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ドリンクボトルブランド「Simple Modern(シンプル・モダン)」が調達なしで売上300億円規模まで成長したホワイトスペース戦略
最近アメリカでは「bootstrap」と呼ばれる、外部からの資金調達をすることなく自己資金のみで急成長させるブランドが増えている。以前CEREAL TALKでも紹介したTシャツブランドの「True Classic(トゥルー・クラシック)」やシャワーヘッドブランドの「Jolie(ジョリー)」はまさにその筆頭格だ。
これらのブランドが特徴的なのは、資金調達なしでも急激な成長を遂げているという点だ。True Classicは創業から4年で約300億円(2億ドル)、Jolieはローンから二年で約40億円(2500万ドル)の規模へと急成長している。
そんなbootstrap企業の中でも、売上規模約350億ドル(2.5億ドル)と特に急成長を遂げたのがタンブラーブランドの「Simple Modern(シンプル・モダン)」だ。
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CEREAL TALKのPodcastでも以前、Simple Modernの成長を支えたホワイトスペース戦略について解説した。
▼Simple Modernのホワイトスペース戦略についてトークしたPodcastはこちら
今回は、すでにメガブランドがひしめく完成された市場において、なぜSimple Modernが後発で新規参入をしてこれだけ成長できたのか、その戦略を紐解いていきたい。
先行ブランドが確立した市場でホワイトスペースを見つける
Simple Modernの創業は2015年。ウォーターボトルやタンブラーの分野ではスタンレーという老舗が最近のTikTok発のスタンレーボトルのデコレーションブームの追い風も受け、2023年の売り上げは2兆円規模(158億ドル)と圧倒的な地位を確立している。
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また、2006年に創業したYETIも1500億円規模(10億ドル)と、スタンレーとYETIで市場の多くを握っている状態だった。
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すでに完成されたジャンルに思えたタンブラー業界だったが、Simple Modern創業者のMike Beckhamは、スタンレーもYETIも男性向けの色が強く、既存ブランドの主な顧客層は35〜55歳の男性であることに気づく。そこで、女性でも使いやすい柔らかな色味のタンブラーを開発することでタンブラーをアウトドア好きの男性のためのもののアイテムではなく、女性も日常的に使うアイテムとして提案した。
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それまで無骨なイメージがあったタンブラーにカラフルでありながらシンプルなタンブラーの選択肢が生まれたことで、特に子育て世代の女性にヒットし、さらに子ども向けのアイテムへと広がっていった。
ブランドは「for Everyone」である必要はなく、これまで見過ごされてきた一部の層に向けた商品を作ることで、これまでになかった市場を作ることができる。
ホワイトスペースはものづくりだけでなく、流通チャネルにもある
しかし、商品の目新しさによってホワイトスペースを見つけたとしても、あっという間に模倣されるリスクがある。Simple Modernが急成長した背景には、プロダクトだけではなく流通チャネルのホワイトスペースを見出した点が大きく寄与している。
それが当時成長の兆しを見せていたアマゾン・マーケットプレイスへの出展だった。
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アマゾンのマーケットプレイス自体は2000年にローンチされ、Simple Modernが参入したのは2016年とだいぶ後からの参入ではあるものの、当時はD2C全盛期だったこともあり、新興ブランドがアマゾンのマーケットプレイスに参入するケースはあまり多くなかった。
しかし創業者のMike Beckhamは、参入した当初はすでに他のブランドに遅れをとっているのではないか、あと2年早く参入していればと後悔していたというが、2024年現在の視点から振り返るとかなり早い段階での参入であり、アマゾン・マーケットプレイスというプラットフォームの成長の恩恵を受けたことでブランドとしても成長できたと回顧している。
当時はライバルブランドのほとんどは実店舗に卸す戦略がメインで、オンラインに力をいれているブランドがなかったことから、マーケットプレイスを通したオンライン売上の規模の面で既存ブランドを凌駕し、その数字をもとに実店舗での取り扱いにもつながっていったという。
Simple Modernの戦略について解説した投稿の中で、Mike Beckhamは「ホワイトスペース戦略」はものづくりの面に限らず、売り方やチャネルの面からもアプローチできるという考え方を提示している。
既存ブランドが盤石な地位を確立しているように見えるジャンルでも、オンラインやデジタル面で遅れをとっている部分があり、自分たちがそこをカバーできる強みを持っていれば、それも一つのホワイトスペースとなりうると彼は説明している。
立ち上げ当初からライセンスに力をいれていた理由
また、Simple Modernは創業時からライセンスに力を入れていたのも特徴的だ。Simple Modernのローンチ前からさまざまなブランドにライセンス契約を持ちかけ、初期にオクラホマ大学のライセンスを取得し、ロゴを冠した製品を出したことで一気に売上が拡大した。
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その後もSimple Modernはライセンス契約先のIPの幅を広げ、特に子ども向けにディズニーやマーベル、ハリーポッター、スターウォーズといったブランドとの契約によってファン層を広げている。
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Mike Beckhamによれば、こうしたライセンス契約は単に売上を増加させるためだけではなく、ブランドの信頼性を高める効果があるという。人気ブランドとのコラボによってSimple Modern自体の信頼性が高まり、より人気の高いIPとのライセンス契約につながったり、大手小売への卸売契約が取りやすいといった副次的効果も生み出している。
ビジネスはゼロサムゲームではない
Mike Beckhamは、自身の戦略の考え方として「ビジネスはゼロサムゲームではない」」ことを強調している。スポーツの試合のように勝ち負けがはっきりと決まるわけではなく、同業他社全体で業界を盛り上げていくこともできるし、圧倒的に強いブランドが存在していたとしてもどこかにホワイトスペースは存在する。
また、完全に新しいもの、これまで存在しなかったものはそもそも需要が存在していないという可能性もあり、他にないものを作ろうと探し求めるよりも、既存のもので満たされてない部分を、製品やチャネル、マーケティングなどの複数の視点から探ることが重要だと語っている。
D2Cからクリエイターブランドまで、新興ブランドが乱立している今、Simple Modernの「ホワイトスペース」の考え方は今後飛躍的な成長を目指すブランドにとって重要な視点になるのではないだろうか。
(photo by Simple Modern Instagram)
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