いきなり視界がひらけた。
ものすごくきれいな広場があった。
東京駅から皇居に向かうメインストリートみたいなところ。
平日だったからか、静かで落ち着いた雰囲気。
ゆっくりベンチに腰かけた。
・・・
まずはフィナンシェを食べることにする。
一口かじった瞬間、サクッとして消えた。
いいバターって後味が濃いのかなって思っていたけど、ここのバターはあっという間にすーっとどこかに消えて、アーモンドの微かな風味と砂糖の軽い甘さだけが広がった。
食べても食べてもそんな感じ。
あっという間になくなった。
幸せなひとときだった。
曇り空から夕陽が差し込んでいて、ずっと座っているとちょっと寒くて、でもこの時間がずっと続けばいいのにって思った。
まだすぐには帰りたくなくて、カバンの中に入っていた村上春樹の「スプートニクの恋人」を取り出した。
「一度読み始めたら止まらない」と聞いていた通り、今まで苦手だと思っていた村上春樹が嘘のようにすらすら読めて、このときもあっという間に一章読んだ。
よし、ここらでひとやすみ。
チラッ
（紙袋に目をやる。）
マドレーヌも食べてしまおう。
落とさないように気をつけながら写真を撮る。
（落とすとかマジで笑えない。）
一口食べると、さっきのフィナンシェ以上にサクサクしていた。
ザクッって感じ。
ここだけクッキーでできているんじゃないかってくらいザクザク。
レモンって書いてあった通り、レモンのすーっとする甘さがあって、あとジンジャーの味もほんのりしたような気がした。
真ん中は見違えたようにしっとりしているのだが、最後の一口にはまたクッキーみたいなザクザクがある。
うーん！最高！！！
と心の中で何度も呟いた。
私がエシレの焼き菓子を2個食べて、小説を一章読んでいるうちにも空はゆっくり変わっていった。
いつの間にか夕焼けに。
こうやって自分の好きなことをした1日が終わると、何故だかエネルギーがみなぎっていることが多い。
帰ったらあれをやろう、これもやろう、となるから不思議だ。
学生生活のカウントダウンはとっくに始まっていて、残された時間はもうそんなに多くはない。
だからこそ、1日1日をもっと大切に使っていきたいな、と思った。
・・・
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