調達なしで売上2億ドルの人気ブランドへ。徹底した利益視点で黒字化を続ける「True Classic」に見るD2Cの新潮流
D2Cのビジネスモデルはもはや一般化し、差別化のために実店舗への卸を始めるブランドも増えたことで、もはや「D2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)」という言葉も形骸化しつつある。また上場した先行ブランドたちも成長が頭打ちになっていることから、D2Cブランドへの投資も減少傾向が続いてきた。
そんな中で立ち上げから4年で2億ドル超の売り上げを叩き出し、今注目を集めているのが、メンズウェアのD2Cブランド「True Classic(トゥルー・クラシック)」だ。
True Classicについては以前CEREAL TALKのニュースレターでも紹介したが、今回はその成長戦略についてより深く紹介したい。
True Classicの設立は2019年。
まず初めにリリースしたのは、シンプルなクルーネックのTシャツのみ。一見何の変哲もないTシャツに見えるが、デザインとフィット感への細かいこだわりが、特に大柄な男性の間で人気を博し、ファーストロットの651点は発売から一ヶ月で完売した。
そこから3年で1.5億ドル、4年で2億ドルと売り上げ規模を急拡大していったTrue Classic。特に驚くべきは、彼らが一度も調達をせず、初年度から黒字で急成長を遂げている点だ。
これまでのD2Cブランドは、VCなどから調達した資金をマーケティングに投下することで売上を増やし、急成長してきた。しかしTrue Classicは30万ドルの資金で始めてから一度も資金調達をすることなく、初年度から黒字化しつつ、成長を遂げてきた。
True Classicが作り上げた新たな成長モデルの裏にはどんな戦略があったのだろうか?
徹底した利益重視の戦略
True Classicを語る上で欠かせないのが、その徹底した利益重視の戦略だ。売上規模を重視するブランドが多い中、True ClassicはDay1から黒字化を目指し、原価率はもちろんのこと、広告ごとに1ドルあたりの利益を算出し、一定以上の利益が出るかぎりは出稿し続け、新規顧客を効率的に獲得していった。
中でも彼らが重視しているのが売上高から変動費を差し引いた限界利益(contribution margin)だ。特にこれまでのD2Cブランドが広告費を先行投資とみなして赤字になってでも多額の費用をかけてきた中、True Classicは広告の費用対効果をシビアに管理している。
例えば、彼らは独自の指標としてROAS(Return of Ads Spend=広告の費用対効果)を「2倍以上」となるように目標設定している。つまり、かけた広告費の2倍以上の売上がとれれば、そのキャンペーンは成功とみなす、という考え方だ。
「Founder Stories: True Classic」では、この「2倍」という数字の根拠も示されている。True Classicでは、売上から原価や支払い手数料、流通コスト、人件費といった様々なコストを差し引いた最終利益が売上の50%となると計算された。そのため、例えば100ドルの売上をつくるためにかけられるコストは50ドルまでとなり、そこが損益分岐点となる。逆に言えば、50ドルの広告費に対して100ドル以上の売上が立つ(=ROASが2倍以上)かぎりは、かけた広告費が利益に直結すると考えることができる。
ただし、この考え方はあくまで初回購入のみにフォーカスしたものだ。True Classicの主力製品はTシャツやアンダーウェアといったリピート購入が多いアイテムであるため、初回購入ではほとんど利益が出ずとも、後からほとんどマーケティング費用をかけることなく利益が積み重なっていくモデルとなっていく。顧客のLTVやメールアドレスの資産価値まで鑑みて、初回購入のROASの目標数値を作っている。
このように、売上の構成要素を細かく分類し、試算し、広告費のかけ方を戦略的ににコントロールすることで、赤字を掘ることなく利益の出る事業を作り上げてきたのがTrue Classicというブランドの強みである。
また、売上高250億ドルの規模でありながら、従業員は50人ほど(2023年4月時点)というスリムなサイズ感もTrue Classicの特徴だ。売上高1億ドルを超えた企業は600人、800人、時には2000人もの従業員を雇っていることを考えると、一般的な企業の1/10以下の人数で回していることになる。
これだけ小規模な人数で運営している背景には、創業者であるBartlettの利益確保への並々ならぬ情熱がある。
まずはソフトウェアで解決できないか模索し、その後にフリーランサーやエージェンシーへの外注を行い、どうしても外注では賄いきれなくなったタイミングで採用を行う。True Classicの徹底されたスリムな組織運営もまた、規模の拡大よりも利益を重視する企業風土から生まれたものだ。
Facebook広告の最適化
True Classicの成長要因として欠かせないのが、Facebook広告の存在だ。2023年4月のインタビューでも、いまだにマーケティング予算の70%をFacebook広告に費やしていると語っている。
彼らがFacebook広告のみに注力したのは、創業者の一人であるBen YahalomがFacebookでDisruptors programを担当していた影響が大きい。Disruptors programは、急成長しているブランド80〜90社をFacebookが選出し、広告の最適化を支援するプログラムだ。日本では展開されていないが、アメリカ以外にもいくつかの国で実施されている。
こうしたFacebookからの支援と、Facebook広告に深い知見のあるBenの手腕によって、True Classicは急激に売上を伸ばしていった。
特に立ち上げ初期のFacebook広告の貢献は大きかったようで、Facebook広告がなければ数年で売り上げの1億ドルを超えるほどの成長は見込めなかっただろうとBartlettは語っている。
True ClassicはちょうどiOSのトラッキング防止機能強化直前に急成長したため自分たちを「ラッキー」としながらも、現在も潜在顧客の獲得のためにはFacebookのAIターゲティングは有効であるという。
ただしあくまで費用対効果をシビアに見極め、広告費1ドルあたりの利益が一定水準を超えるかぎりは出稿し続けるという戦略をとっている。True Classicは創業当初から売り上げ規模ではなくユニットエコノミクスを重視しており、広告費として支払った金額に対してどのくらい売り上げとして戻ってくるかを細かく把握、管理している。
Webマーケティングでは当然のセオリーではあるものの、True Classicはこうした地道な積み重ねが飛躍的な成長を生んだ例と言えるだろう。
True Classicの出店戦略
当初は自社ECのみで販売していたTrue Classicだが、2022年には5店舗をオープン。2024年の現在は7店舗まで増加している。
しかし常設店舗の出店においても、True Classicらしい係数管理が行われている。まず、実店舗はオンラインではリーチできなかった新規顧客の獲得の場と捉え、オンラインの新規顧客と同様、コストが利益を上回らないことを前提としている。店舗でサイズ感や色味を確認して一度購入した顧客は、その後オンラインでリピート購入する可能性が高いからだ。
その上で、店舗コストの大きなウェイトを占める賃料に関しては、メーリングリストに登録している顧客の居住地などを参考に、潜在顧客が多く賃料が少ないエリアを見極めて出店している。
D2CブランドはフラッグシップショップをNYやLAの一等地に出店する傾向があるが、True Classicはそうした大都市には出店せず、シカゴやテキサス、フロリダといったエリアから出店を進めている。
ブランディングとしての出店ではなく、あくまで顧客に届けるチャネルとして捉え、オンラインと同様にその費用対効果を厳密に計算する姿勢もまた、True Classicらしさを作り出している。
D2Cブランドの調達が難しくなったことで、True Classicのように外部資金を入れず事業の黒字化によって運営する「bootstraps(=自助努力)」と呼ばれる企業も増えてきている。
創業者のBartlettも、Reatail Brewのインタビューで将来的にTrue Classicと同じような戦略をとるブランドが増えるだろうと話している。
売上規模ではなく利益を重視して堅実な財務体質を作ること、そのために費用対効果をシビアに見て利益水準を死守すること、といった流れが、次世代のD2Cでは当たり前のセオリーとなっていきそうだ。
(カバー画像:True Classic official blogより)
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