新規事業のための「恐れのない組織」(2/3)
不安しかない、かつてのノキア
ノキアは、かつて「不安しかない組織」だった。
携帯電話端末で世界トップだったノキアは、強力な競合の誕生の影響もありスマートフォン市場でシェアを大きく落とし、携帯電話事業をマイクロソフトに売却することになった。
当時をノキアをふりかえるところから、新規事業のための「恐れのない組織」について考えていきたい。こちらは前回からのつづきです。
アップルのiOSとグーグルのAndroidがもたらす脅威を不安に思いつつ、開発費の大きいOSの開発に舵を切れなかったノキアでは、「現実と向き合う」という真っ当なことができない状態が続いていた。
賢明な幹部と勇気ある中間管理職が挑戦に舵を切る意思決定をできれば、ノキアもアップルやグーグルを追い越せなくとも、食らいつくところまでいけたのかもしれない。新たな専門知識の獲得や創意工夫とはかけ離れた、強いプレッシャーと保身の文化は、どのようにして形成されたのだろう。
そとの鬼(iPhone)より、うちの鬼(幹部)
ノキアにおける経営幹部(Top Management:TP)と中間管理職(Middle Management:MM)の間で渦巻く不安は、どのようなメカニズムで発生していたのか。
経営幹部は外への不安にさいなまれている一方、中間管理職は「iPhoneなんて大したことない」と考え、軽視していた点に注目したい。「黙ってるiPhoneより、怒鳴りつけてくる幹部の方が怖い(最近のiPhoneはよく喋るが)」という意識もあったのだろう。
業界トップを走ってきたエリートとしての自負や、自分たちの製品への誇りもあったのだろうが、iPhoneを恐れる幹部の助言を軽んじたことも大いに影響した。「iPhoneなんかにビビってる幹部なんて、大したことない」という蔑視や「あんなに感情的なやつの言うことなんて、聞く必要ない」という冷めたスタンスが、賢明な幹部と中間管理職の溝を深めていった。
はじめは危機感。つづく組織は安心感
「打倒iPhone!!!」と一致団結して危機感をもてていたら、結果は変わっていたかもしれない。「新規事業を本気でやろうとしていない組織は新規事業をやらないほうがいい。だいじなのは危機感だ」というどこかで聞いたことのある見解とも整合する。
しかし危機感があれば、ノキアの中間管理職はすばらしいOSを作り出し、iPhoneに匹敵する商品を世に出して、イノベーションを起こすことが出来た、という未来になったのだろうか。
不安だけではやる気はでてこない。不安に臆することなく、それを原動力に変えられる人たちもいる。「このままでは、まずい」という現状を否定する危機感をいだいて一歩踏み出す人は、ファーストペンギンだ。彼のビジョンと行動力が、高い目標をつくり、周りを引っ張っていく。
彼の言葉や行動に共感し触発されて一緒に動き始める人たちの中には、危機感を同じように抱いている人も多くいるだろう。しかし、それだけではないはずだ。「きっと、わたしたちならやれる」という互いに認め合う、将来を期待できる組織的な安心感がそこにはあるはずだ。
本書の第一章にある『リーダーの仕事』の2つと、新規事業で必要な危機感と安心感の関係がみえたような気がする。
2の原動力が危機感で、1の原動力が。。
次回こそ、新規事業のための「恐れのない組織」の作り方に踏み込みたい。
※ちなみに、ノキアに関する論文はこちら。
つづきはこちらです。