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27.車を買う時の保証人になってまんまと実家が競売にかけられた話

私が高校2年の春、それまで貧乏の底だと思っていた我が家にも急に春がやってきた。
珍しく父が旅行にでも行こうか。と提案したのだった。
中学生くらいまでは、毎年、年に2回ほど岡山に行っていて、行った先のお宅に泊めてもらうのが恒例行事だった。毎日生きていくので精一杯の状態なので、ほとんどイベントが無くなっていた我が家としては、目玉商品とでもいうのだろうか、私たち兄弟がテンション上がる催しだった。

今回は、父の提案で大阪に行くこととなった。深夜に家を出て、父の運転で車中泊をし、
大阪観光をして帰る弾丸旅行だった。
天気も良く、私たち家族は久しぶりの旅行を楽しんだ。天王寺動物園への道すがら、道に座り込むホームレスに驚き、まるで見えてないかのように通り過ぎて行く通行人にもっと驚いた。田舎過ぎてホームレスを見たことが無かった私は、強いカルチャーショックを受けたのだった。天王寺動物園では、檻の周りを何度も行き来している動物を見たり、大阪城や造幣局の周りを歩いてちょうど満開の桜を眺めては何とも幸せな気分に浸っていた。このままこの旅行が続いたらいいのに。数ヶ月振りの穏やかな家族との時間。お金や怒鳴り声の心配をする必要が無い。なんて平和なんだろう。我が家の問題や心配事も旅行から帰ったら無くなっていて、ぜ~んぶ解決して以前の状態に戻るかもしれない。
春のような淡い期待を持ったのに、それは不幸を予感する前兆となってしまったのだった。

大阪から戻った当日、留守にしていた間の郵便物を開封しながら両親がただならぬ雰囲気で話をしている。この頃になると、何か悪い事が起きる予感が察知出来るようになっていた。
また何か悪い事が起きるかもしれない。私は直感的にそう思った。

数日経過してそんな事をすっかり忘れたころに、両親から話があるからとリビングに呼ばれた。
神妙な面持ちで父親が口を開いた。
実は、引っ越しをしないといけない事になった。家は今探しているのだけど、ちゃんと高校には通えるようにするし、みんなで暮らせるように用意はするから。
でも、1か月半後には引っ越さないといけないので、準備をして荷物をまとめてほしい。

とのことだった。私は父親の言っている言葉の意味が理解できず、
『はぁ?え?意味わかんないんだけど。』を繰り返していた。

父親は引越しに至るまでの経緯を話してくれた。これまで半年間、自営業の仕事では無く、会社員として働いてきたのに、その分の給料が全く払われていない事。
その社長と知り合えたことで活路を見いだせると思って信頼していたのだが、実は裏切られてしまったこと。今後もお金が入る目途が無い事。
また、社長が新車を買いたいが、色々な契約書に判子を押しすぎてお金を借りられないので、代わりに判子だけ押してほしい。と言われ、まんまと借金の保証人の判を押してしまった事。
支払うと約束したはずの社長がお金を払わず、代金が支払われないので、父親に催促が来ていた。父親は自分の借金では無いので、無視をし続けていたら、ついに家を差し押さえられてしまったと言うのであった。

『はぁ?何それ、じゃあ騙されたってこと?ばっかじゃないの?』
私が怒りで泣き喚き、暴言を浴びせると、
『そんなことお父さんに言うんじゃありません!』と母が私に怒鳴った。
私は内心、もはやそんな馬鹿なやつ親じゃねーし。と悪態ついていたが、心の中では
どうしよう、家が無くなる。どうしよう。と居ても立っても居られなくなってしまった。
この家は大嫌いだし、両親のことも大嫌いだけどなんで引っ越しになるんだよ。
てか、マジ馬鹿じゃないの。今時借金の肩代わりなんて誰もやってねーよ。
今大人になった私が考えても、父親が判を押したその判断は甘いと思うが、当時藁にもすがる思いで頼った人にまさか騙されるなんて父親が一番ショックだっただろうし、後悔もしたと思う。
それくらい生活やお金に困っていて判断が正常にできなかったのかな、と哀れにも思う。
だけど、判を押すかどうかは別の話。
純粋すぎる、優しすぎる、の代償が余りにも大きすぎて笑って許せるような寛容さは思春期&反抗期真っ盛りの私には1mmもなかった。

つづく

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