『青の裂け目』
『青の裂け目』
1.
青が床に落ちた。
風がそれを拾い、無言で壁に投げつけた。
小さかった部屋は、いま、海に面していた。
海は息を潜め、どこまでも広がっている。
岬の灯台で、誰か、誰か、誰かが、
時間の針を逆さに回すように、灯台の光を
回転させていた。
2.
壁だった向こうから寄せる波が、白い波頭を寄せる。
空から続いている暗い何かは、足元にまで転がってきていた。
彼女の影は影のない場所に座り、風が無言でその砂を撫でる。
息が漏れた。
それは誰か、誰かの、いや、この日この夜を知っていた誰かの
青暗い息だと、その息が言った。
3.
夜が海を見下ろしている。
青い煙が空を横切るたび、波は小さく笑う。
足音はどこにも響かず、風は何度も渡る。際限なく渡る。
本来ないはずの水平線から、毎日を過ごした部屋の足元へまで。
4.
やがて空は斜めに裂け始めた。
海はその裂け目に指をかけるように、波を引っかけて
夜を引きづり込む。
溺れていく誰かの声だけが宙に浮く。
風がそれを背中で聞きながら、場を後にした。