母は私にブスと言わない(5)
まさか母に車椅子を押してもらう日がくるとは、考えてもみなかった。
こちらの記事で書いた通り、娘は病気を患い、散歩をしたり、遠出することが困難な時期があった。
そんな娘の手元に、
4枚の東京ディズニーリゾートのパスポート。
パスポートの有効期限が間近に迫っていた。
(期限が延長出来るパスポートではない)
娘「行きたいけど…今の状態では厳しいよなあ…」
誰かに譲ろうかとも考えたのだが、あまりにも期限ギリギリであった為、「それも厳しいか」と諦めかけていた娘。
娘「そうだ、母に相談してみよう、そうしよう!」
娘はダメ元で母に、パスポートが4枚あること、自分は体調的にとてもパークを歩き回ることが出来ないことなどを話した。
すると母は、ディズニーリゾートには1日500円で車椅子をレンタル出来るサービスがあることを調べてくれた。
母「私が車椅子を押すから行こうよ!もちろん体調次第で。」
…ということで急遽、「母と娘のディズニーデート〜雰囲気だけでも楽しめたらいいよね!旅〜」が始まった。
移動は電車ではなくバスであれば娘の負担が少ないのではないかとのことで、旅感のあるバスで移動。とても快適で体力的にもありがたかった。ドン・キホーテで購入した杖を持参していたのと、BCAAというアミノ酸サプリメントの効果もあり、休みながらであれば10〜15分くらいは歩くことが出来た。
〜ディズニーランド到着〜
娘「わあ!ディズニーだ!!!!!」
病気というのは本当に不思議なもので、
テンションが上がると元気な気がしてくるのだ。
(前日はしっかり休養したので調子がよかったのもある。)
〜母と娘、夢の国へ〜
娘、初めての車椅子。母とエントランスにある車椅子をレンタル出来る施設へ。青の可愛らしい車椅子とキャストさんが待ち構えていた。
娘「どっこらしょ。」
座った感じ、当たり前かもしれないが全く不快感はなく、むしろ心地よかった。車椅子が初めてだということをキャストさんに伝えると、丁寧に説明してくださり感謝。持っていた杖を車椅子に装備し、足を置くフットサポートを下げて足を置き、いざ、出発。
娘「(母に)お願いします。」
母「はい。」
ゴロゴロゴロゴロ
車椅子からはこんな風に世界が見えるのか〜。
とか、
母、ずっと押して重いだろうな疲れるだろうな。
とか。
アレコレ考えながら、ディズニーランドを見て回った。
たまに娘が母を気にかけると母は常に、
「大丈夫よ〜大丈夫大丈夫。」
と、疲れた様子を全く見せず。
母、本当にありがとう。
途中、母がお手洗に行き、
花壇の近くで待機する娘。
娘「あ、あのお花キレイ〜」
と、柵越しにお花に夢中になるあまり、車椅子ごと前に倒れてしまう。すると、通りかかった方が助けてくれて、「何やってるんだ私は」という気持ちとともに、慌てて感謝を伝えた。これは完全に娘の過失であるが、人の優しさに触れて心があたたかくなった。
アトラクションに乗ったり、美味しいご飯をいただいたり、パレードやショーを観たりして、車椅子でも想像以上に楽しめることを知り、とても感動した(車椅子を押し続けてくれた母や、様々な配慮をしてくださる東京ディズニーリゾート、ひいては、株式会社オリエンタルランドさまのおかげである)。
例えば、車椅子のまま楽しめるアトラクションがあったり、パレードのルートに車椅子の方専用のスペースがあるなど。まだまだ他にもたくさんの配慮があるのだと娘は思う。今回のディズニーリゾート旅では、そういった配慮の一部に気付くきっかけとなった。
当初は、お昼過ぎには帰宅する予定であった。しかし、未使用のパスポートがあと2枚あったので、「せっかくだからディズニーシーにも行こう!」ということになり、結局、夕方頃まで満喫した。
車椅子は、貸出期間内にディズニーシーの車椅子レンタル施設に返却すれば良いとのことで、車椅子のままディズニーリゾートラインというモノレールでディズニーシーに移動出来たのもありがたい。
そしてついに、私の大好きなアトラクション、『シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ』を体験する時がやってきた。
人生〜は、ぼうけ〜んだ、地図はな〜いけ〜れ〜ど〜♪
このアトラクションの中で流れるのが『コンパス・オブ・ユア・ハート』という曲。好きと言いながらこれまで知らなかったのだが、この楽曲は、世界のディズニーランドの中でも、東京ディズニーシーでしか聞くことが出来ないのだそう。
冒険の香り漂うディズニーシーにぴったりな歌詞、世界観で何度聴いても感動する。面白いのが、自分の価値観が変わったりすると、感動する箇所も変わるところである。数年前は「冒険」や「宝石や黄金より大事なものがある」という歌詞に胸を踊らせていたが、「優しさと勇気忘れず」も響くなあとか、冒険したからこそ気付けることもあるよなあとか、毎回何かしら発見がある。
素晴らしい冒険の余韻に浸りながら、『シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ』を後にすると、もう外は暗くなり始めていたので、引き続き母に車椅子を押してもらいお土産屋さんへ。
ディズニーあるある。帰り際の寂しい感じ発動。
ディズニーシーの車椅子レンタル施設に車椅子をお返ししてバス乗り場へ。長時間、私を乗せてくれた車椅子と母、車椅子レンタルサービスに関わる方々への深い感謝を胸にバスを待つ。このバス乗り場のお姉さんもとても親切にしてくださって、バスの中から母がお礼を伝えていた。
母「お姉さ〜〜〜ん」
...…お姉さん、お仕事中で母に気付かず。帰りのバスは出発した。
続く。