いちファンが考える、村本大輔のAbemaPrime降板について
311の日に観覧して思った。「村本さん、あなたはもう、こんな番組を辞めていい」
Abema Prime(アベマ・プライム)というインターネット配信ニュース番組がある。お笑い芸人の村本大輔さんはこの番組の司会を3年務め、この3月をもって降板することが決まった。
私はこのアベマ・プライム(通称アベプラ)を熱心に見てきた視聴者のひとりだった。村本さんのファンであるからだけではない。この番組が地上波とは違った角度からニュースを切り取っていて、面白いと思ってきたからだ。
しかし最近、この番組の右傾化には疑問を抱くことが多く、村本さんの降板にあたって、私自身の感想を書くことにした。
沖縄基地問題のトリック
まず疑問に感じたのは、沖縄基地問題を扱った回のとき。ハンガーストライキをしたことで注目を集めた大学院生、元山仁士郎さんをゲストに迎え、他にも沖縄の政治家や元防衛大臣など、有識者をゲスト・コメンテーターに迎えて議論する回が開かれた。
この時の番組では途中、VTRが入り、沖縄の普通の若者たちが基地についてどう考えているかを語っている映像が紹介された。若者たちは口々に基地があっても良い、反対活動は怖いといった内容を語り、スタジオにいた沖縄の政治家の方も「沖縄県民は別に基地に反対していないんですよ」とコメントを付け加えた。
しかし後になって、VTRに登場した若者たちは、自民党青年部に所属しているメンバーであることが分かり、さらに沖縄の政治家の方にいたっては、米軍基地に資材を運んでいる建設会社と深い関係にある人であることが分かった。
番組は結局、基地反対派の村本さんと元山さんを、その他のコメンテーター達が皆で批判するような形になって終わった。村本さんは、コメンテーターのひとりから「(基地に関する)あなたの説明は稚拙だ」とまで言われた。
あえて賛成か反対かを討論させる番組なのだから、もっとバランスを考えてゲスト配分をするべきだと思った。2人VS残り全員といった形では、どうしたって賛成派の意見ばかりを多く聞くことになってしまうだろう。
極めつけは東日本大震災から8年目の回
震災から8年目を記念する回では、原発の是非を問う議論がなされた。番組の開始早々、ゲスト・コメンテーターのひとりから、「村本さん、あなたは原発についてどう思う」と問われ、「僕は脱原発です」と彼がはっきり答えたところから、スタジオの空気が決まったように感じた。
コメンテーター達から次々に、「そうやって先にスタンスを決めるのは間違っている、君の悪いところだ」や「震災から8年経った今だからこそ、原発を前向きに進めていこう」や「震災から8年も経ったのだから、原発に賛成か反対の議論はもうやめましょう」などといった意見が飛び交った。
スタジオに呼ばれたコメンテーター達はその意見から察するに、原発推進派ばかりで、脱原発を主張する村本さんの意見をみんなで言いくるめるような雰囲気が出来上がっていった。
中でも一番びっくりしたのが、「たった一度の事故で、ああもう原発はダメだと感情的になるべきではない」という意見が、あるコメンテーターの口から出た時だった。彼は村本さんが感情的な性格だと暗に批判してもいた。
たった一度の事故で、家族を亡くし、家も職場も失い、故郷を去らねばならなくなった人々がいる。知らない町に移住し、移住した先の新しい町で「放射能がついている」などと言われて、イジメに遭う子供たちの話も聞く。震災から8年経っても、福島の復興はまだまだ遠く、除染のめどは立たない。震災関連死という言葉もあるように、長引いたストレスで心身ともにぎりぎりの状態の人が少なからずいるのだ。それなのに、たった一度の事故で感情的になるな、と言えるのだろうか? そのコメンテーターは同じ言葉を浪江町や双葉町に行っても言えるのだろうか?
くしくも同じ日の午前中、村本さんは小泉純一郎元総理大臣と、原発について対談していた。場所は「渋谷ロフト」。私も足を運んだ。小泉さんは今、ライフワークとして脱原発に精力的に取り組み、最近は著書も出版された。
対談の中で小泉さんは、太陽光発電の活用を唱え、ソーラーパネルが徐々に普及していること、ダムも「治水」より「利水」にもっと活用すれば水力発電が普及する可能性が広がることなどを語られた。
小泉さんは、原発を「トイレのないマンション」に例え、汚物が処理できないトイレのごとく、核のゴミが溜まっていく現実について指摘されていた。フィンランドにある世界最先端の核廃棄物処理施設「オンカロ」でさえ原発2基分の核のゴミしか処理できない。フィンランドには原発が4基あり、残り2基のゴミの処理はどうしようか悩んでいるというのに、日本は原発が54基もある。自分が総理だった頃は、原発がクリーンエネルギーだと信じていた。しかしそれは間違いだったと今は思っている。間違いは改められる。そう語っていた。
対談はとても盛り上がり、会場からは多くの人が手を挙げて質問をした。質問者の中には長年、脱原発に積極的に取り込んでいる人が多く、それゆえ質問の内容も濃くて深かった。
そしてその日の夜、アベプラでは、小泉元総理と村本さんの対談の模様がVTRで紹介された。コメンテーターのひとりはそれを見て「小泉さんのおっしゃる太陽光発電は欠点だらけ。僕は彼の本を批判する本を書こうと思っているんですよ」と言った。
昼と夜で正反対の考え方の人々が集まっている。昼の対談を打ち消すような批判的なコメントが、アベプラでは相次いだ。
原発推進でも基地賛成でも、人はそれぞれ考え方が異なるから、自分の意見を言うのは良い。しかしこの番組はゲスト配分が偏っていないかといつも思うのだ。村本さん以外は概ね同じ方向性の意見のゲストがそろい、司会者の意見にみんなで反対するような構図ができあがっているように見える。
3年間、お疲れ様でした
3月18日の番組で、村本さんは降板することを発表した。彼はニコニコ笑いながら「この番組のおかげで、僕はすっかり『色』がついてしまって、他のバラエティーとかクイズ番組とかに呼ばれなくなりましたよ」とジョークを飛ばしていた。
色ってなんだろう?と思う。
脱原発を訴える人は全員、左翼なのだろうか? 辺野古移設に反対している人を簡単に左と決めつけていいのだろうか?
村本さんの左寄りの甘い考えを、ゲストのみんなで正してやっているというような空気が番組に漂っているのを、いち視聴者として感じてきた。
この数か月の番組に「あれ?」と思うことが多かった。小川アナウンサーの前にいた小松靖アナウンサーは番組中、村本さんに「何でも国家のせいにしちゃダメですよ」と諭すような口調で言っていたことがある。国家のあり方について報じている回ではなかったのにもかかわらず、なぜそんなふうに同じ司会者から言われてしまうんだろうと思った。もしかしたら小松さんの中に、村本さんは何でも国家のせいにする人だ、という思い込みがあるのかなと思った。
だから、はっきり言って、村本さんの「色」を決めつけているのは、本人の発言以上に、彼の周りにいる人々だと思えてならない。
村本さんには、お疲れ様でしたと言いたい。これからは、あなたと似たような意見の人々と議論するような場をつくってほしいと思います。
あなたは、自分と違う意見を聞くことで人は成長すると思っているけれど、私は3年間、アベプラを拝聴してきて、正反対の考えの人々と意見を交わすことは、必ずしも生産的ではないと思いました。正反対な考えの人と話していても深い議論に発展しない。深めるためには、ある程度、意識を共有する人とやらなければ、問題の表層をぐるぐる回っているだけになると思う。
水と油は交わらないけれど、油同士なら、より上質な油をつくれるかもしれないし、水同士なら、より美味しい水がつくれるかもしれない。
あなたと思想を共有する人々と、深化させた議論を聞けるのを楽しみにしています。
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