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厳罰だけでは解決しない:裾野保育士を巡る報道のネット世論に対する違和感

中川淳一郎の本で「ウェブはバカと暇人のもの」という本があるのですが、2009年に書かれた本ながら、ツイッターの本質としては正にその本に書いてある通りのことが繰り広げられております。
裾野市の保育園で行われていた虐待事件を巡り、ネットの声と言うのを見ると、殆ど厳罰をしろというものばかりで、見ていて違和感しか感じないものでした。
恐らくマスコミとしては「売れるから取り上げてる」事件ですが、福祉業界全体というものを見ますと、介護では今や高齢者虐待は珍しいものではなくなっております。
言ってしまえば相模原やまゆり事件から裾野保育児童虐待事件は「結果だけを見れば」別々の事件ではありますが、個人的には地続きで考えています。

🗞マスコミはあくまで「結果」しか映さない

さて、件の保育士に「厳罰をしろ」と言っているネット民達は何をみて「厳罰をしろ」と言っているのでしょうか。
言うまでも無くマスコミの報道を見て発言しています。これまたツイッターでは「マスコミの偏向報道」がどうのこうのと言う人間が多いのですが、そういう人は基本的にマスコミ依存です。

マスコミの報道を見る時に気をつけないといけないことが1つあって、それは「マスコミの報道はそもそも熟考には向かない」ということです。
というのも、マスコミに対して第一義的に求められるのは速報性です。残念ながら今も「汎用的な情報を入手するスピード」という点に於いては、マスコミより早く情報を入手できる存在はいません。
専門的な分野についてはまた別です。
逆に言いますと、マスコミの場合は速報性が求められるが故に、基本的には「結果」しか映しません。そのコンテンツがもう少し継続して金になりそうな状態の時は深堀することもありますが、基本的には速報性がマスコミの得意分野のため、深堀りするにはビジネス誌を読んだり、そこに至る背景を想像しながら自ら情報を取ってくることが必要です。

🧶貴方は介護士や保育士になりたいですか?

裾野市の保育士による児童虐待事件に関しては、前回も書いたように、起きたことに何ら意外性を感じてませんし、何なら今まで起きなかったことの方が不思議に思っています。

前回は賃金について触れました。でもこう書くといるんですよ。
「賃金が安いから不正をしたというのは他の同程度の賃金で真面目に働く保育士に失礼だ」と言う人がね。
でも、件の事件を起こした3人の元保育士ももしかしたら「かつては真面目に働いていたかもしれない」のです。これは本当にマスコミの報道だけではわかりません。
但し、今の日本には「真面目に働いていた介護士や保育士を腐らせる要因」というのは存在します。

夏に炎上した就活サイトの底辺職業ランキング、覚えていますか?
この底辺職業の中には見事に保育士も入っています。
そして、普段みんな口にしないだけで、心のどこかで「そう思っている」わけです。
これも何故炎上したのかわからないんですが、恐らく底辺職業として書く対象が医者・弁護士・商社マンとか書いたら見向きもされなかったでしょう。
しかし、改めて言いますが、この時に正義を振りかざして正論を言った人達に「貴方は介護や保育の仕事をしたいですか?」と訊いたら、恐らく首を横に振る人が大半になるでしょう。

💰仕事に誇りを持つのに給料は重要なパラメータです

ところで介護士や保育士が底辺職業に入っている反面、看護師は入っていません。
介護士、保育士、看護師には「他人の世話をする」ということが共通しています。
「他人の命を預かる」ということも同一です。介護と看護は一部作業内容も近い部分はあるのではないでしょうか。
でも看護師は底辺と言われることはあまりありませんね。
それは年収を見ればわかります。看護師は40歳の平均年収は500万弱となかなか高いのです。
介護士や保育士は看護師と比べると、年収が150万円ほど安くなります。
特に保育士は公務員保育士と民間保育士で給料に落差があるようです。

年収=人としての価値では無いとは綺麗事としてはよく言われます。
しかし、資本主義はそのようにできておりません。資本主義における人間の価値は年収です。そのため、年収が高い人は自尊心を保ちやすく、低い人は持ちにくい仕組みと言って良いでしょう。

同時に資本主義としては歪なものが、介護報酬や保育の報酬です。
民間事業者として参入するには、報酬上限がネックになるわけです。
すると必然的に零細企業は介護士や保育士の給料を上げられず、それは不正の「動機」になります。

ダン・ケネディの本では「世の中に善良な人は5%しかいない」と言ってましてね。
95%の人間は条件が揃うと不正な行為をするという前提に立っています。
そして「平均以上の賃金を出して結果を求めろ」と言ってるわけですが、これはどんな業界にも当てはまります。

職業人としての誇りを持たせるには、やはり賃金は重要なのです。
IT業界でブロードリンクHDD転売事件が起き、さぶれSMBCソースコード流出事件が起きたように、介護や保育の世界でも当てはまる話です。
そして裾野市の児童虐待をした元保育士という「悪を裁いた」ところで、根本的な歪は全く解消されておりません。
尤も、75日もすればまた、人々の記憶から消えていくでしょうから、また同じような事件は日本のどこかで起こるでしょう。

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