【現代アート⑥】ジャクソン・ポロック|酒と破滅のアーティスト
その男は、酒に溺れ、タバコを咥え、吐き気と煙の中で絵と向かい合っていた。
破滅的で、それでいて最低なほどにイカしてる。
ジャクソン・ポロックは、アメリカを代表する偉大な画家の1人である。
アルコール依存症に苦しみながらも、彼は闘志を燃やしていたのだという。
「オレはピカソを超えてやる……!」
体内にたっぷり染み込ませたアルコールランプには、そんな野望の炎が灯っていたのだろうか。
しかし、しばしばポロックの絵は理解されづらいことがある。
巨大なキャンバスに絵の具を散らすように描くアクション・ペインティング
彼のその斬新なスタイルが、理解しづらい原因だろう。
今回は、そんなポロックと、彼の画風について語っていくことにしたい。
ちなみに僕は、お酒に酔っ払うと、黙ってひたすらにおしぼりでテーブルを拭き続けるタイプである。(では行こう)
❶アクション・ペインティングとは
絵画とは何か。そんな素朴な問いに、これまで多くの人は、
「画家の思想を描いたもの」
と、こんな風に答えてきただろう。
実際に、ヨーロッパの伝統的な絵画観念としては間違いではない。
しかし、第二次世界大戦後、アートシーンの舞台がアメリカニューヨークに移ると、これまでの固定観念を大胆なほどに破壊する潮流が生まれた。
それが抽象表現主義である。具体的な具象を描くのではなく、抽象的な内面の発露、もしくは「描く」というプロセスそのものに価値を見い出す。
そんな抽象表現主義の代表例がポロックのアクション・ペインティングである。(そう、絵の具べちゃべちゃアートと揶揄されるアレのことだ)
アクション・ペインティングでは、画家は体全体を大きく動かし、巨大な猛獣と対峙するかのようにキャンバスと向かい合う。
そんな彼の姿はきっと誰よりも勇ましく、力強い感情の発露そのものであったに違いない。
もはや、彼が手に持っているのは、筆というよりただの棒で、
絵の具を漬けては、垂らしているようなものである。
もちろん、そうして出来上がった作品は燦然と輝きを放っている。
しかし、重要なのは完成品だけではない。
アクション・ペインティングの生き生きとした表現のプロセスこそが、大戦後の疲弊した人々を惹きつけたのだろう。
そして作品は、凄まじくビビットな生命力の痕跡として捉えられよう。
ちなみに、ポロックのアクションペインティングの特徴をまとめた文献を見つけたので、ここに引用しよう。
ポロックは床に置いたキャンバスに絵の具を滴らせる「ドリッピング」、流し込む「ポーリング」という技法を確立させました。
一見無秩序に見えるこれらの技法は、実際には一定のリズムで描かれています。
意識的に絵の具の垂れる量や位置を完璧にコントロールし、筆は筆としてではなく棒として用いているとポロック自身が語っています。
ポロックのアクションペインティングはどの箇所を切り取っても均一に描かれ、中心と周縁、焦点の差がないのが大きな特徴です。
この様式をオール・オーヴァーと呼びます。
This is Media『ジャクソンポロックとは?壮絶な人生と代表作10選』
では、戦後に圧倒的な指示を得た抽象表現主義(アクション・ペインティング)を牽引したジャクソン・ポロックとはいかなる人物だったのか。
彼の素顔に迫りたい。
❷酒と破滅のアーティスト
アルコールとは、僕らに快楽を与えると同時に破滅への扉でもある。
きっとどこまでも快楽と破滅は切り離せなくて、何事においても両者は表裏一体の関係にあるのかもしれない。
ポロックも、アルコールの快楽と破滅を経験した人物であった。
彼は極度のアルコール依存症であったという。
一度はアクション・ペインティングに集中するために断酒をしたものの、また飲酒生活に戻ってしまう。
彼は戦後の抽象表現主義のトップとして走り続けていた。
ゆえに、そのプレッシャーも測りきれない。(僕らは慮ることしかできないのだが)
酒で入院と創作を繰り返していたポロック。
ついには、酒を飲むうちに酒に飲まれてゆき、それは破滅への足音でもあった。
次第に作品の発表は少なくなり、最期に彼は飲酒運転で事故を起こし死んでしまったのである。
44歳という若さであった。
❸ポロックの代表作
No.5, 1948
五尋の深み
ブルー・ポールズ:ナンバー11, 1952
ワン:ナンバー31
終わりに
人を勇気づけることは、往々にして自身の魂をすり減らすことに繋がっていたりする。
誰かのことを思う反面、自らの幸福は疎かになる。
もしくは、夢中になることで自分の体を案じることさえ忘れてしまうことだって。
ポロックがなぜあれほどまでに悲惨な最期を遂げたのかはわからないが、彼の残したアートと彼の自身の生き様はまさに伝説としか言い表しようがない。
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