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キム・カーダシアンのブランド「SKIMS」が5年で評価額6400億円まで成長したマーケティング戦略

セレブリティが立ち上げたブランドの中でも成功例として挙げられる「SKIMS(スキムズ)」。補正下着から始まったSIKIMSはアンダーウェア、リラックスウェアへと製品の幅を広げ、オリンピックの公式アンダーウェアとしても採用されるなど着実にブランドとしての地位を固めている。

2019年にローンチしたSKIMSは2022年には5億ドル(約700億円)、2023年には7.5億ドル(約1000億円)を売り上げ、直近の評価額は40億ドル(約6400億円)まで成長した。しかもそのほとんどは自社ECからの売上で、直営店舗は2024年6月にジョージタウンに出店し、マイアミ、オースティンの三店舗のみ。

流通チャネルを増やす最近のD2Cのトレンドに合わせてNordstrom、Saks Fifth Avenue、Selfridgesといった百貨店に卸も始めているが、取り扱い店舗は全米でまだ30店舗程度にとどまっている。

つまり、7.5億ドルもの売上を叩き出す規模になってもSKIMSの顧客の多くはわざわざSKIMSの公式ECにアクセスをして買い物をするだけの強いブランド力を持っている。

そのブランド力の裏には、ファウンダーであるキム・カーダシアンのファンにとどまらず、ブランドのファンを増やしていった背景にはSKIMSの巧みなマーケティング戦略がある。


「シンプルでヘルシーな下着」という新しいジャンルを確立

アメリカでは下着といえば長らく「Victoria’s Secret(ヴィクトリアズ・シークレット)」が市場を牽引していた。「エンジェル」と呼ばれるスーパーモデルたちが身にまとう華やかなランジェリーが、下着市場の大部分を占めていた。

しかし補正下着にこだわりを持っていたキム・カーダシアンは、レースや花柄の華やかさではなくボディラインを美しく見せるためのシンプルな製品が欲しいと考え、自分の理想を詰め込んだブランドとしてSKIMSを立ち上げた。

これまでのセクシーなランジェリーとは異なる、機能性や快適性を重視したシンプルでヘルシーなアンダーウェアという新しい路線が若者を中心にヒットし、SKIMSは「Next Victoria’s Secret」と評されるブランドへと成長を遂げた。


人気アーティストの起用でバズを生む

ブランド立ち上げ時の初速は創業者のキム・カーダシアンによる影響も大きかったが、新たな製品ラインナップの追加やキャンペーンに合わせたセレブリティの広告起用がたびたび話題になったこともブランドの成長に拍車をかけた。

パリス・ヒルトンやTikTokerなど話題のセレブリティも起用してきたが、特にバズを生んだのが人気シンガーたちとのコラボレーションだ。

中でも話題になったのがLana Del Reyを起用したバレンタインのキャンペーンだ。Del Reyがコーチェラのヘッドライナーを務めることが決まり、注目が集まったタイミングでの起用だったこともあり、データ会社の Launchmetricsによればそのメディア露出は1400万ドル相当にのぼったと見られている。

また、Del Reyが表現する古き良きアメリカの世界観に合わせたビジュアルを作り上げることで新しいファン層の開拓にも成功し、Del ReyのInstagramでの投稿だけで400万ドルの価値を生み出したとも言われている。

さらに、メンズラインの広告でUsherを起用した際には広告ビジュアルだけでなく、SKIMSのサイト上のみでダウンロードできる限定版の曲を配信するといったコラボレーションも行っている。

こうしたアーティストとのコラボレーションを通して、キム・カーダシアン以外のイメージをつけることによってファン層を広げていった点もSKIMSの成長につながっていると考えられる。

スポーツの公式アンダーウェアとしてファン層を広げる

SKIMSはアーティストのみならず、スポーツの分野でも積極的にコラボレーションやスポンサードをしている。

東京オリンピックに続き、2024年のパリオリンピックでもアメリカ代表の公式アンダーウェアとして採用され、「Team USA」のコレクションを一般向けにも販売。

また2023年にメンズラインを立ち上げると同時にNBAのスポンサーとなり、公式アンダーウェアにも採用。人気選手を広告に起用して話題を呼び、メンズウェアの販売開始時には5分で2万5000件もの注文が殺到し、数百万ドルの売り上げになったとキム・カーダシアンは語っている。

NBAのみならず、女子バスケのプロリーグであるWNBAやサッカーの人気選手もブランドのアンバサダーに起用することで、スポーツ分野での知名度をあげるとともにブランドにヘルシーでスポーティーなイメージを持たせることに成功している。

さらに製品ラインナップも、テニスウェアやスイムウェアなどのスポーツウェア領域へと拡大し、従来の補正下着のイメージの枠を超えたブランドとしての価値を確立しはじめている。

ファン層を広げるためのインフルエンサーの起用

SKIMSの人気はアーティストからスポーツ選手まで、時流に合わせて話題のインフルエンサーを起用してきたところにある。しかしただアンバサダーとして起用するだけでなく、本人のキャラクターとSKIMSの世界観を体現するためのクリエイティブを重視してきたところがポイントと言えそうだ。

その戦略を支えてきたのがブランドのインフルエンサー起用で数々のバズを起こしてきたJens Gredeと、彼の妻でSKIMSの共同創業者でもあるEmma Grede夫妻だ。

Jens Grede(左)とEmma Grede夫妻(Photography by Brad Torchia from Inc.

Jens GredeはMiss Diorのナタリー・ポートマンやH&Mのビヨンセといった話題のキャンペーンを手がけてきたマーケターであり、ブランドのインフルエンサー起用を熟知している。

SKIMSのマーケティングにおいても、新製品の発売やキャンペーンに合わせて世界観に合うインフルエンサーを起用し、クリエイティブを作り上げることで「キム・カーダシアンのブランド」から脱却し、「SKIMS」としてのイメージを拡張させてきた。

インフルエンサーマーケティングやコラボレーションの事例はますます増加しているが、インフルエンサー本人の影響力によって売り上げを伸ばすことだけを目的にするのではなく、インフルエンサーが持つイメージや世界観との相乗効果によってブランドイメージを拡張し、ファン層を広げることがこれからのインフルエンサーマーケティングにおいてますます重要となっていきそうだ。

(カバー画像:SKIMS Officialより)


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