『WHO YOU ARE』奴隷と武士と囚人とチンギス・ハンの文化(1/4)
本書の著者は『HARD THINGS』で(ビジネスの一部の人には)おなじみのベン・ホロウィッツ。
シリコンバレーの起業家であり投資家でもある彼が、『文化をつくる』ことを考える上で取り上げたのは、生きるか死ぬかの厳しい世界を生き、文化をつくってきた人たち。
本書で取り上げている企業文化の達人たちは独特だ。ハイチ革命を指揮したトゥーサン・ルーベルチュール、日本の侍、モンゴル帝国を築いたチンギス・ハン、アメリカの刑務所で文化を築いた元囚人のシャカ・サンゴールといった人たちに焦点をあてている。(p.3)
言葉だけでは文化なんてつくれない
組織の文化を語るとき、最近はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)という「組織が大事にしたいこと」を言葉にすることから始まることが多いように感じます。
しかしそれは「ぶれて揺らいでしまいがちな文化を、言葉で固定したい」とか「少人数で培ってきた文化を、効率的に多くの人へ浸透させたい」といった経営者の都合のつくりものであり、よくある形骸化まっしぐらな(下手すると、偽物の)文化なのかもしれません。
本書では、経営者に問う「あんた、だれやねん?」という一見トリッキーな質問を文化の根幹としつつ、言葉でなく行動を重視し「いつも、何やってんねん?」と問いかけます。(つい、力余って変な関西弁になりました。。)
心のなかで大事にしていることも、日々の行動という他の人の目に見えるかたちにして現し続けなければ、誰もそれを信じないし、真似できません。管理職から「困ったことがあれば、すぐ言ってね」と言われても、その人自身がそうせず「なるべく自分で対応する」のを目にすると、文化は壊れていきます。組織という人の集団でいくつかの文化(行動規範)をみんなが大事にするには、トップへの『信頼』が必須ということですかね。
奴隷たちも、文化があれば力を合わせる
「組織のために、力を合わせよう」いつだって、トップはメンバーに団結力を求めます。けれども誰のことも信用せず、自分の命の守ることに必死な人たちは、そう簡単には「組織のため」なんて考えられません。
そんな疑心暗鬼で自己中心的な状態の『奴隷』を1つにし、団結した戦闘集団に仕立て上げ、ヨーロッパの軍隊に打ち勝ち、人類の長い歴史の中で、唯一国家独立につながった奴隷による革命を率いた人がいました。ハイチ革命を起こしたその人は、トゥーサン・ルーベルチュール。
彼の生い立ちはこちらのWikiに譲るとして、果たして彼はどのようなルールをつくったのでしょうか。(たまたま7つあったので『セブンルール』にしましたが、YOUさんたちの番組の雰囲気と写真のギャップが凄まじい。。)
セブンルールの1つ。『ショッキングなルールをつくる』について取り上げます。彼は軍に『信頼』を浸透させるため、あるルールを作りました。
既婚の兵士に妾を持つことを禁じたのだ。強姦も略奪も兵士にとっては当たり前とされていた中で、婚姻の誓いを尊重しろというのはばかげた命令に聞こえたに違いない。(中略)組織の誰もが「どうしてだ?」と思うことに対して、どう答えるかで文化が決まる。というのも、その答えはみんなの記憶に残るからだ。(中略)その答えは、「この軍隊では、約束が何よりも重要だから。妻との約束を守れないなら、私たちとの約束を守れるはずがない」というものだ(p.52-53)
『妻との約束』を守ることを『軍の約束』を守る前提に求めるリーダーは、今の時代になっても見当たりません。確かに、単純に「約束を守る」をルールにするよりも「不倫しちゃダメ」を規範にするほうが、絶対忘れないし、何を大事にすべきか一人ひとりが考えるようになりそうですね。
現代社会に、奴隷のルールを応用すると
アマゾンは「会議でパワーポイント禁止」。フェイスブックは「素早く動き、破壊せよ」。(2013年当時の)ヤフーは「勤務時間中は会社にいなければならない」。いずれもショッキングなルールだが、それぞれ何を大切にすべきかが伝わり、日々の行動につながるものだ。ルーベルチュールのルールは十分現代社会にも応用できそうだ。
では『何が最優先かを行動で示す』はどうだろう。ネットフリックスの話が強烈だった(ので『NO RULES』を早速購入)
創業当時から「いずれインターネットでコンテンツを配信できるようになる」と考えたヘイスティングスは1997年に社名をネットフリックスにした。しかし、インターネットが普及していない当時はDVDを郵送する事業が主力で、動画配信は「これからコアビジネスにしたい」というところだった。
2010年、それなりに十分なコンテンツが集まったと判断したヘイスティングは、DVDの輸送サービスのなかったカナダで動画配信サービスを実験することにした。すると3ヶ月での獲得目標としたユーザー数に、3日で到達した。動画配信の時代が来たのは明らかだった。でも、どうしたら動画配信を核にしたグローバル企業へと飛躍できるだろう?もちろん、はじめは配信とDVDを抱き合わせて提供することになる。だがその次はどうする?未来へと一足飛びに向かうにはどうしたらいいのか?社内でこの一番大切な話題を話し合うと、かならずDVD事業をどう最適化するかという議論に戻ってしまっていた。ヘイスティングは何を最優先したいかを社内に示すため、厳しい決断を下した。毎週の経営会議から、DVD事業の幹部をひとり残らず追い出したのだ。「あれは、この会社を築く上で一番辛い瞬間の一つだった」ヘイスティングはのちにそう語っている。(p.94-95)
DVD郵送事業で血も滲む努力を何年も続け、幹部にまで上り詰めた誇り高き(おそらく自信にも溢れた)社員たちに「もうこれから経営会議でなくていいから」と伝えるなんて、お腹がキリキリ痛くなるのは間違いない。
しかしその決断と行動に踏み切ったからこそ、ネットフリックスは「コンテンツとテクノロジーに価値を置く」という文化に移行できた。ヘイスティングスは行動で文化を示すことができた。この行動が、多くの社員の心に訴えたことも間違いない。(はやく『NO RULES』を読みたい)
会社には何十年も前につくった『企業理念』があります。理念をつくった当時の社員にとっては、すんなり理解でき納得する、共感できるものだったのかもしれません。
しかし現代の企業運営において、果たしてその『企業理念』は行動で示されているものなのでしょうか?また、理念創設当初と現代とは顧客からの要望や競争環境が変わってきているはずです。これから大事にすべき行動規範は『今までの企業理念』に書き起こされているのでしょうか?
「一端の社員が声を上げても、しょうがない」でなく、「どのような行動から始められるか?」を自分に問い、連休明けにギアをしっかり入れられるようにしたい、と思いつつ、今日も軽快なYOUさんたちのトークを見ながら昼食をたのしもうと思います。
3分の2以降は、また追加しますので!ではでは
(2021/5/6)つづきのnote、かきました!よかったら御覧ください