中野セルリ

お酒のあてには セロリの浅漬け.それから,痛む記憶へ となえるような,こんな話を 書いてしまう.| #文章 と #創作 | #物語 の全文は #note に収録

中野セルリ

お酒のあてには セロリの浅漬け.それから,痛む記憶へ となえるような,こんな話を 書いてしまう.| #文章 と #創作 | #物語 の全文は #note に収録

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  • 固定された記事

Profile. ・自分をなだめる言葉を となえるつもりで 書いている ・コミュニケーションは(今は)とても苦しい ・創作が続くうちは まだ耐えてるってこと ・深刻な複数の傷が いつか癒えたらいいと願う (ここはその時々で書き直すよ)

    • 『見えない画廊』

      『見えない画廊』 ブランケットの形をしていた。 風が、窓から入り込んで、優しく肌に触れていた。 その感触に、私は覚ました目をもう一度閉じた。 風は吹いているだけ──なのに、 閉じた瞳の裏に、何かがある気がしたのだ。 こんな風に目を閉じると、浮かんでくる形がある。 四角くて、冷たくて、動かない。 どこから来たのか、いつからそこにあるのか、 思い出させてさえくれない。 ただ、長い間、そこにあって、 私と一緒に、長く、長く、それはとても長く、あったことだけは確かなのだ。 窓枠

      • 『青の裂け目』

        『青の裂け目』 1. 青が床に落ちた。 風がそれを拾い、無言で壁に投げつけた。 小さかった部屋は、いま、海に面していた。 海は息を潜め、どこまでも広がっている。 岬の灯台で、誰か、誰か、誰かが、 時間の針を逆さに回すように、灯台の光を 回転させていた。 2. 壁だった向こうから寄せる波が、白い波頭を寄せる。   空から続いている暗い何かは、足元にまで転がってきていた。 彼女の影は影のない場所に座り、風が無言でその砂を撫でる。   息が漏れた。 それは誰か、誰かの

        • 『白く景色は』

          『白く景色は』 雪のように、思い出がしんしんと降り続ける中、彼女はエンジンを止めた。 心の中で、何度目かの冬だった。 もう進むことはできないという、確信めいた思いが、胸に重く降り積もってきた。 溶けない雪のような何かが、彼女には、絶え間なくのしかかってきたのだ。 車のドアを開けると、ちょうど一人ぶんの隙間だけ押し広げることができた。 彼女の心の雪原は、車の外にさえ広がっていた。 乗り捨てた車は、彼女そのものであるとも言えた。 バースデー・ケーキを入れていた箱。 偶然拾っ

        • 固定された記事

        Profile. ・自分をなだめる言葉を となえるつもりで 書いている ・コミュニケーションは(今は)とても苦しい ・創作が続くうちは まだ耐えてるってこと ・深刻な複数の傷が いつか癒えたらいいと願う (ここはその時々で書き直すよ)

          『残された夜と 残す影』

          『残された夜と 残す影』 わたしの頬を、夜の風が撫でて吹く。頬が、苗でも植えられたように、ふるえてしまう。 夜空は割れた陶器になって、耐えられなくなった破片から、小さく星になって降っていく。 ひとつひとつの硬い破片が、硬い音を立てて、どこかの屋根に落ちる音を聞いている。 濡れているのは、頬だけで、何か育つとすれば、そこだけで、だから夜風は何かを植えていくのだろうと思う。 地面までの距離がわからない。 誰かが忘れていったか、それとも残していったか、何かしらの記憶の断片が

          『残された夜と 残す影』

          『箱の家』

          『箱の家』 入り口はあったはずだ、と思う。   なのに、この部屋を出ることができないでいる。 部屋には、白と黒の箱があって、不規則に並んでいる。   いくつかは宙に浮いていて、その前に立つと、古い木の匂いが、ぼくたちの鼻先で円を描くように光った。 ぼくたちは箱をとることに決めた。手で触れると、ひんやりとする。   ぼくたちの中の誰かが箱を開ける。空っぽ。そして空虚は、手のひらからすべるように腕を遡って広がった。   そしてぼくたちの中から、誰かがいなくなった。 ぼくたち

          『落ちない月のこと』

          『落ちない月のこと』 ソメイヨシノとか菖蒲の花とか、あんな彼岸花の列なした赤い土手の道、 花ってみんな、一つ残らず落ちるんだけどさ、 通学駅から家までの途中、高い橋を渡っていた時、左の手首に巻いた時計が笑い出したように回り始めた。 街灯は少なくて、次の明かりは、古いセブンイレブンだったかもしれない。だけど、そんなの大したことじゃなくってさ。 なんの話だっけ。 そうだ、夜の駐車場だよ。客とか一人も居なくって、誘蛾灯に飛び込んだ何かが、弾けるように焼けて死ぬ音がしている。

          『落ちない月のこと』

          『ガラスの夜と水銀の月』

          『ガラスの夜と水銀の月』 これはガラスの夜。 壊れた星々が床に転がり、どこかの猫が爪先で拾い集める。街灯は蒸気の衣をまとい、透明な羽を広げた蝶のように揺れていた。 それにあれは水銀の月。 影はメタリックな光を持ち、路地を重く流れる。ここでは影も話を避け、夜の沈黙を守り、最終電車も一つ前の町で運行を止めてしまう。 到着の契約を一つ失った駅のプラットフォームには、小さな貝殻がひとつ引っかかって残っていた。 君が貝殻に耳を当てると、遠い海の音が聞こえた。 でも遠すぎて、どの時

          『ガラスの夜と水銀の月』

          『どこまでも下る階段』

          『どこまでも下る階段』 下っても、下っても、どこまでも続く非常階段を降りていた。 階段は次第に霧に包まれ、降りて行くほどに視界が失われつつあった。 明けを待つ街の色が変わっていた。 例えば、鮮やかなネオンから、点々と残る航空障害灯に。あるいは、強いブルーの誘導灯から、黄緑に色の褪せた街灯へ。 霧は、そんな街の色を吸い込んで、階段の色を変えていった。 最下段は、まだずっと先のようだった。が、途中に扉を一つ見かけた。 開けようか、それともさらに下ろうか迷った。 街明かりは

          『どこまでも下る階段』

          『閉じたまぶたの外にある話』

          『閉じたまぶたの外にある話』 真夜中の荒野の真ん中に、一台のピアノが置かれていた。弾く者もいないのに、静かに音が流れていた。 今夜の満月が、雲の切れ間から覗く片目のように見下ろしていた。それが荒野のピアノや、枯れかけた草の陰を作っていた。 息の長い風が砂を巻き上げ、音は砂塵か、根無草か、もうここにない記憶と共にどこかへ行きたがっていた。けれど音はピアノを置き去りにせず、月光の範囲を出ることはなかった。 乗る者のない自転車が、ピアノを遠巻きにして走る。それはゆっくり、と

          『閉じたまぶたの外にある話』