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購入後アンケートツール「Fairing」を米国D2Cがこぞって導入する理由

今、ShopifyでECを運営する米国D2Cがこぞって導入しているShopifyアプリがある。購入完了後に自動でアンケートを表示し、結果を集計するサービス「Fairing(ファイアリング)」だ。 ※旧・Enquire(インクワイア)

D2CブランドたちのFairingの使い方はいたってシンプル。購入完了後に「どこでブランドを知ったか」を尋ねるアンケートを表示し、購入者に回答してもらう。その結果をマーケティング予算の配分や顧客理解に役立てている。

たったこれだけのツールが、なぜ米国で人気を博しているのか。その背景にはサードパーティが提供する情報ではなく顧客から直接一時情報を取得しようとする業界全体の動きがある。

「顧客へのアンケート」が盛り上がる背景

ここ数年のD2Cブランドの繁栄を支えたものの一つが、Facebookを始めとした、精緻なターゲティングやトラッキングを可能とする広告プラットフォームだ。しかし、昨年のAppleによるiOSのポリシー変更に伴ってユーザー追跡が難しくなり、広告のパフォーマンス悪化が進行してきている。こうした流れを受け、米国ではサードパーティから提供される情報のみに頼らず、ゼロパーティデータ(自社保有の顧客データ)を組み合わせることを重要視し、取得し始めている。

Fairingでは企業側が自由に質問を設定できるが、ほとんどの企業は「どこでこのブランドを知りましたか?」と認知経路のみを質問している。

ベビーチェアD2C「LaLo」の購入管理画面に表示されるアンケート。右下に「Powered by Enquire」の文字が入っている。

アンケートなので定性的かつ全員が回答するわけではないため正確な結果ではないものの、これまではGoogleAnalyticsで「Direct/none」(経路不明)にカテゴライズされていた膨大な数の顧客の認知経路を理解するヒントとなる。また友人のおすすめや店頭で見かけたといったリアルな場での認知はオンラインでの行動から把握するのが難しいため、オフラインも含めてもっとも投資効果の高いチャネルを知るには購入完了後のアンケートが効果的である。

こうした背景からFairingを導入するD2Cブランドが急増しており、米国のD2Cブランドで買い物をするとFairingを使った購入後アンケートを目にする機会も多い。

管理画面もシンプルなFairing

Fairingは管理画面もシンプルだ。Shopifyにアプリを追加したあとはFairingの管理画面で質問を設定し、有効化するだけでECサイト上に質問が表示されるようになる。

Fairingの質問設定画面。直感的にわかりやすいデザイン。

設問ごとに表示のON/OFFが切り替えられるのはもちろん、表示する対象も設問ごとに新規客のみ、リピーターのみ、全員の3種類から選ぶことができる。認知経路のアンケートは新規客のみに表示しているブランドが多いが、リピーターも含めて購入ごとに毎回質問することもできるし、たとえば前回の購入の満足度を聞くアンケートをリピーターのみに出すといったことも可能だ。

Fairingの質問編集画面。質問順のランダム化や表示対象の選択、表示頻度(回答した顧客には出さないなど)もそれぞれ設定可能。

ただし2022年時点ではFairingで設定できる質問形式はテキスト形式か選択形式の二種類に限られているので注意が必要だ。なお選択形式の質問は、単一回答だけではなくチェックボックスで複数選択の設定も可能。

質問形式には制限があるものの、ほとんどのブランドが認知経路を分析するために利用しているため、選択式以外の質問を用意しているところは少ない。

米で人気の飲料水ブランド「Liquid Death」もFairingで認知経路のアンケートをとっている

さらに選択肢を表示する順番を回答者ごとにランダムで変えられるので、選択肢の表示順によって生じるバイアスも減らすことができる。たとえば「Web検索」、「公式SNS」、「友人からのおすすめ」といった項目を設定しておけば、常に同じ順番ではなく回答者ごとにランダムな順番で表示される。これによって一番上に表示されている項目に回答が集中することを防ぎ、現実との乖離を少なくする工夫がなされている。

Klaviyoと連携させてさらに深い顧客分析も可能

Fairingで取得したアンケート情報は、顧客管理ツール「Klaviyo」と連携させることも可能だ。

Klaviyoの顧客データベースにFairingの回答を統合することで、属性をかけあわせた分析が可能になるのはもちろん、顧客から問い合わせがあった際にFairingの回答をもとに認知経路を把握して回答することができる。

Fairingの回答がKlaviyoの管理画面上に表示される際のイメージ。顧客ごとに流入経路を把握することができる。

Fairing単体の管理画面でも回答率や回答結果の割合、さらには回答者がその直前に行った買い物の合計金額を確認することもできる。
たとえば下記の画像のように、認知経路としては雑誌がもっとも多いが購入額で見るとInstagram経由で認知した顧客の購買単価がもっとも高いことがわかった場合、今後はInstagram施策に力を入れていこうといった判断が可能となる。

Fairingのアナリティクスページ。回答の割合に加え、その回答をした顧客群の平均単価も表示される。

これらの情報もKlaviyoの顧客データベースの情報とつなげることで、単なる購入後アンケートで終わらない新たな顧客分析ツールのひとつとして注目されている。

料金はアンケート表示回数によって変化

Fairingの利用料金は購入後のアンケート表示回数によって変化する。もっともミニマムなプランは毎月1,000回以下で49ドルから。認知経路の質問のみであれば新規顧客の購入完了時のみアンケートを表示する設定が一般的なので、月に新規顧客の購入が1,000件以下であれば毎月6,000円前後のコストで導入できる。

FairingのShopifyアプリページより

どのプランでも利用できる機能は変わらず、プランの変更要素は表示回数のみで一回あたりの質問数にも制限はないが、回答数ではなく表示回数でカウントされるため少ない質問数で多くの顧客に回答してもらうことを目指す企業が多い。
また2週間の無料体験期間も用意されているため、テスト導入して回答率を見ながら導入を検討することも可能だ。

Fairingは購入完了後にアンケート結果を集計するシンプルなサービスだが、Shopifyエコシステムの中で機能させることによってマーケティング予算の配分といった経営判断の材料にもなる強力なツールである。さらに米国ではレビューの収集と活用を促進するツール「Junip」も人気を博しており、サードパーティーから取得する顧客の行動データに加え、顧客の声をダイレクトに収集する仕組みを導入することでフィードバックループを回す流れが加速している。

D2C企業にとって、顧客を理解し素早く改善することは重要課題である。手軽に顧客の声を集め、分析することができる「Fairing」は、これから日本でも当たり前のツールとなるかもしれない。

FairingのShopifyアプリストア

<追記:2022.07.22>
もともと「Enquire」というサービス名で展開していたが、2022年7月22日に「Fairing」へと名称を変更したため、記事中の表記もEnquireからFairingへと修正を行った。 なお名称変更の意図は創業者のブログで詳細に解説されている。飛行機やスポーツカーに使われる流線型の覆い「フェアリング」が環境との摩擦をむしろ追い風に変換しているように、企業と顧客の間に生じる摩擦をなくしなめらかにつなげていくことを目指した名称変更のようだ。



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