キッチンで、美しく、茶を点てる(陶芸家三宅直子さんの点前座にも水屋にもなるキッチン・中編)
万物のいのちが輝く小満の候。
太陽もエネルギーに満ちて、いよいよ夏が近づいているのを感じますね。
茶と家企画室 わたぬきです。
茶の湯とともに暮らす方のご自宅にお邪魔して、お茶を一服点てていただき、支度や片付けなどを見せていただく連載「お茶を一服、いただけますか」第二回。
前回に引き続き陶芸家・三宅直子さんのキッチンからお送りします。
収納やお仕度を見せていただいた第一回はこちら↓
お茶を点てる
前回のお仕度で、鉄瓶を火にかけ、水指に水、棗に抹茶を張り、お道具をシンクとコンロのあいだに整えました。
直子さんのキッチンユニットはコンロ前のパネルやダイニング側の立上がりがない、とことんフラットなタイプ。ダイニングテーブル側から見たときにもすっきりとお茶空間らしく映ります。
使いやすく、美しく
コンロの隣を点前座に見立てた直子さんのお茶空間、風炉のように鉄瓶を火にかけたままお点前ができます。
お茶碗を濯いだ際のお湯や水をすぐシンクにあけてもいいのですが、そこは一旦建水にあけます。
「シンクも真横にあるんですが、お客様の前で直接シンクに流すよりは建水にあけた方がいいかなと。あと、鉄瓶なので正式なお点前では水指は使わないのですが、ここはあった方がお茶らしく見えるのでいつも用意しています」
合理性とパフォーマンス性を備えたおもてなし、たのしく拝見しました。
一服、いただきます
お菓子、お茶ともに器はもちろん直子さんの作品。
特にお茶碗は、「今日のために焼きました!」と新作をご用意くださいました。心づかいとクリエイブが爆発していてさすがの一言です。
お茶をいただきながら一問一答
Q:お茶をはじめたきっかけはなんでしたか
A:多摩美術大学の大学院生時代に住んでいたアパートの大家さんに、地域の文化祭で華道家の方が花を生けるお花入れを依頼されたのがきっかけでした。
その華道家の方がお茶の先生の息子さんだったんですが、茶花のこともお茶のことも何もわからなかったのと、もともと器を作っていく上で、お茶のことは学んだ方がいいんだろうな、という気はしていたので、ちょっと数回勉強させていただこうと思って伺ったんです。
でも数回では何もわからなくて、そのまま入門しました。
Q:お茶を点てるときはどんな時ですが、どんな人といただきますか
A:家にお友達が来たときに点てたりしますが、一番はデパートとかでおいしそうなお菓子を見つけた時に自分のために点てることが多いです。家族に付き合ってもらって。
オープンアトリエでいらした方にもお茶を差し上げる準備をしているんですが、皆さんめいいっぱい制作されて時間がなくなることが多くてなかなか。笑 でも少人数のときで時間があればキッチンで点ててアトリエに運んだりします。ほかにもアトリエの生徒さんと外部の茶室を借りて、自分たちの作品などを持ち寄ってお茶会をときどきしています。
Q:はじめて購入したお道具や、思い入れのあるお道具を見せてください
A:稽古の七つ道具以外だと、茶筅を小渕の茶道具屋さんで求めたのが最初です。茶碗は働いている陶芸教室で試しに作ってみたのが最初ですね。なんとなく手放しがたくて今でも持っています。
思い入れのある道具は、お茶の先生にご依頼で制作した片口茶碗です。
普通だったら作る必要がなかった器ですが、コロナで濃茶の回し飲みができなくなって、それでもやっぱりみんなで一つの場所を共有しましょうってなったときにいろいろ先生が工夫されて。みんなで楽しくお茶できることに感謝しましょう、っていう場に参加できたことがありがたいと思いました。
Q:お道具管理の工夫している点や、これまでの失敗譚があれば教えてください
A:工夫としては、普段使うものはまとめておいて、使うようにする。使いたい器などは使うときに出すのではなく、前もって出しておいて使うのを楽しみにするようにしています。
失敗は、あんまり言いたくないんですけど、茶碗をよく乾かさずにしまってしまって、貫入(釉薬の表面のひび)にびっしりカビがはえたことがあります…それ以来、一晩以上出しておいてからしまうようにしています。
Q:ご自宅の水屋/キッチンで気に入っている点や、今後改善したい点を教えてください
すべて見せない収納になっているところが気に入っています。食器類も乾物もスパイスもゴミ箱もキッチンユニットの引き出しに入ってるんです。全て仕舞って、フラットにできるので茶道具も広げやすい。
あとはシンクのそばにちょっと柄杓をかける場所や、茶筅をかける場所が手元にあったらいいなと思います。
Q:三宅さんにとってお茶とはなんですか
感謝、かなと思います。
お茶というかお茶のお稽古で先生のところに伺ったときに感じるんですが、いろんなことに対する感謝を感じられる瞬間。
普段は生活のこととか自分のことに頭がいきがちですが、人とのつながりとか、季節の移ろいとか、先生のお話を伺いながら一服点てていると、周りを感じられる瞬間で、ありがたいひとときだなと思います。
後編はこちら
文:わたぬき 絵:わだのぞみ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?